少年期[403]似合ってはいるが

礼服に着替え終えたゼルートは鏡で自身の姿を見る。


「う~~~ん・・・・・・相変わらず馬子にも衣裳って感じだな」


「馬子にも衣裳という言葉は解りませんが、私はゼルート様の礼服姿は先程とはまた違った雰囲気をを醸し出していて良いかと思いますよ」


従業員の白々しくない褒め言葉に多少だが機嫌を良くするゼルート。


(確かにいつもとは違う雰囲気なのかもしれないな。とりあえず何着か買っておくか)


従業員が持って来た三着を全て買うと決め、それを伝えたゼルートはアレナとルウナの所へ向かう。


「お邪魔しまーーす。ってなんで二人共男の礼服を着てんの?」


ゼルートの目に移ったのは男の礼服を着ているアレナとルウナだった。


「だってこの服は戦う事を前提にした物じゃない。それなら戦いやすい方の礼服が良いなと思ったのよ」


「私も同じだな。というか、存外こちらの方が似合っていると私は思うんだが」


「いや、まぁーーな。確かに似合って入るけどさ」


二人は完璧な男装麗人という外見ではないが、それでも女性から見れば下手な男よりもカッコ良く見える。


「でしょ!! ならこれで良いと思うのよ」


「わかったわかった。お前らがそれで良いならそれを買うよ」


二人の予備用の礼服も含めて合計九着を買う事にお値段はゼルートの予算通りの約金貨六十枚。


「お前ら、本当にあれで良かったのか?」


店から出たゼルートは時間潰しに街をプラプラと歩きながら二人に再度確かめる。


「勿論よ。だって今回はただお茶会に参加するだけでしょう。それに私達は基本的に喋る事は無いんだろうから、聞かざる必要は無いのよ」


「私もアレナと同じ考えだ。あまりヒラヒラとしている服は合わないからな」


「そうですか。ならもう何も言わないよ」


ゼルートが少し呆れた様子で溜息を吐くと、いつの間にか冒険者ギルドの近くまでやって来ていた。

すると演習場の方から二つの怒号が飛び交う。


「喧嘩か何かか?」


「声からして二つとも女性の声だったわね」


「覗いて行くか?」


ルウナからの提案にゼルートは面白そうだと思い、ギルドの中へと入る。

そして早足で演習場へと向かうと、そこにはゼルートがレストランで食事をしている時に話しかけて来た赤竜の宴に所属するデーバックの後ろに付いていた女と、ゼルートとシーナの代理決闘をライオットと一緒に見に来ていたメンバーの一人の虎の獣人女性が言い争っていた。


飛び交う怒号の内容を拾った結果、どちらのクランのリーダーが強いかという事で言い争っているという事が解った。


「こういう事って冒険者の間ではよくあるのか?」


「人気のある受付嬢の取り合いとかでは良くあることよ。そして今回みたいなケースも稀だけどあると思う」


「尊敬している人が馬鹿にされればあそこまで熱くなるという事もあるだろう。既に一触即発といった雰囲気だからな」


ルウナの言う通り、既に両者の拳が飛び出そうなほど雰囲気は荒々しくなっている。

そこで妙案を思い付いたゼルートは傍に居た同じ野次馬の三十代半ばの男に声を掛ける。


「おっちゃんおっちゃん、ちょっといいか」


「なんだよ坊主、今丁度良いところなんだぞ」


「これ渡すからさ、・・・・・・って言ってよ」


ゼルートの掌には銀貨が一枚。


「ほほぅーーー。坊主ぅーーー、中々世渡り上手じゃねぇーーーーか。よし、それぐらい任せとけ」


男はゼルートから銀貨を貰い、大きく息を吸う。


「ゼルート、あなたこの人に何を吹き込んだの?」


「単純な事だよ。見てりゃ解る」


男は周囲のヤジを掻き消すほどの声をとばす。


「そんならここで代理決闘をすりゃ良いんじゃねぇーーーのか!!?? 冒険者なら口じゃなくて自分の得物で語れよ!!!!!」


男が声を上げて一拍置くと、周囲の冒険者達は男の声に同調。


二人は完全に引くに引けない状態となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る