少年期[321]一番それらしい
「・・・・・・なんで、と訊いてもいいかしら」
「なんでって言われてもなぁ・・・・・・俺としては最初、ゲイル達以外に俺を裏切らないって確信できる仲間が欲しかったんだよ。父さん達から色々と話を聞いていて、人って最終的にはどうなるか分らないって思ったからさ」
「それは間違っていないわね」
アレナもゼルートの両親と同様に冒険者歴は短くとも、何かをきっかけに人の性格が変わり、人間関係が崩壊したという話は聞いた事がある。
人間関係が崩壊した事で殴り合いになっている場面も数度見た事がアレナにはある。
「けど、数カ月一緒にいてお前たちが裏切るような奴じゃないってのは解った。だから奴隷って立場から解放しようって思うんだ。二人もそっちの方が自由に動ける時間が増えるだろう」
奴隷の責任は主人の責任となる。
よって二人は基本的にゼルートの傍から離れようとしなかった。
アレナとルウナは何かを考える様に言葉を発しない。
「あっ、もしかして奴隷じゃなくなったらアレナは元仲間のとこ、ルウナは家族の元に戻りたいか。んーーー・・・・・・それは普通に寂しいけど、二人がそう思ってるんなら」
「いや、私はそんな事一切思っていないぞ」
「そ、そうなのか?」
「ああ。ゼルートは知っていると思うが、一応私が王族である事に変わりない。いや、今は元王族か。獣人族の国の権力争いは人族程捻じれてはいないと思うが、それでも面倒である事に変わりはない。だから私は奴隷から解放されてもゼルートと共にいる事を望む」
獣人の中でも多くの種族に分かれている。現在獣人の国の一番上に立つのは獅子人族。
だが、種族の人口が多い国ではそれぞれがそこそこ大きな街を統治している。
そのなかでルウナは獅子人族の王に嫁いだ狼人族の女から生まれた子供。
記憶は随分と古いが、それでも父や母に使用人達の口から出る少々物騒な言葉を少し覚えていた。
なのでアレナは今更家に戻ろうとは思っていない。
「あぁ・・・・・・それはルウナにとって嫌な状況だな」
「そういう事だ。それに、私はナルクではなくルウナだからな」
ルウナは意味有り気な笑顔でゼルートの方に顔を向けた。
それを見たゼルートもニヤリと口端を上げた。
「ははっ、確かにそうだな。お前はナルクじゃなく俺の仲間のルウナだ」
「ふふ。やはり面と向かって言ってくれるのは嬉しいな。それで、アレナは奴隷から解放されたらどうするのだ? 元仲間の元に戻るのか?」
以前のパーティーに戻りたい。その気持ちが無いと言えば嘘になる。
今のパーティーの居心地が悪い訳では無い、寧ろどの大部分の冒険者にとって在籍したいと思えるパーティー。
だが、前のパーティーはまた違った居心地の良さがあった。
何年も一緒に居たからこそ得られる安心感に充実感。
それもまたゼルート達と一緒にいて感じる安心感と充実感とは違う。
「・・・・・・いいえ、例え奴隷から解放されてもゼルートの元を離れつもりは無いわ。その気持ちの中にゼルートに恩を返したいという気持ちはある。でも、それ以上にゼルート達と一緒に居た方が冒険者らしい生活をお送れると思うのよ」
「冒険者らしい生活って、ちょっと抽象的過ぎないか? まぁ・・・・・・その気持ちは解らなくもないけどな」
「なるほど、つまりアレナも私達と同じ脳筋という訳だな!!」
「なんでそういう解釈になるのよ!!! 単に冒険者らしい生活を送りたいって言ってるのよ!!!!」
ルウナの謎の解釈にゼルート達の間に笑い声が広がった。
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