第三話〜エンディング1〜

 戦闘の後、ほどなくして京香は目が覚めた。場所は先ほど戦闘した建物の別の部屋、仮眠室だ。簡易ベッドが置いてあるその部屋で休息を取り、互いの無事と再会を喜んでいる。

 京香には最低限、レネゲイドに関する情報を伝えたが、力と衝動を目の当たりにした後だからだろうか。驚きこそすれ大きな衝撃にはならなかった。


春見:「良かった、本当に」


 ベッドから少し離れた所で嬉しそうに微笑む。


影裏:「……ああ、そうだな。……本当に良かった」

及川:「ああ……。ずっと。何十年もこの瞬間を待っていたんだ。……本当に──」

影裏:「やったな、桃矢」

及川:「ああ。ああ! 僕の努力は、無駄じゃなかったんだ」


 肩を組み合う男二人。


京香:「あんなひしゃげ方をしたバスに乗っていて、みんな無事だったなんて。……夢みたい」

影裏:「無事……まあ、生きてりゃ無事に入るか……?」


 苦笑する影裏だったが、まっすぐな眼差しで京香は言い切る。


京香:「オーヴァードっていうのにはなったみたいだけど、それでも。生きてるなら無事だよ」

春見:「うん……そうだね」


 左眼に涙の粒を湛えながら。


春見:「結理君。ずっと頑張ってたんだよ。及川君も」

京香:「本当にありがとう、みんな。助けてくれて」

影裏:「おう、どういたしまして──っ……」


 ────ドクン────


 影裏の中で、レネゲイドが騒めく。


春見:「……結理君?」

影裏:「……いや、悪い……なんか、気が抜けたからか……?」


 ────ドクン────


京香:「結理君、大丈夫?」


 ──── 殺せ ────


影裏:「ッ!?」

及川:「大丈夫か、結理」

影裏:「……悪い、まだレネゲイドがざわついてるみたいだ。ちょっと……外の空気を吸ってくる」

京香:「う、うん……」


 若干ふらつきながら部屋を後にする影裏。



 ふむ……これは想定外の動きだ。だが──、


GM:ちょうどいいので場面を影裏に移そう。


 影裏がふらつきながら1Fへの階段を上っていると、入り口の自動ドアが開く音がする。


影裏:「……誰だ」


 複数の足音。防護服の擦れる音。──聞き慣れた、戦場の音だ。


影裏:「っ……!?」


 少しの間が開き、階段の上に人影が現れる。


千夏:「こちらトリニティバレット。地下への階段を発見……っ!?」

影裏:「遠藤……!? どうして、こんな場所に──」


 驚く二人を他所に、一人の青年がゆっくりとやってくる。


奏:「タイムリリス、現場に到着。おやおや、これはこれは」

影裏:「お前は……奏、だったな。UGNエージェントが揃って、こんな廃工場に何の用だ?」

千夏:「それ、は。あの……」

影裏:「……なるほどな、任務か」

奏:「隊長こそ、どうしてこんな場所にいらっしゃるんです? こんな──FHの研究施設に」

影裏:「(……そうか。UGNが近々動くってのは、これのことか……最悪だな)」

奏:「それも、見たところ随分のんびりと階段を上っていらっしゃる様子。……警戒心のカケラもないようですが?」

影裏:「……敵がいなけりゃ警戒だって解くさ。俺だって常在戦場の魂までは持っちゃいない」


 さりげなく手を後ろに回して、端末を操作する影裏。春見に「離脱しろ」と伝えるために。

 しかし奏は薄く笑う。


奏:「状況報告。施設地下への階段にて、ハーツブレイカーを発見」

千夏:「ま、待ってください! そんな誤解を招く言い方──」

影裏:「いいんだ、遠藤。俺だって同じ状況ならそうする」

千夏:「そんな……っ」

影裏:「奏 時貞だったか。ずいぶん落ち着いてるな。もしや、この作戦はお前が?」

奏:「ええ。立案はしましたよ。とはいえ、こんな"ダブルクロス"が潜んでいるなんて思いもしませんでした」

影裏:「……そうか。それだけ聞ければ充分だ」


 両手に黒炎を灯し、立ちふさがる。


千夏:「っ!? やめてください影裏さん! 私たちは──」

奏:「敵じゃない、とでも言うつもりですか? トリニティバレット」

影裏:「……だったら。俺の顔を立てて、一時撤退する気は?」

千夏:「わ、私……は……」


 その返事を待たずして、建物の近くで轟音が響く。


影裏:「っ……始まったか……!」


 地上に出てきたことで、影裏の端末にもノイズ混じりの音声が届くことだろう。


音声:「…………こちら、エージェン……スコープ! 後方より、ディアボロスによ……襲撃……! ……急、応援を要請……」

影裏:「(ああ、そうかい。……これも"プラン"のうちってことかよ)」

奏:「ちっ。厄介なのが出てきましたね。事前に喚ばれたのでしょうか」

影裏:「言っても信じないだろうが、俺は知らんぞ」

奏:「ここは一気に攻め落としておくべきです。トリニティバレット」

千夏:「いいえ……いいえ! ここは撤退します! 今この隊を指揮しているのは私です!

 総員に告ぐ。戦闘状態を維持したまま、緩やかに後退、撤退してください!」


 その命令に、奏は溜め息を吐くも従う。


奏:「まったく、面倒なことをする……」

影裏:「……行ったか……」

千夏:「私、"信じてます"から」

影裏:「覚えとく。ありがとうな、遠藤」


 最後に笑みを浮かべ、千夏も離脱していく。


影裏:「……さて、厄介なことに──」


 ────殺せ────


影裏:「……黙ってろ」


 青年は、己の内に渦巻く衝動と戦う。

 果たして、どちらが勝つのだろうか──。

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