第9話 レゼェラの二帝会戦Ⅳ
「王と諸侯の従士たちよ! 戦功が欲しければ、この私に続きなさい!! 勇気を奮い立たせなさい! そうすれば……必ずや、王はあなたたちに馬と土地を与えてくださるでしょう!!」
ブラダマンテは剣を振り上げ、少数の護衛の騎士と共に突撃した。
そのあとを追うように諸侯の従士たちが、その後ろを王の従士たちが続く。
彼らの身分は、謂わば騎士未満平民以上。
戦功次第では領地と馬を与えられ、騎士に、場合によっては貴族となることができる。
故に士気も旺盛であった。
ブラダマンテ率いる、やる気十分の一八〇〇〇の歩兵を迎え撃つのは、エドモンド率いる、レムリア帝国の常備軍歩兵一四四〇〇である。
「弓兵部隊……発射!!」
従士歩兵たちの多くは装備も統一されてはおらず、皮の鎧のような、軽武装の者も少なくない。
故に矢の攻撃を受ければ一たまりもなく、次々と戦場に倒れていく。
だが……
「怯むな!! 我らの雄姿を見せるのだ!!」
「「「おおお!!!」」」
数が多い。
そして士気だけは高い。
死体の山を作りながらも、あっという間に距離を詰めていく。
「弓兵、下がれ……長槍部隊、構え!」
エドモンドの指揮により、一糸乱れぬ動きでレムリア軍は長槍による槍衾を作り出す。
しかし……
「懐に潜り込め!! 進め、進め!!」
フラーリング軍の歩兵たちは止まらない。
やや強引に槍衾を潜り抜け、押し込むようにレムリア軍の陣形を突き崩そうとする。
数と士気の暴力がそこにはあった。
「……ハルバード部隊、側面へ回り込め」
エドモンドは平静を保ちながら、両側面のハルバード部隊を動かした。
自軍に食い込んできたフラーリング軍を包囲しようと画策する。
「国王従士隊! 諸侯の従士たちを援護しなさい!」
ブラダマンテは後方に控えていた国王従士隊を前に出した。
彼らがレムリア軍のハルバード部隊を抑え込み、側面包囲を妨げる。
じりじりと押し込まれていくレムリア軍。
エドモンドの表情に焦りの色が出始める。
「さあ、このまま押し込みなさい! っつ!!」
殺気を感じたブラダマンテは、咄嗟に剣を振った。
飛んできた無数の矢を弾き返す。
そして矢を放った敵将を睨みつける。
その人物は……
「ブラダマンテ様! 急報です。我が軍側面が、敵の騎兵部隊に脅かされています!」
「敵将、ジェベですか。なるほど、あの時も彼に邪魔をされましたね」
ブラダマンテは不敵に笑みを浮かべた。
そして声を張り上げる。
「臆することなかれ! 敵は少数!! 正面の敵に集中しなさい!!」
さて、戦況は刻々と変化しつつあった。
まずフラーリング軍左翼ローランとレムリア軍右翼カロリナの戦いは、ほぼ拮抗を保ちながらも、僅かにレムリア軍に天秤が傾きつつあった。
フラーリング軍右翼アストルフォとレムリア軍左翼アリシアの戦いは、双方の騎兵の質が如実に現れ、天秤が大きくレムリア軍に傾いていた。
中央前方の戦いでは、ソニア率いるチェルダ兵がチュルパンエデルナ騎士・歩兵を突破しつつあり、ルートヴィッヒ一世の本陣へと迫っていた。
一方レムリア軍中央左翼ガルフィスとフラーリング軍中央右翼マラジジはようやく接敵し、戦いを開始していた。
最後にレムリア軍中央右翼エドモンドとフラーリング軍中央左翼ブラダマンテの戦いは、ジェベの妨害支援をも跳ね除け、フラーリング軍に大きく天秤が傾いていた。
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エルキュール、ルートヴィッヒ一世の双方はそれぞれ決断を迫られていた。
(このままでは、レムリア軍の左翼騎兵が我が軍右翼騎兵を突破するのは時間の問題。その前にブラダマンテにレムリア軍中央右翼を突破してもらわねばならないが……このままでは敵の方が一歩早い。となると、中央から援軍を出さねばならない。しかし中央から援軍を出せば、エルキュール一世は中央の歩兵を前に出してくるに違いない)
エルキュールは未だに中央後方に常備軍の歩兵一四四〇〇と重・中装騎兵七二〇〇を予備部隊として残している。
これがルートヴィッヒ一世に圧力を与えていた。
(だが、エルキュール一世が中央の歩兵を前に出せば……レムリア軍の後方は手薄になるか。ブラダマンテが敵より一歩早ければ、レムリア軍を包囲殲滅できる。……となると、援軍の選抜は注意しなければならないな)
一方でエルキュールもまた、思案を巡らせていた。
(思ったよりもエドモンドが持ちそうにない。このままでは、我が軍中央右翼が突破されるのも時間の問題か。本来ならばカロリナが敵の戦力をもう少し引き付けてくれるはずだったが……敵将ローランが想定以上にやり手だ。あそこでは勝負が決まる気配がない。となると、望みがあるのはアリシアか、ソニアか。だがどちらも時間が掛かる上に、最低限援軍を呼ばなければ決定打にならない)
ソニアに援軍を送るのであれば歩兵を、アリシアに援軍を送るのであれば騎兵だろう。
ソニアが成功すれば中央突破が、アリシアが成功すれば側面攻撃に成功する。
(やはり敵将ブラダマンテ率いる敵の中央左翼が脅威。となれば、中央の歩兵は動かせん。となれば、アリシアだな)
そして二人はほぼ同時に決断を下した。
「アリシアに伝えろ。今から重・中装騎兵四個大隊、四八〇〇を援軍として送る。早急に敵の右翼を突破し、片翼包囲せよ! 勝敗はお前に掛かっている」
「チュルパンに伝えろ。後方に下がり、諸侯の従士歩兵一二〇〇〇及び近衛騎兵一〇〇〇を率いてブラダマンテへ援軍として加われ。エデルナ騎士・歩兵の指揮は余が引き継ぐ。中央は気にせず、ブラダマンテと共に敵の突破を優先せよ!」
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ルートヴィッヒ一世の指示を受けたチュルパンは、エデルナ騎士・歩兵の指揮を全て主君に託し、精鋭である国王近衛騎兵部隊一〇〇〇と、そして国王従士歩兵部隊一二〇〇〇の再編成を行い、ブラダマンテに加勢するべく動き始める。
エドモンドとジェベは新たな敵の援軍の気配を察知し、これを持ちこたえようと兵士たちを奮戦するように鼓舞した。
ソニアはフラーリング軍の中央が手薄となったのを好機と見做し、尚一層攻勢の手を強め、ルートヴィッヒ一世の首を狙う。
一方アリシアはエルキュールの期待に応えるべく、アストルフォ率いる敵の殲滅に取り掛かる。
アストルフォは攻勢の手を強めてきたアリシアに対し、どうにか持ちこたえようと奮戦する。
ガルフィスはアリシアが敵左翼を突破しようとしていることを読み取り、本格的に敵中央右翼への攻勢を始める。
マラジジはアストルフォが持たないこと、そしてガルフィス率いる敵の中央左翼の攻勢が強まったことを察知し、自軍右翼全体を持ちこたえさせる方策を練り始める。
そしてカロリナ、ローランの二人は対峙する敵が、敵の援軍へ向かわぬように、剣を振るう。
双方の決断が、吉と出るか、凶と出るか。
勝利の女神はどちらに微笑むか。
全ては各々の将の奮闘に託された。
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