最終話~ミドル10(1)~

 影裏が死ぬに至った日付も、場所も判明した。あとはその時間へ行き、助けるのみだ。

 既にボロボロの肉体と精神を、自身に《戒めの瞳》を使い命じる事で保った春見はセーフハウスを出ようとする。


春見:「……あとは、実際に跳ぶだけ」


 鬼気迫る表情で部屋を後にしたところで、ちょうど別室から出てきた及川と出くわす。


春見:「ぁ、及川君。結理君を救うポイント、わかったよ」

及川:「──あ、ああ……良かった。これで結理を助けに行ける」


 情報を共有する二人だったが、及川の視線は春見の身体を一瞥いちべつしていた。


及川:「……春見。提案がある。僕が使った単一方向の時間遡行装置を使おう」

春見:「えっと……それはどうして?」

及川:「時間が、かかりすぎたんだ。自分の手を見てみるといい」


 最早輪郭しかない右腕を明かりに透かし、春見は目を険しく細める。


及川:「危うい賭けになってしまうが、結理を助ける事で春見の存在も鮮明になるだろう。そうすれば、一緒に帰って来られる可能性は高まる筈だ」

春見:「それは、この状態で跳ぶのは危険だっていうの? それとも、私がジャーム化しちゃうって意味?」


 数瞬、及川はその言葉を口にする事を躊躇う。


及川:「言いたくはないが……その身体でガイアと敵対する跳び方をすれば、最悪──消えてしまうかもしれない」

春見:「……そっか。でも、その手段を取るには施設とか、事前の準備がいるんじゃないかな。時間、ある?」

及川:「施設は、場所だけなら春見ももう知ってる場所だ。機材そのものが健在なら、準備だって──」


 口を噤んでしまう。及川自身も、春見も分かっている。準備が間に合うかどうかは、確証の無い賭けでしかない。


春見:「……確率の高い方を取るよ、私は。皆一緒に帰って来れなきゃ、意味がないから」


 強い意志を孕んだその言葉は、及川の迷いすら晴らした。


及川:「その身体で無理をするよりは確率が高い筈だ」

春見:「なら従う。それで、その機材が置いてある場所は?」

及川:「デッドエンドデッド研究所。

 京香の生命を維持していた機械。あれが時間遡行装置だ」

春見:「あれが……?」

及川:「ああ。そもそもあれは生命維持装置などではないんだ。

 昏睡状態だったとはいえ、京香が何故あの頃の姿のままだったと思う」

春見:「……もしかして、仮死状態のまま保存するために過去に跳び続けていたって事?」


 頷いた及川に、彼女もまた強く頷き返す。


春見:「わかった。今は少しでも時間が惜しい。急ごう!」

及川:「そうだな、悠長に説明している場合じゃなかった。移動するぞ!」


 京香に声をかけ、三人は慌ただしくセーフハウスを後にする。


 向かうはデッドエンドデッド研究所。元々は京香の死を回避せんと作られた場所だ。

 それが今度は影裏の死を超越するべく、再稼働する事となる──。

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