少年期[469]そこは一緒

(そうだよなぁ~~。ゼルートは一人で悪獣を倒したんだ。冒険者や騎士の中で飛び抜けた実力を持っている奴でも殆ど勝率はゼロに近い)


Dランクの冒険者が悪獣を単独で倒した。この話を信じる者は殆どいない。

同じ同業者は勿論、貴族や兵士に騎士、傭兵等の戦闘に関わる事が多い者達は盛り過ぎた話と切り捨てる。


一般市民達も同じような反応になる。

ただ、ゼルートの戦いを見た者だけがこの話を信用出来た。

中には完全に信じ切れていない者もいるが、ゼルートならば出来るかもしれないと心の中では思っている。


「ゼルート、冒険者をやっていて楽しいか?」


「また唐突な質問だな。楽しいに決まってるだろ。だからこうして冒険者を続けてるんだし」


「……具体的にはどの辺が楽しいんだ?」


「随分深く訊くんだな。ん~~~……ダンジョンに潜ったり武器屋や防具店で珍しい武器を見つけたり色々とあるけど、やっぱり仲間と一緒に依頼や冒険を達成して、その後に美味い飯を食べる。その流れが一番楽しいんじゃないか?」


その答えにデックはやっぱりゼルートも同じ冒険者なんだと感じた。


何を目指して冒険者として活動しているのか。

それは個人によってバラバラだが、一番楽しい瞬間はゼルートと同じく依頼や冒険を終えた後の美味い飯、それにプラスして酒だと答える。


「安心したよ。お前もちゃんと冒険者なんだな」


「何を安心したのかは分からないけど、俺を戦闘狂と一緒にするなよ。戦う事が嫌いって訳じゃないけど、日常的に戦いを求めてはいない」


「そうか。っと、どうやらお客さんみたいだな」


二人の前に現れたのは鹿の魔物、チャーディル。それが二頭。


「お互いに一匹ずつ相手をするで構わないか?」


「あぁ、問題無い」


既に二人を獲物と定めたチャーディルは殺意を露わにし、それに負けじとデックとゼルートからも戦意が漏れ出す。


「さぁ……自慢の突進で倒しに来ないのか?」


ランクDの魔物であるチャーディルだが、威力をため込んだ突進はCランクの魔物の攻撃に匹敵する。

ゼルートのニヤけた表情を見て自信を嘗められていると感じたチャーディルは後ろで地面を蹴り続ける……ことは無く、いきなりゼルートに向かって走り出した。


「嘗めた表情しといてあれだが、随分と短気な奴だな」


ゼルートとチャーディルの距離はそこまで遠くは無く、最高速まで加速するには距離が足りない。

それでもゼルートに攻撃しようと下から角で勝ちあげようとするチャーディル。


「ッ!!!!????」


「どうした、自分のかち上げで俺みたいな小さい奴が吹っ飛ばなくて驚いてるのか?」


しかしチャーディルのかち上げはゼルートに両角を掴まれて止められてしまった。

それどころか、徐々に地面に向かって押されていく。


「もうっと力を溜めて掛かってこいよ」


そう言いながらゼルートはチャーディルの顎を蹴り上げる。


一瞬で目に映る光景が変わり続けるも、なんとか地面に着地した。

だがチャーディルの頭は以前、混乱し続けている。


何故自分より小さな相手が自分の攻撃を止め、反撃できたのか。

ゼルートにどれ程の力があるのか正確には解らなかったチャーディルだが、全力で仕留めに行くことに決める。


そしてチャーディルの決め手である極限までチャージした一撃。

後ろ脚で何度も地面を蹴り、溜めて溜めて溜めまくる。


そして血管が目に見えて分る程膨らんできたタイミングでゼルートに向かって突進。


「よっしゃ来い!!!」


チャーディルの渾身の一撃に対してゼルートは避けようとせず、どっしりと構えて角を掴もうとする。


そんな奇跡は二度と起こらないと言いたげな表情をしながらチャーディルは吼えた。

だが結果は残酷なもので、再びチャーディルを混乱させることになる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る