第一話〜エンディング1〜
さて。エンディングとなったわけだが。私はここで、またしてもミスをしてしまった。
実は先ほどの国立病院でのシーンの他には一つのマスターシーンしか先んじて用意していなかったのである。
当然エンディングシーンが足りない状態になっていたところ、PCたちからエンディングの提案があった。それは、
影裏:戦闘後のエンディングシーン、せっかくだし何かやりたいかな。
春見:そうだね。戦闘後の、後処理のシーンをやってみたいです。
渡りに船、とばかりに私は許可を出す。つまり、ここからは再びアドリブである。
GM:君たちはキングタイガーをマットに沈めた。
同時に、彼のオルクスシンドロームで構成されていたリングは元の、何もない地面へと姿を変えた。
もちろん、照明もである。
春見:「……全部、消えた…………」
影裏:「…………」 トドメを刺した右手を、数瞬、無言で見つめる。
轟木:「……よく、がんばったな。影裏少年、佐倉少女」
影裏:「……春見、無事……ではないよな。立てるか?」
振り向き、春見に駆け寄る。
春見:「……結理君。うん、立てるよ」
立ち上がり、膝の汚れを払う。
影裏:「……そっか。よかった……本当に、よかった」
噛みしめるように呟く。
春見:「……ありがとう、結理君。護ってくれて……」
キングタイガーにトドメを刺した手を静かに握る。
影裏:「……ジャームは……キングタイガーは仕留めましたよ、轟木さん」
轟木:「ああ。よくやってくれた。本当に……本当によくやった」
春見:「……この人の亡骸は、どうするんですか? 埋葬するんですか?」
影裏:「……必要なら、俺が燃やしますけど」
轟木:「火葬場に運び、俺たちの手で燃やすのがいつもの手だが……。
今回は炎を操れる影裏少年がいる。
すまないが、お願いしてもいいかな?」
影裏:「……わかりました。ちょっとだけ、時間もらっても、いいですか」
轟木:「ああ。構わないとも」
影裏:キングタイガーの遺体に近付き、その手足を動かしていく。
足は雄々しく、仁王立ちに。
腕は猛々しく──心臓の穴を隠すように──腕の前で組ませて。
春見:「……」 側を離れない。
一緒に、キングタイガーの亡骸に黙って近付く。
影裏:「……っ……」
一瞬、肩が震えるが、黙って続けていく。
最後に、口元に頼もしい笑顔を浮かべさせ、キングタイガーの目をそっと閉じさせる。
「……お待たせしました。それじゃ……始めます……っ……!」
一瞬だけ語尾を震わせ……仁王立ちで腕を組み、笑顔を浮かべた亡骸を火葬する。
GM:影裏の黒い炎が、キングタイガーを包む。
轟木:「……少し、独り言を言ってもいいかな。
俺は、空手と同時に、様々な格闘技を修練してきた。──プロレスもまた、そのひとつだ。
……ジャームになる前の彼と、話したことがあってな。言っていたよ。
自分はヒールだから。罵声を背に戦うことしかできない、とね。
影裏:「……っ……!」
轟木:「……彼は、憧れてたんじゃあないかな。
歓声を背に戦う。それを、一度だけでも、やりたかったんじゃないか。
俺はそう思うんだ」
春見:「……」静かに、炎にむけて手の平を合わせる。
オーヴァードもバケモノも関係ない、死者に対する弔い。
轟木:「確かに、今回も歓声を背にはしていなかったさ。
それでも──彼には聞こえてたんじゃないかな。
彼を想う、歓声ってやつがさ」
影裏:「……ええ……ヒールは、俺の方だった。
俺の方が……殺すことでしか……止められなかった……!」
春見:「結理君……それは、私も一緒だよ。だから……自分を責めないで?
私だって……あの人に”死ね”って……そうしたら、本当に自分で……首をっ……!」
その光景がフラッシュバックし、言葉が止まる。
影裏:「……春見っ」
その頭を抱きかかえる。
「分かってる。お前は俺を守ろうとしたんだ。それは……きっと、悪なんかじゃない」
春見:「……あり、がとう……結理、君」
消えそうな、か細い声でお礼を言う。
轟木:「……彼は、終始、影裏少年を”アマイマスク”と呼んでいたな」
春見:「……アマイマスクって、誰なん、ですか?」
抱きかかえられたまま、言葉を紡ぐ。
轟木:「彼の、生涯のライバルにして。友人だ」
影裏:「……アマイマスクにも、キングタイガーの死の真実は、知らされないんですよね」
轟木:「そうだな。言うわけにはいかないだろう。
……しかし思えば、アマイマスクとの戦いの時だけは、両者に歓声が送られていたな。
アマイマスクにも伝わっているさ。キングタイガーの、思いって奴がな」
影裏:「思い……。俺たちを、人間に留める、楔……。
……それならきっと……絆を結んだ相手がいるなら。
……彼は、人間として逝けた。……そう、ですよね」
轟木:「……ああ。そうだとも。
それも、互いに認め合った仲に沈められたんだ。そうでないはずがないさ」
影裏:「っ……ありがとう、ございます……轟木さん」
春見:「……っ。轟木さん方は、いつも……こんな事を?
いつも……こんな辛い事を引き受けているんですか?」
轟木:「……ああ。これからもだ。これから、もっと増えるだろう」
春見:「これが……もっと沢山……」
轟木:「もしかしたら、全人類がジャームになるまで、増え続けるやもしれん」
影裏:「こんなことが……これからも……続くのか……」
轟木:「……本当なら、今回手伝ってもらえただけで、満足するべきなのだと思う」
春見:「……‥…」
影裏:「…………」
春見:「終わらない……戦いなんですね」
轟木:「だが、俺たちには戦力が圧倒的に足りないんだ。
これだけの力を持つジャームたちから、せめて日本だけでも守り抜きたい。
そのための、人の力ってやつが、俺たちには足りていない。
だから──恥を承知で、頼む。
俺たちに、力を貸してくれないだろうか。……これからも」
GM:そう言って、深々と頭を下げる。
春見:「……結理君、どうする? 私は……結理君に着いて行く。
結理君が戦うなら……私も戦う……よ。
……覚悟はまだ出来てないけど、私がやりたい事はそれしかないから……」
影裏:「……春見……。
……俺は、一生、佐倉家の皆に恨まれることになるんだろうな。
春見を巻き込んだって」
春見:「ううん。これは、私が望んだ事なの。
お爺様にも、お母さんにも……恨まれることなんてないよ」
影裏:「……なら、決まりだな。俺の主義に、付き合ってくれ。
……轟木さん。頭を上げて下さい」
轟木が頭を上げた視線の先には、右手を差し出した影裏の姿がある。
轟木:「本当に──いいのか」
影裏:「……やめて下さいよ。何度も聞かれちゃ、答えが鈍りそうだ」(苦笑)
GM:轟木は、くしゃりと笑いながら。
影裏:「俺たちを、護人会に入れて下さい」
GM:影裏は、苦い顔で笑いながら。
轟木:「ああ──よろしく頼む。影裏少年。佐倉少女!」
GM:その手を、握り返した──。
ジャームを殺すことに、心が揺れそうになるたび。きっと君たちは思い出すことだろう。
この手の、温かさを──。
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