第82話少年期[73]イルーネの心配ごと

「・・・・・・」


イルーネは受付嬢の仕事中なのだが、何かを考えているのか全く手が動いていなかった。


「イルーネ、手が止まっているわよ」


そこにハーフエルフのミーンがイルーネに声をかけた。


「え、ええ。そうね。ごめんね」


そう言うとイルーネは仕事を再開したが、ミーンはイルーネの様子が気になったので会話を続けた。


「珍しいわね。あなたがボーっとしちゃうなんて。

何かあったの? それとも好きな人でも出来ちゃった」


イルーネはミーンにからかわれる様に言われ、顔を赤くしながら言い訳をした。


「別にそんなんじゃないわよ! 確かに気にはなっているけど、恋愛どうこうの話じゃないわ」


「へ~、それでも珍しいじゃない。あなた基本新人の冒険者には優しいけど、もしかしてその子も新人君なの?」


イルーネはまだ年齢が十八と若く受付嬢なので、顔も男が十人見れば十人とも綺麗、もしくは可愛いと言うだろう。


実際にイルーネは今まで冒険者から何度も告白やプロポーズを受けている。


だがどれも丁寧に断ってきた。


時には貴族の三男や四男が俺の女になれと強引に迫ってきた事もあったが、その場合は周りにいる冒険者達によってぼこぼこにされ、外に捨てられていた。


といった具合にイルーネはかなりモテる。そのイルーネが気をかけている冒険者がいるとなれば、誰なのか知りたい受付嬢もかなり多い。ミーンもその一人だ。


「新人・・・・・・そうね、確かに新人よ。

でも、強さはかなり新人離れしているけどね。

ゼルートっていう冒険者の名前に聞き覚えはある?」


受付嬢の仕事をしていると、優秀な冒険者や期待のルーキーなどの情報はすぐに伝わる。


ミーンもゼルートの情報は耳に入っていた。


「ええ、もちろんよ。ギルドに登録してすぐにDランクとCランクの冒険者を倒しちゃったていうルーキー君でしょ。確か今は、Dランクの昇格試験を受けに行ってるはずよね」


「ええ、そうよ。そしてセイル君達のパーティーも一緒に試験を受けているのよ」


ミーンは少しの間イルーネが言った事を考えると、イルーネの言いたいことが分かった。


「なるほど、そういうことね。確かに試験中になにかしらの問題が起こりそうね」


受付嬢は冒険者達の情報を多く持っている。

そしてセイルのパーティーが、ドウガンに師事を受けていることもそこそこ知られている。


ドウガンに師事を受けているセイル達は、ドウガンをかなり尊敬している。

しかもその中でもセイルは異常・・・とは言わないが、ドウガンにかなり酔狂している部分がある。

そのドウガンがギルドに登録して間もない新人に決闘で負けたなど、到底信じられない。


なので試験中にセイルがゼルートに喧嘩を売るんじゃないかと、そしてそれを嬉々としてゼルートが買うのではないかとイルーネは心配していた。



「そ、それに酔っぱらった冒険者とドウガンさんの結末は知ってるでしょう」


ミーンは苦笑いしながら頷いた。


「まぁ、それは・・・・・・ね。話を聞いた時は少し絡んだ側の冒険者に同情したわ」


ゼルートは絡んできた相手の冒険者が身に着けている装備や、所持金を全て奪っている。


これがCランクの冒険者やDランクの冒険者なら、前に使っていた武器や蓄えなどがあるため、冒険者としての生活を維持できるがFランクやEランクの冒険者ではそうはいかない。


「まぁ、大丈夫よ。ゼルート君もそこら辺はわかってると思うわよ。それに試験監督としてガンツさんもいるんだから心配しなくても大丈夫よ、きっとね」


「・・・・・・そうですね。よし、仕事に戻りましょう!」


と、元気をだして仕事に戻るが不安な気持ちは消えなかった。





「アレナ、今回の討伐する盗賊の中で強い奴がいると思うか」


今日の夜に盗賊を討伐するため、ルウナには偵察に行ってもらっている。


「そうね、多分盗賊のリーダーが元冒険者か傭兵という可能性はあるはね。でも、周りにいる下っ端に比べればマシだとは思うけどあまり期待しない方がいいわ」


「そうか・・・・・・」


アレナとゼルート話していると、ルウナが偵察から戻ってきた。


「お帰り、どうだった」


「出入り口は一つ。見張りが二人いた。

鼻で確認したところ多分酒を飲んでいる」


そうか、それならハードルが少し下がったかな。


なんて思っていたら厄介な報告もあった。


「それと多分だが、奴隷だろうか? 盗賊が襲った人達が中にいるはずだ」


「そうか・・・・・・ガンツ、そういった人たちの救出も俺達の役目か」


ゼルート一応ガンツに確認をとった。


「ああ、基本ここからはお前達だけで動くんだ。それを忘れるな。俺は今はあくまで試験官だ」


その返答にセイル達が不安そうな顔をしているが、俺としてはそれも想定の内だった。


俺はその言葉を聞き直ぐに盗賊の討伐にあたるメンバーと、捕まった人を救出するメンバーを決めた。


「予定変更で鼻の利くルウナとミールは捕まっている人の救出に向かってくれ。

そのほかは作戦通りに動く。何か意見はあるか?」


みんなの顔を見たが特に意見はないようだな。


「よし、それじゃあ行くぞ!!」

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