第二話〜エンディング3〜

 千夏が目覚めてから数日後の夜。佐倉家で、春見の母である透から"当主の間へ行くように"との伝言を受け取る。


透:「なんでも、大切なお話があるそうよ?」

影裏:「ご当主様が……何ですかね。とにかく、行ってみます」

春見:「そうだね。行ってみようか」

透:「いってらっしゃい、ふたりとも」


春見:「大切な話……? 何だろう……結理君わかる?」

影裏:「いや……最近は大人しくしてたつもりなんだがなぁ。……何かしたか、俺?」


 当主の間へ行くと、奥に当主が座り、その前に座布団がふたつ置いてある。


春見:「……春見、参りました。お爺様何の御用でしたでしょうか?」

厳蔵:「来たか、春見、結理。まずは腰掛けなさい」

春見:大人しく座布団に座る

影裏:「では失礼します……俺たちに話があるとか?」

厳蔵:「そうだ。お主たちに、言わねばならんことがある」

春見:「……」

影裏:「…………」

厳蔵:「それは、この5年。いやもっと長きにわたり隠し続けて来た事実についてだ」

春見:「……"隠して"きた事実?」

影裏:「……そういう類のお話でしたか……それで、その事実とは?」

厳蔵:「まずこの家。佐倉家は、お主たちと同じオーヴァードを多く輩出してきた家柄だ。多く、と言っても両の手で足りる数程度だがな」

影裏:「……俺たちのこと、バレてたんですね」

春見:「……」

厳蔵:「とある切っ掛けがあったからな。それまではまさかお主たちが覚醒するなど思いもよらんかったわ。──いや、正確には。春見が覚醒するなど、にわかには信じ難かった」

春見:「……私が、ですか?」

影裏:「……え? 俺が、ではなくですか」

春見:「えっと……理由を聞いても?」

厳蔵:「結理は血も引いておらんし、ないと思っておったが、それ以上に春見は。──予言の子だからだ」

春見:「予言? 私はそんなの聞いたことも……」

厳蔵:「無理もない。ひた隠しにされていたからな。

 5年前、鍛錬の間に置いてあった"眼"を覚えておるか」

春見:「……はい、覚えております」

影裏:「……佐倉家の家宝ですよね。5年前に失われた」

厳蔵:「あの"眼"は、元より佐倉家にあったものではない。外よりもたらされたものだ」

春見:「そう、だったのですか。初耳です」

厳蔵:「失われた、か。今はそう思っておいて構わぬ」

影裏:「外、と言いますと?」

厳蔵:「口頭で伝えられるところによれば。妙齢の女性があの"眼"をもたらしたようだ。それと共に、予言を残しておる」

春見:「……その予言とは?」

厳蔵:「7代後に産まれる少女こそ、この"眼"の本当の持ち主である。そういう予言だ。

 儂はそういった類の予言など信じる質ではなかったが。こうして目の当たりにすれば信じざるを得まい」

春見:「……私が、その”少女”という事ですか?」

厳蔵:「……そうだ。その右目。それこそが、我が佐倉家にもたらされた"眼"に他ならぬ」

春見:「……えっ?」

 思わず右目に手をあてる

「この右眼は……あの"眼"……」


影裏:「"眼"は失われたのではなく……春見に……」

厳蔵:「そうだ。だからこそ、その力を過信してはならぬ。その力は、いつか失われる定めにある。物品に宿ったレネゲイドであるのだから、当然とも言えよう」

春見:「──あの……お爺様。一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

厳蔵:「……なんだ?」

春見:「もし……もしこの右目から力が失われた時……私の右目は、一体どうなってしまうのでしょう?」

厳蔵:「…………恐らくは、ただの義眼に成り果てるだろう。可哀想なことだが──」

春見:「――ッ!?」

影裏:「そんな……!」

厳蔵:「物品にレネゲイドを固着させることでもできん限りは、その義眼を"眼"に戻すことはできんはずだ」

春見:「……」驚きの余りに放心している

厳蔵:「だがそのような技術。今の世には存在せぬ!」

影裏:「待って下さい、ご当主様。それじゃあ、そもそも"眼"とはなんなんですか。まさか、正体不明の物品だと?」

厳蔵:「古来より存在するアーティファクト。それにレネゲイドが宿った物品だ。仮に今からそれと同じものを作ろうとすれば、優に西暦を繰り返す、いやそれ以上の年月が必要だろう」

影裏:「……そんな物が、春見の右眼に……」

春見:「……わかりました。この眼の力を極力使わぬよう、今後を過ごしていきたいと思います」

厳蔵:「そうしてくれ。儂とて、孫の眼が見えなくなるなど」

影裏:「…………」

厳蔵:「この話、透にはしないでおくれ」

春見:「……はい」

厳蔵:「あやつだけは、この家で何も知らぬ一般人だ」

影裏:「……わかりました。話は、まだ他にも?」


 厳蔵はゆっくりと首を振る。


厳蔵:「話はこれだけだ。時間を取らせたな」

春見:「いいえ……ご忠告ありがとうございました、お爺様」

厳蔵:「よい。……健やかにな」

影裏:「待って下さい。何故、今なんですか。春見に"眼"が宿って5年間、いくらでも忠告の機会はあったはずでしょう……!」

春見:「……」

厳蔵:「……今でなくてはいけなかったのだ。二人が成長するまではな」

春見:「……いいの、結理君。私は未熟だったから」

厳蔵:「……いや。結理の言うことも尤もだ」

厳蔵:「事情があったとはいえ、5年もの歳月。この家でどれほど息苦しい思いをしたかは量りかねん。──すまなかったな」


 そう言って頭を下げる。今まで、彼がこうしてきちんと頭を下げたところを見たことは無かった。


影裏:「……な……」

春見:「!? いいえ、いいのですお爺様。頭をお上げくださいっ! 私に頭を下げるなんて……」

影裏:「……すみません、俺の方こそ、出過ぎた口をききました。ご容赦を」

厳蔵:「お主らは、すでに一人前の大人となった。そんな者らに下げられぬ頭などないわ」

影裏:「ご当主様……ありがとうございました、話していただいて」

春見:「……どうか頭をお上げください、お爺様。私は話していただいた事実に満足しております」


 数瞬、目を閉じて──


厳蔵:「いや、よい。……励めよ」

春見:「……はい」

影裏:「はい……失礼します」

厳蔵:「うむ。……結理よ」

影裏:「……なんでしょう?」

厳蔵:「春見を、よろしく頼んだぞ」

影裏:「……誓って、彼女を守り抜きます」

春見:「……結理君。……お話ありがとうございました、失礼します」

GM:ニッと笑って二人を部屋から見送る。

GM:一人残った厳蔵は、一人ゴチる。

厳蔵:「……すまぬな、春見、結理。全てを話せぬ爺を許せよ……」


 その小さな呟きは、誰に聞きとがめられることもなく、宙へと消えるのだった──。

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