最終話~ミドル7~
影裏は今、薄暗い研究室のような部屋の光景を見ている。
これは、ある男の過去であり──影裏にとっては未来の出来事だ。
地球上のあらゆる物体はレネゲイドに感染し、UGNによる情報隠蔽は事実上の瓦解を始めていた。
様々な事件を秘密裏に解決してきた裏切り者たちですら、その多くが戦う事のできない身体となっている。
世界がいつか辿るかもしれない未来だ。そして君の眼前で一人の青年──奏 時貞が異能の力を振るう。
白衣の男:「た、助け……助けて……!」
響き渡った懇願は、至って冷静に──冷酷に応えられた。
奏:「もちろん助けますよ。そのために”貴方は私を造った”。そうですよね?」
影裏:「(時貞──!?)」
白衣の男:「わ、悪かった……だから、その眼で見ないで……見な──」
言葉は唐突に途切れ、男は脱力した。肩も足も、震えが止まる。
奏:「嫌だなぁ。この左眼の事しか見ようとしなかったのは君たちの方じゃないか」
首を振った奏の視線が、ふと影裏の方へ向き、止まる。
……しかしそれも束の間。
奏:「次に僕に声をかけた時、『君は自分が赦せなくなる』事としよう。そう、それこそ衝動的に──」
「──殺してしまいたいほどにね」
奏が嗤いながら
先ほどと似た懇願の言葉が
それを
奏:「どこの誰だか知らないけど。覗き見かい? いい趣味してるね」
影裏:「やっぱり”視えて”やがったか」
その言葉に、口角を釣り上げる。
奏:「残念だけど、お互い視えているだけで干渉はできないようだ」
影裏:「だろうな。……幸か不幸か、といったところだが」
奏:「まったくだ。……
動かなくなった男の頭を踏みにじり、言葉を続ける。
奏:「コイツらさ、この左眼を使うためだけに僕を造り出したんだ。
UGNによる隠蔽ができなくなったから、代わりに記憶を弄れる装置を造ろうってね」
影裏:「……なるほどな。今のはその力の応用ってところか」
奏:「察しがいいね、その通りさ。記憶と行動は密接に繋がっている。だからこうして──」
足元の頭を蹴り飛ばす。鈍い音が、研究室に響く。
奏:「──自分で息の根も止めるってわけさ」
眉をひそめ、影裏は怒りを孕んだ声で、しかし静かに呟く。右手を硬く握り、それと向き合いながら。
影裏:「……俺とは真逆のやり方だな」
奏:「……どういう意味だ」
影裏:「俺はずっと、この手で直接命を奪ってきた。その方法しか知らないからな。
だがお前は、自分の手を汚す事なくそれができる。だから言ったんだ、真逆だな、と」
奏:「血に塗れた手ってわけだ。それで? 行き着いた先の居心地はどうだい、亡霊さん」
影裏:「わざわざそれを訊いてくるか。お前の方がよっぽどいい趣味してるじゃねぇか」
言っている意味が分からないとばかりに肩を竦める。
奏:「言っただろう、僕は君の事なんか知らないって。……本当に訊きたかっただけさ。
自分の手を血で汚してまで掴み取った場所が、どういうものなのかを、ね」
考えるまでもなく、影裏の内には答えが出ていた。
影裏:「後悔はしていない。
自分の手を血で汚してまで掴み取った場所には、それだけの価値がある」
奏:「……なるほどね。それを聞けて良かった。
なら僕も──掴みに行ってみよう」
影裏:「俺の手が血に塗れたように、その眼を血に濁らせてでも、か」
奏:「ああ。僕を僕として見てくれる人がいる場所を、この眼で観測してみせる」
その顔は狂気に歪み。
眼から放たれた光が、視界いっぱいに広がっていく。
奏:「────見つけた」
光で何も視えない中、呟いた声が聞こえる。
奏:「プランナー。そうか、君はどれほどの力を持っていても”君を君として見ている”存在がいるんだね」
強い、羨望と嫉妬。その暴走の果てに行き着いたのは──
「君のように在りたい。君に──なりたい」
──妄執とも呼べる、同一視だった。
光が収束した時、影裏の前に奏はいなかった。どうやら時間跳躍したようだ。
影裏:「これが、あいつの”始まり”か。……皮肉なもんだな。
あれだけの眼を持ってる癖に……自分が、視えてねぇ。同情はする。だが──」
数舜、
「(──情けはかけねぇ。俺が……俺たちがお前を、ぶっ潰す)」
その想いを胸に、影裏は記憶の底へと戻ってきた。
影裏:「ぐッ……ぅぅ……ぁ──!」
どれだけ理性を保っても、レネゲイドの侵蝕を完全には抑えられない。それでも。
影裏:「あきら、める、か……!」
歯を食いしばり、拳を硬く握り締め、耐える。皆を信じて、限界を超え続ける。
影裏:「あいつらが……待ってるんだ!」
他の誰でもない、この俺の事を、信じてくれている人たちがいる。だから──
『影裏 結理』に意志と不安のロイスを取得。表はポジティブ。
だから──こんなところで、負けるわけには、いかない。
壊れそうになる自我を、必死に押し止める。
影裏の侵蝕率に+60%……現在侵蝕率254%
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