最終話~エンディング4~

 彼らは、どれだけ待っても帰っては来なかった。

 誰の胸にも、その存在が確固としてあるにも関わらず、姿を見せない。


 ──時間だけが過ぎ去り、再び、春が来る。


杏子:「昼食ができたよ、”お祖父様”」

厳蔵:「おお、できたか。どれ、透も呼んで来よう」

杏子:「ありがとう。……ゾォルケンも、”ご飯”にしようか」


 厳蔵が居間を後にしたのを見送ってから、ゾォルケンに優しく話しかける。


杏子:「いつか、話せるようになるといいね……お互いに」


 彼女はまだ、透を”お母様”とは呼べていなかった。

 もしも、春見がいたなら。影裏さんがいたなら。

 きっと、勇気付けてくれるだろう。

 二人が、私にとっての太陽だから。



 悲しげな視線が、食卓に向けられる。

 そこには、二人分多い料理が用意されていた。


杏子:「……いつまで経っても、作り過ぎるなんて」


「──私は、弱いね」


 溢れた涙を、ペロリと舐め。

 誰も聞いた事のない声が──


「──よわく、ない」


 たどたどしく、慰めた。


杏子:「ゾォルケン……? そうだね、頑張らなきゃ、ね」


 ──優しい、けれどどこか儚い笑顔を浮かべた、そんな時だった。


「二人揃って門限破りか……昔を思い出すな」

「そうだね。あの時はお爺様に怒られないか、ヒヤヒヤしてた」


 廊下から待ち望んだ声が聞こえ、杏子は顔を上げる。


「……みんな、驚くだろうな。なんて言って顔出せばいいんだ?」

「ふふっ、いつも通りでいいんじゃないかな。家に帰ってくるのに、それ以外の言葉は違うと思うから」

「それもそうか」

「うんっ」


 声の主たちは、居間へと続く扉に手をかけ、そして──

 彼らは──影裏と春見は、向日葵ヒマワリのような笑顔で出迎えられた。



「「──ただいま!」」



 ここで俺は、最後まで取得しなかったロイスを、取得しようかと思う。

 ずっと待ち望んでいた──いや。皆で、この右手で掴み取ったものだ。

 大きな幸福感と少しの不安の感情で『日常』にロイスを。

 これが、これからの俺のSロイスだ。

 

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