最終話~ミドル4~
GM:次のシーンプレイヤーは春見だ。登場侵蝕を振ってくれ。
春見:オッケー(ダイスころころ)1点だけ上がって54%。お安くてビックリ。
GM:いい感じに落ち着いてるね。
あれからずっと史料を漁っていた春見だったが、そろそろ部屋に運び入れた分が底を尽きそうになっていた。
ふと視界の端で写真に異変が起きた事に、気を張っている春見は気が付けるだろう。
僅かにだが、影裏の姿が輪郭を取り戻したのだ。
春見:「──っ。今、少しだけ……!」
影裏に近付いている事、その事実が嬉しくてほんの少しだけ笑みを浮かべるも、首を振りすぐに気を引き締めなおす。喜んでいる暇などない。時間はあまりにも限られている。
春見:「もう少し待っててね。結理君」
次の史料へと手を伸ばすも、山のように積まれていたそれは次のひとつで終わりとなる。
新しく運び入れる必要がある──そんな時に、部屋のドアがノックされる。
プランナー:「春見ちゃん。新しい史料を持ってきたよ」
春見:「ぁ、ありがとう都築さん。丁度切れそうになってたから助かるよ」
それと──と先ほど写真から記憶が流れ込んできた事を説明する。
プランナーは僅かに思案し、ひとつの仮説を弾き出す。
プランナー:「つまりその写真はガイアの記憶から取り零された、言うなれば
春見:「残滓……」
プランナー:「春見ちゃん。その写真を手に取って、結理君の事を強く想ってみて。
仮説が正しければ、また──」
頷くと、写真を手元に引き寄せ、思い起こす。
最初は、春見自身の人生を。そしてその隣には、いつだって彼がいた。
彼と共に過ごした時間。どちらからともなく歩調を合わせた、彼との人生という歩みを。
強い想い──絆に呼応して、光景が再び過ぎる……。
判定項目:過ぎる光景を掴め(2)
<意志> 12
春見:思い出の一品の効果で固定値に+1して(ダイスころころ)達成値16。ふふん、固定値は裏切らないもんね。
GM:やるぅ、成功だ!
春見:「…………」
ふと、右手をプランナーの頭へ伸ばす春見は、
プランナー:「え、あ……春見ちゃん?」
春見:「視えたよ。都築さんと影裏くんの頑張ってるところ。私のために……ありがと」
プランナー:「──!」
優しく、彼女の頭を撫でる。
プランナーと影裏がβ世界線で会話した事。誰にも明かしていない秘密を、春見は知っている。
それは本来知る術のなかった情報であり、同時に影裏が今なお存在している証に他ならなかった。
プランナー:「ううん。お礼を言うのは、私の方」
自身の頭を撫でるその手を受け入れながら。
プランナー:「生きていてくれて、ありがとう。春見ちゃん」
ずっと言いたかった言葉を、彼女はようやく口にした。
春見:「うん。きっと迎えにいこうね、結理君の事」
プランナー:「うん……必ず」
しばしの沈黙が漂う。気まずいものではなく、互いへの信頼ゆえの心地よい沈黙だ。
プランナー:「春見ちゃん。……ちょっと聞きにくい事、聞いてもいいかな」
穏やかに、けれど心構えをして、頷く。
プランナー:「右目の──"約束の瞳"は、どれくらいまで視力が落ちてきているの?」
春見:「……眼鏡で矯正しないと、まともに視えないよ。今、ほとんどは左目で見てる」
悲しげに、お互い目を伏せる。
プランナー:「そっか……。ごめんね、私たちがそれを作った時には、視力が落ちる可能性まで考慮できなかった」
春見:「ううん、それは仕方ないよ。余裕なんてなかったもんね」
プランナー:「視力が戻る可能性があるとすれば、結理君にお願いするしかないと思う。
でも、懸念がひとつ残ってる」
僅かに躊躇してから、それでも口にする。それが、彼女を助ける事に繋がるかもしれないから。
プランナー:「……完全に視力を失ってからだと、β世界線の技術を身に着けた結理君でも──元には戻せない」
春見:「β世界線の……」
プランナー:「だから結理君を助ける事が、春見ちゃんの視力を治す事にも繋がると思う」
影裏を助けられる事が全ての前提になっている。
そして春見も、プランナーも。いや、かつて笑いあった四人の誰もが、その前提を突破できる事を心の底から──信じている。
春見:「ありがとう。でもね、大丈夫だから。皆、大切なものを天秤にかけて戦ってるのに、私だけ尻込みするわけには、いかないから」
「私の右目で結理君が帰って来れるなら、皆でまた笑いあえるなら、喜んで捧げるよ。
視力が落ちても、失ったとしても。絶対に手は抜かない。それが──」
「命を救ってもらった事への、私なりの──恩返しだから」
プランナー:「……なら、私もそれに応えてみせる。
春見ちゃんを巻き込んでまで助けた事を、誰よりも後悔しない選択を取る事で」
優しいだけではない。穏やかなだけでもない。迷いの晴れた笑みで、互いを見つめ合う。
しかしそれも束の間、プランナーの眉根が微かに動く。
プランナー:「話は、今はここまでにしましょう。……少し、このセーフハウスを離れるわ」
春見:「何かあったの?」
プランナー:「FHにいる協力者が、奏 時貞の襲撃を受けている。
……正直、お世辞にも良い組織だなんて言えないし、私も──プランで、何人も……」
春見:「そこまでだよ」
人差し指を彼女の口許に立て、止める。
プランナー:「──!」
春見:「大丈夫だから。世界中の皆があなたに指を差そうとも、私たちは味方だから」
優しく、諭すような微笑みを湛えて。
春見:「さ、助けに行く? 後悔しない選択、取るんでしょう」
プランナー:「──ふふっ、やっぱり春見ちゃんには敵わないなぁ」
それに微笑みを返し、すぐに気を引き締めなおす。
プランナー:「春見ちゃんは調べるのを続けて。ここは私が行けば十分よ」
春見:「分かった。じゃあ待ってるからね。無理はしないで」
プランナー:「ありがとう。でも心配いらないわ。これでも、あの人とは結構長いのよ」
春見:「……そっか。うん。行ってらっしゃい」
どれだけの間、誰にも『帰りを心配される挨拶』をされなかっただろう。
3000年もの時間を過ごすうちに、彼女の帰りを案ずる人はいなくなった。
だから──
プランナー:「──行ってきます」
いつかと同じく意識の合間を縫うように戦場へ赴いていった──。
春見:「私たちの絆の証……結理君を皆で迎えるまで。無茶はしないでね」
かけがえの無い友人が消えた虚空を見つめながら、呟く。
春見:「私たちは、誰一人欠けても……駄目だから」
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