最終話~マスターシーン5~

 影裏と春見が過去の自分たちの覚醒を促している頃。別の場所で、ある”プラン”が進められていた。

 窓も、明かりも、入るためのドアすら無い防音の空間。部屋とすら呼べない造りをしたその場所で、一人の女性は何者かを待っていた。


 ……やがて小さな物音と共に待ち人が現れた事を察するも、その女性は僅かに嘆息を漏らした。

 互いに相手の姿はおろか、どこにいるかさえ、この空間では定かではない。


プランナー:「貴女がここへ来たという事は、私の予測は正しいという事ね。

 でも──恐らく貴女は拒否する事もできた筈」


 先に部屋にいた女性──プランナーは、落ち着いた艶のある声で語りかける。


プランナー:「それでも来たのなら──私の”プラン”通りに動いてくれる。それで間違いないわね?」


 しばしの間、静寂が支配する。


京香:「……ひとつだけ、訊いてもいい?」


 ようやく口を開いた待ち人の声は、どこかあどけなさが残る。


プランナー:「──ひとつだけよ」

京香:「貴女の”プラン”は、今の私が考えても”賭け”だって分かる。でもその賭けに勝ったら──ううん」


「”勝てちゃった”ら、貴女はどうするの?」


 その質問へ返ってきたのは、しかし嘲るような小さな吐息だった。


プランナー:「”足止めをする”わ。……やっぱり貴女、経験が足りないわね。

 本来聞きたかった事は”どうするか”ではなく、”どうなるか”じゃないかしら」

京香:「……なら、どうなるの?」


プランナー:「言った筈よ、質問はひとつだけって。私は既に答えたわ」


京香:「──ッ」

プランナー:「こちらの質問への回答を求めるわ。”プラン”通りに動いてくれるわよね?」


 再び、無音。


京香:「…………分かった」

プランナー:「交渉成立ね。この経験を次に活かしなさい」


 僅かな間で空間に一切の気配は無くなった。

 ただ一言、


「──馬鹿」


 憤りにも、呆れにも、諦めにすら聞こえる声を残して。

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