少年期[393]こいつも枠に収まらない

開始の合図と共にまずはシーナがその場から駆け出す。

躊躇無い一閃。


風を切り、狙うは人体の急所。

レベル差が無い冒険者がまともに喰らえば大怪我、ってレベルでは済まない致命傷。


だがそんな一閃をゼルートは躱す。

特に予測する事は無い。出方を見てから避ける。

確かに速い。だが、そこに技術は入っていない。


(そこまで到達してるんだったらもっと俺にレベルが近い筈だ)


鑑定眼は使っていない。しかしゼルートはシーナのおおよそのレベルが解った。


(素の身体能力から考えて十後半から二十前半か)


初撃を躱されたシーナは特に驚く事は無かった。

手を握った時から解っていた。


自分よりも長い間訓練を重ね、戦い続けた手だと。

それでもシーナは連続で突きを繰り返す。

全力を出している訳では無い。しかし何かを確認するかのように頭や腹部、腕に肩を武器を狙う。


(完全に私の攻撃が見えている。後から反応して躱している。恐るべき反応速度だ)


確認を終えたシーナは一度後方へ大きく下がる。


(さっきより速くなるな)


身体強化のスキルを使ってくる事が予想出来たゼルートは先程よりもシーナの動きに注目する。


そしてもう一度、全力を踏みしめて駆け出す。

その速度は、ゼルートの予測を少々上回っていた。


「ッ!!」


明確に貫く意思が乗った一閃。

それに反応が遅れながらもゼルートは首を傾げて避けた。

だが先程までとは空を切る音が違った。


(こいつ、本当にDランクになって一年しか経っていないのか? 明らかに身体強化のレベルが他と違う)


自身もDランクの枠に収まっていない力を持っている自覚はある。

だがそれは目の前の冒険者も同じなのではと感じた。


まだゼルートは一度も攻勢に出られておらず、シーナの連撃が続いている。

その状況に生徒達の中ではシーナを応援する声が大きくなっていた。


人間、事前に情報が入っていたとしても、熱くなってしまえば目の前の状況を現実だと信じてしまう。

しかしゼルートと戦っているシーナは自分が全く優勢だと思っていない。


(身体強化のスキルを使ってもこれほどまでに余裕な表情で避けられるなんてね。ビックリしてくれたのは最初だけのようね)


ゼルートが認める様に、シーナは身体強化のスキルの錬度には自信があった。

素の身体能力から身体強化を使った速度の差に大抵の冒険者や魔物は驚いた表情をし、そこから自分のペースに戦いを運べていた。

しかしゼルートの表情は直ぐに元に戻っていた。


それ自体は強者として当然の事かもしれないが、ゼルートの頭の中から既に自分が目立たない様にして勝つという考えが抜けていた。


戦いが始まってからゼルートの表情はクールなまま。

表情を変えたのはシーナが身体強化のスキルを使った一瞬のみ。


「シッ!!!!」


槍術スキルの技、三段突きを放つシーナ。

狙いは中心線の三点。


殆どラグの無い三閃が放たれるも、シーナの表情からスキルを使った技が繰り出されると解ったゼルートはステップバックで避ける。


しかしシーナの本命は三段突きでは無く柄を使って空中に跳び、上空からの一閃だった。

ただの一閃では無く槍には魔力が纏われており、突きの勢いに乗って放たれた魔力の刃。


バックステップで後方に跳んだため、まだゼルートの脚は地面にギリギリ着いていない。


(無理矢理回避は出来るが、そんな事する必要は無いか)


上から迫る魔力の刃に対し、同様にゼルートは長剣に魔力を纏わせて弾き飛ばす。


(うん、ちょっと重さを感じていたな。それほど勢いが乗っていたって証拠か。本当に・・・・・・思っていたより楽しめるな)


少し楽しくなって来たゼルートの表情が初めて変わる。

口端を少々吊り上げ、面白い物を見つけたような顔になった。


「ッ――ー、ハッ!!!!」


表情の変化からゼルートが瀬間に入ると勘付いたシーナは着地と同時に態勢は不十分なまま槍を振るう。


「あんまり焦るなよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る