少年期[398] そうすればもしかしたら

自身のクランの冒険者を負かした相手に礼を言う。

その行動に反射的の答えてしまったが、頭の上にはハテナマークが幾つも浮いていた。


(なんで俺はライオットさんから今回の決闘の件について礼を言われてるんだ? 普通に考えればシーナが負けた事で強獣の精鋭名に傷が付いたと恨むところだと思うんだが)


恨まれこそすれ、礼を言われる覚えは無かった。


「まずは最後にシーナの魔力が尽きた後、態々崩拳を使って倒してくれたことだ。場外、気絶などで負けるならまだ良いが、魔力切れで降参というのは体面的に良くない」


「あ、ああ。そこですか。何と言いますか、今回の決闘に関してそこまで興味は無かったんですけど、思った以上に楽しめたので一応という事で」


「そうか。後でシーナに伝えておこう。君にそう言われればあいつも喜ぶだろう」


ただ代理決闘をしただけでそこまで中が深まっておらず、大して会話もしていないのに何を喜ぶのかゼルートにはいまいち解らない。


「そして二つ目だがシーナはDランク帯、しかも王都に在籍している冒険者の中だけとはいえ、実力だけを考えればCランクに届いている。にも拘わらずあいつは慢心せずに日々努力を怠らない」


いきなり娘の自慢話の様な話が始まるが、ゼルートはそれに突っ込まず話を聞く。


「だが少し退屈そうな表情をする時がある。クラン内の冒険者やシーナの知り合いの冒険者や友人の中にはシーナより強い者は多々いる。そういった相手に尊敬の念は抱いているが、あいつにはライバルと呼べるような相手がいなかった。接近戦が得意なルーキーであってもシーナの全速力には敵わないからな」


(そりゃそうだろうな。俺もそこまで多くのDランク冒険者に会ってきた訳では無いけど、あの速さはスキルを重複して発動したとしてもちょっと以上だ。レベルが俺の方が上で素の身体能力も上だったからそこまで苦戦する事は無かったけど、もし同じレベルだったら疾風迅雷を使わないと余裕はない)


ゼルートはもしかしたら足の筋肉が他と比べて発達しているのかもしれないという考えに至った。


「シーナがゼルート君をライバルと認識したのか正確には解らないが、それでもこれから退屈を感じさせるような目はしないと断言できる」


「そ、そうですか。お役に立てて何よりです」


圧倒的なオーラを放つライオットにゼルートは終始敬語が解けない。

これが普通なのだが、通常時は相手が年上であろうと公の場でなければ言葉が軽くなる。


「・・・・・・一つ訊くが、ゼルート君自身がクランをつくる気はあるか?」


「お、俺がですか? 今のところ全くそういった予定は無いです。仲間たちと一緒に自由気ままに冒険を楽しむつもりなんで」


「うむ、それが冒険者のあるべき姿と言えるだろう。しかしゼルート君は勿論だが、仲間のアレナ君やルウナ君に従魔達も平均と比べて頭が三つほど抜けた強さを持っている。正直そんな集団を自身のクランに入れたいと思うのはごく当たり前の事だ。だが、クランをつくってしまえばそういった勧誘もなくなる・・・・・・筈だ」


行き過ぎた勧誘を行うクランを知っているライオットは断言する事が出来なかった。

しかしクランをつくれば他のクランからの勧誘が減るのも事実。


(ただ、複数のクランを傘下として従えているクランがあるのも事実だ。その辺りの可能性を考えるとクランをつくったくらいでは収まらないか?)


ライオットは頭の中でどうイメージしても、ゼルート達に対して勧誘が収まる光景が浮かばなかった。

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