第三話〜エンディング2〜
時間は少し遡り、影裏が仮眠室を後にした少しあと。ちょうど奏と話しているあたりの頃だ。
場所は先ほどと同じ仮眠室。出て行った影裏を心配する声が上がっている。
京香:「結理君、顔が青ざめてた……。大丈夫かな……」
春見:「……及川君」
不安そうな表情を浮かべる春見。
及川:「……僕が行こう。少し、様子を見てくるよ」
春見:「……」
及川が仮眠室を出た直後、春見は唐突に強い目眩を覚える。幸いにして、それはすぐに止むものだ。
春見:「……ッ! 何、今の……」
目眩とぼやけた右眼で視界が歪む。
その歪んだ視界に、驚愕する京香が映る。
春見:「……都築、さん。どうしたの?」
京香:「か、春見ちゃん。身体が……っ、身体が、"透けてる"……!」
GM:というところで判定といこう。
判定項目:得体の知れない何かに抵抗せよ!
難易度:10 20 30
ロイスひとつにつき達成値に+3、Sロイスなら+6される。ただしタイタス化したロイスは数に含めない。
達成値により抵抗具合が変わるので、高ければ高いほどいいと言っておこう。また、NPCからの認識にも影響があるぞ!
春見:ほむ。私はロイスが5つ残っていて、その内ひとつがSロイスだから──+18か。
そこに思い出の一品の効果も使用して……固定値21で判定するよ。
GM:あいあい。侵蝕ボーナスはバックトラック後の数値を参照しておくれ。
春見:了解。では判定だ。
影裏:頼むぞ。
春見:よいしょ!(ダイスころころ)達成値……45! ドヤァ!
GM:たっかい(笑) となるとこんな感じになるね。
完璧に抵抗してみせた。親しい人は春見の姿を認識できる。ただし、他の者にとってはそうではない。一部の人間を除いて、他の者には春見を認識することは困難な状態だ。
具体的にはSロイスを取っている、あるいは取られている相手からは、はっきりと見えています。
通常のロイスを取っている、あるいは取られている相手からは若干透けている程度に見えています。
ロイスのない人からはほぼ透けた状態で、静止していれば発見は困難でしょう。
京香:「さ、触れる……」
春見:「……何とも、ない?」
京香:「春見ちゃん、幽霊じゃないよね……?」
春見:「……まだ、死にたくないかな。都築さんの気持ちも、結理君の気持ちも見届けてないから」
京香:「ぇ……?」
春見:「ふふっ。その顔、早く結理君に見せてあげたい」
口ではそう楽しげに言う春見だが、心中は穏やかではない。
必死に。そう、必死に取り繕っているのだ。
怖がっているのを。取り乱して、都築さんを不安にさせないように。
春見の、せめてもの抵抗だ。
しかしそんな春見の抵抗をあざ笑うかのように、地上から轟音が鳴り響く。二人には事情が掴めないだろうが、先ほどのディアボロスの襲撃だ。
春見:「──ッ!? な、なに!」
そこで、端末にメッセージが来ているのを発見する。
影裏:『離脱しろ。必ず追いつく』
春見:「……都築さん。今、無理しても動ける?」
京香:「あ、う、うん。大丈夫」
春見:「結理君の所に行こう。都築さんは少し後ろから付いて来て」
京香:「わ、わかった」
春見:「その途中で及川君も捕まえて、皆でここを逃げよう。今、少し危ないみたいだから」
部屋を出た二人は、ちょうど奏が「一気に攻め落とすべきだ」と言っているところにたどり着けるだろう。
階段手前には及川もいる。
及川:「(僕が今出れば、余計に立場を危うくしてしまう……)」
春見:「(UGN! そっか。作戦が……)」
千夏:「ここは撤退します! 総員に告ぐ──」
奏:「まったく、面倒なことを──」
春見:「……及川君、大丈夫みたいだよ」
及川:「っ!? 春見、その身体……! しかし、そうか」
春見:「……千夏ちゃん。ごめんね」
千夏:「"信じてます"から──」
影裏:「覚えとく。ありがとうな、遠藤」
春見:「……っ」
UGNが撤退していく。同時に、戦闘音も遠ざかっていく。
影裏:「さて、厄介なことに──」
春見:「あはは……何だか悪いことしてる……みたい。悪い……子に……。…………」
昏く呟く春見の肩を、京香は後ろからぎゅっと抱きしめる。
春見:「ッ……都築さん?」
京香:「……辛い時は、辛いって言わなきゃだよ」
春見:「……うん、ありがとう。まだ、大丈夫だから」
京香:「……無理、しないでね」
春見:「うん……行こう」
及川:「とにかく、僕たちもここから離脱しよう」
春見:「……そうだね。色々と事態が動いてるみたい。私がゲートを作る。結理君呼んでくるね」
虚空に向けて「黙ってろ」と呟いた影裏が、通路を曲がって姿を現わす。
影裏:「お前ら……! なんでまだここにいる……!?」
春見:「あれで私が3人だけで離脱すると思ったの?」
少し怒った口調で春見が問い返す。
京香:「結理君だけ置いて行くなんてできないよ」
影裏:「……はぁ、それもそうか……悪かった。けど、緊急事態でもあったんだ。それはわかってくれ」
春見:「うん、それは私も理解できたよ。でも、だから結理君だけは置いていけない。逃げるなら、一緒! やっと4人一緒に居られるのに。それをわざわざ手放すような真似……しないでっ!!」
春見は声を荒らげる。それは、心からの悲痛な叫びに違いなかった。
及川:「そうだぞ、結理。せっかく4人また揃ったんだ。……逃げる時は一緒さ」
影裏:「必ず追いつくって書いただろうが……俺がお前らだけ置き去りにしたり──」
しかしその脳裏には、自分の末路──ジャームと化す未来の姿が過ぎる。
春見:「……それが私たちに有益なら、するよ。結理君は。私、知ってるよ。幼馴染……だから」
影裏:「…………そうだな、そうだった。やっと、4人揃ったんだもんな……悪かった」
春見:「次は絶対と約束して。私……悪い子になるよ」
影裏:「……ああ。約束する」
その言葉は嘘だ。自分の末路を知っているのに。いつまでも一緒にはいられないと、わかっているのに。
春見:「……」
影裏:「……」
京香:「ま、まあまあ! 結理君もごめんって言ってるんだし、もういいじゃない」
春見:「……今はそれでいいよ。それじゃあ逃げよう。及川君、何処がいいと思う?」
及川:「そうだな。東の海岸沿いに、個人的なセーフハウスがある。そこならどうだろう。座標は──」
春見:「……うん。それなら行けそう。じゃあ繋げるね」
春見:ディメンジョンゲートを使用、シーン退場用のゲートを作成します。
GM:おお、ちょうどよかった。そろそろシーンを閉めようと思ってたところだったんだ。
影裏:さすがっす。
及川:「先に行って、安全を確認してくる。少ししてから入って来てくれ」
そう言い残してゲートをくぐる。問題がないのを確認してから、
影裏:「よし、いいだろ。二人とも、ゲートに」
京香:「えっと、それじゃ……お邪魔します……」
春見:「……」
影裏は最後に残り、一瞬、後ろを振り返る……が、頭を振ってゲートに向き直ろう。
影裏:「……ごめんな、春見。俺は──」
──俺は、
それぞれの想い、それぞれの思惑。すれ違う運命の中で、彼らは何を思い、どこに行き着くのか──。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます