第8話 休戦協定

 アズダヴィア攻囲戦での勝利から十日後。

 四月初旬、三十一歳となったエルキュールはテリポル市に戻っていた。


 今は配下の将軍たちに命じて、テリポルタニア地方の敵の抵抗勢力を一掃している最中である。

 同時並行で募集しておいた屯田兵、約十万を入植させる準備を行っている。


 テリポルタニア地方をレムリア帝国の領土として定着させるためだ。


 チェルダ王国との交渉は現在、トドリスが行っていた。

 エルキュールとしては一先ず、テリポルタニア地方を支配地域に組み込めれば良いので、この辺りで講和を結ぶことができれば嬉しいのだが…… 

 しかしチェルダ王国としてはそう簡単に認められることではないようで、講和条約の締結に関しては難航していた。


 しかしチェルダ王国は大敗で失った兵の補充がまだできておらず、さらに政治的に混乱しているということもあり、休戦協定に関しては結ぶことができた。


 故にエルキュールはその隙にテリポルタニア地方を完全にレムリア化してしまおうとしているのだ。

 既成事実にしてしまえば、敵も認めざるを得ないからである。


 「しかし……誕生日も感謝祭も結婚記念日も新年も全部、戦場で過ごしたことになるなぁ、ルナ」

 「そうだね、陛下」


 戦争が終わり、安全になったということもあり……

 ルナリエもまたエルキュールに会いにテリポル市へと来ていた。


 エルキュールはタオルを腰に巻いただけの裸で、台の上でうつ伏せになっていた。

 手には鎖のようなものを持っており……それはルナリエの首へと続いていた。


 ルナリエは奴隷のような首輪に手枷、足枷を付けさせられていた。

 服装もまた奴隷のようで……肌が透けて見えるほどの薄い布を身に纏っていた。


 構造はエプロンに似ており、首から布を垂らすような形になっていて、辛うじて胸から膝上三十センチまでの部分は隠れていたが……

 その白い肩や鎖骨、背中、腋、臀部の半分が露出してしまっている。


 加えて風呂場の蒸気と熱気により、布は大気中の水分とルナリエの汗を吸い、肌に張り付いており、服としての機能を有していなかった。


 二人の目の前には大きな姿見があり、ルナリエの目には嫌でも自分の姿が見える形になっている。


 風呂の熱気と恥辱からか、ルナリエの頬はほんのりと赤らんでいた。


 「ルナ、お前……昔よりも上手くなったな。んぐ……よし、良いぞ。そこだ」

 「……おかげ様で」


 複雑そうな表情でルナリエはエルキュールの背中へのマッサージを続ける。

 

 「あ、あの……皇帝陛下。こ、これで、よろしいのでしょうか?」

 「アリシアか、ようやく来たな。ぐずぐずしてないで、首輪と鎖を付けてマッサージをしろ」


 ルナリエと同様の服装に、手枷と足枷を付けて現れたアリシアは……

 恥ずかしそうに歩きながらもエルキュールの下に歩み寄った。

 そして用意された首輪と鎖をつける。


 エルキュールがアリシアの鎖を引っ張ると、アリシアは少し苦しそうに、若干の悦びの表情を浮かべながら呻いた。


 「お前は下半身、腰と足をやれ」

 「はい……陛下」


 アリシアはエルキュールの下半身への指圧を開始する。


 「あぐっ……」

 「あ、すみません。痛かったですか?」

 「……構わない、続けろ」


 足先を強く指圧したアリシアは、エルキュールの呻き声を聞き謝罪をするが、エルキュールは続けるように促した。


 「……っ、ふぅ」

 「陛下。ここ、凝ってる」

 「最近、久しぶりに書類仕事をしてな。やはり戦場で体を動かしている方が健康には、っく、良いみたいだ」


 ルナリエとアリシアの指の動きに、時折少し痛そうに、気持ちよさそうに声を上げるエルキュール。

 二人はいつもとは少し違う展開――自分たちがエルキュールを責めている――に少しわくわくし始める。


 「皇帝陛下、ここはどうですか?」

 「っくぅぁ……そこは、少し痛みが、いや、ふぅ……続けろ」

 「陛下、ここは?」

 「く、ふぅ、少しくすぐったいな。あ、ふぅ……そこか、何か、痒いな。つ、続けろ」


 熱気で顔を赤くし、汗を掻きながら……

 二人の指の動きに従い、時折体を震わせて、喘ぐエルキュール。


 ルナリエとアリシアは顔を見合わせ、ニヤリと笑みを浮かべた。


 そして二人でさらにエルキュールの凝っているよわいところを探し当てようとする。


 「皇帝陛下! おくつろぎのところ、申し訳ございません。私も入って良いですか?」

 「その声はニアか……良いぞ」


 エルキュールが許可を出すと、水着を身に纏ったニアが入ってきた。

 赤と白のボーダー柄の可愛らしい三角ビキニだ。

 柄は可愛らしいが、面積は割と小さいのでかなり際どい上に、布が少し薄いのでいろいろと浮き出ている。


 残念ながら奴隷用の服は、ルナリエとアリシアのものしかなかったのである。


 「へ、へいか……わ、私もマッサージしても、よろしいですか?」

 「うーん、そうだな。じゃあ手を頼むよ」

 「はい!」


 ニアは嬉々とした表情でエルキュールの手を掴み、指圧していく。


 「へへへ……陛下、この辺りですか?」

 「っく、お、お前、上手いな」

 「ここはどうですか?」

 「っく、はぁ……良いぞ」


 ニアのマッサージを受けて、気持ちよさそうに声を上げるエルキュール。

 ルナリエとアリシアは負けじと、さらにマッサージに熱を入れていく。


 「ルナリエ妃殿下、アリシア様」

 「……何?」

 「何だ、ニア殿」


 二人はマッサージの手は止めずに、ニアの方を向いた。

 ニアはじろじろと二人の姿を見て、ニヤリと笑みを浮かべた。


 「二人とも、とてもお似合いですよ。……透け透けで、とってもエッチですね」

 「……そう」

 「……」


 二人は思わず顔を赤くし、両手で自分の体を隠した。

 そしてハッと、気付き、エルキュールに謝罪する。


 「ご、ごめん……陛下」

 「すみません、皇帝陛下。手を止めてしまいました」

 「いや、もうそろそろやめようとしていたところだし、良いよ。それに今のはニアのセクハラが悪い」


 エルキュールはそう言って台から起き上がった。

 そして黒いハート型の尻尾を鷲掴みにした。


 「ひやぁ!」

 「この性悪女め……本当にお前は悪い子だな」


 尻尾を掴まれたニアは思わず悲鳴を上げた。

 そして顔を赤らめ、身を捩らせる。

 しかしエルキュールに尻尾を掴まれている以上、下手に体を動かすこともできない。


 荒く息を吐き、身悶える。


 「ルナ、アリシア。今夜は三人でこいつと遊ぼうか」

 「ちょ、ちょっと! へ、陛下、そ、それはどういう、ひぎゅぅ……」


 ニアは抗議の声を上げるが、エルキュールに強く尻尾を掴まれ、堪らず声を上げてしまう。

 そして力が抜けきってしまったのが、床に倒れてしまう。


 「ほれ、尻を上げろ」

 「ひぅ……か、勘弁してください……」


 エルキュールが尻尾の先端を弄りながら、それをピンと張るように持ち上げた。

 それに伴い、ニアは腰とお尻を突き上げるような形になる。


 「な? 面白いだろ? 三人で弄り繰り回したら、絶対に面白いぞ」

 「……私も触りたい」

 「皇帝陛下。私にも、仕返しさせてください」


 ルナリエとアリシアは夜が待ちきれない様子で……

 両手をワキワキとさせた。


 これにはニアも涙目で、怯えたような声を上げる。

 そして状況を切り抜けるために、叫ぶようにいった。


 「っ、ん、ぁあ……へ、陛下。じ、実は、そ、その……陛下に、お伝えしたい、こ、ことが、ありまして」

 「ん? 何だ、言ってみろ」

 「ほ、ほら、わ、私が捕まえた、雌犬……チェルダ王の婚約者、ソニア・リュープス・ゲイセリアのことで、お、お話があるんです!」


 ソニアの話を持ち出されたエルキュールは、ニアの尻尾を放した。

 今ではなくても、今晩虐めればいいだけの話である。


 「そう言えばこのテリポル市の牢に閉じ込めているんだったな。俺はまだ会ってないが……」


 激しく暴れるため牢に閉じ込めてはいるが……

 ソニア・リュープス・ゲイセリアはチェルダ王国の大貴族カーマインの娘、リュープス・ゲイセリア家の姫君であり、そして未来の王妃である。


 いつまでも粗雑な扱いを続けるわけにはいかない。


 「一応、顔だけは拝んでおくか……」

 「そ、その、陛下! ソニア姫は私に一任してくれませんか?」

 「うん? それはどうしてだ?」


 もしかして情でも沸いたのだろうか?

 と、エルキュールは思い至った。


 戦場で芽生える女将軍同士の友情。

 ありがちな話である。


 ニアに限ってあり得ない……とは思うものの、完全に否定し切ることはできない。


 「あの雌犬、じゃなかった、ソニア姫の調教、じゃない、拷問、じゃない、尋問を私にやらせてください!」

 「……」


 ところどころ漏れ出る本音にエルキュールは胸を撫で下ろした。

 やはりニアはいつものニアであった。


 「私に任せてくだされば、あの雌犬を完全に調教してみせます! 陛下がお気に入りなられるように、躾けてみせます」

 

 もはや欲望を隠す気のないニアに、エルキュールは尋ねる。


 「具体的には?」


 「あいつ、〇女みたいですからね。取り合えず、処〇は陛下への献上品として残します。そして〇女のまま〇〇を〇〇してやります。処〇なのにも関わらず、〇〇〇で〇〇まくる変態〇乱ド〇の〇〇〇〇〇雌犬奴隷にします。そして陛下に処女を献上した後は、大麻と阿片を吸わせまくった後で、〇〇と〇〇〇に、犬の尻尾を取り付けた太い振動する〇〇〇を突っ込んで、〇〇と〇〇〇〇〇に〇〇〇を打ち込んで鎖で繋ぎ、真昼間から散歩させた後、男共に徹底的に〇〇させて、あいつの大嫌いで軽蔑している貧民の人族ヒューマンの子供を〇んだら、〇〇腹のまま、あいつの婚約者のところに返却します。……どうですか?」


 「そこまでやるなら、タトゥーとか刺青まで入れてやれ」


 「さすが陛下です! それで行きましょう」


 満面の笑みを浮かべるニア。

 エルキュールもまた満面の笑みを浮かべ……


 ニアの尻尾を鷲掴みにした。


 「ひゃん!!」

 「バカか、お前は。仮にも大貴族の姫君に、そんなことできるわけないだろ。丁重に扱え。尋問も禁止だ。失礼になるからな」

 「しょ、しょんなぁ……で、でも、あ、あいつ、私のことを魔族ナイトメアだって言って、バカにしたんですよ?」

 「よーし、分かった。今晩はお前がソニア姫にやろうとしたことを、出来る限り再現してやろう。そうすれば少しは相手を思いやれるようになるだろ?」


 エルキュールがそう言うと、ニアは泣きながらエルキュールに縋りついた。


 「ひぃ……へ、陛下。お、お許しください……ご、ご冗談ですよね?」

 「俺は他人にお前を抱かせようとは思わないから、それに関してだけは安心しろ」

 「そ、それ以外はやるつもりなんですか!」

 「それは場合による。でも俺の子供なら妊娠しても良いだろ?」

 「あ、確かに。それならむしろ幸せ……って、他の部分は許してくださ、ひぃぅ!」


 再び尻尾を掴まれて、悲鳴を上げるニア。

 ビクビクと震えているニアで遊びつつ、エルキュールはルナリエとアリシアの方を向いた。


 「お前ら、どうしてそんな不満そうな顔をしている?」


 エルキュールは複雑そうな表情を浮かべている、ルナリエとアリシアに尋ねた。

 二人は顔を見合わせた。


 「……陛下。私はハヤスタンの姫、そして今は女王」


 そう言ったのはルナリエだった。


 「私、丁重に扱われなかった」

 「お前は自分のやったことを振り返り、ちゃんと胸に手を当てて考えろ」

 「……夜這いされて、強姦された」

 「それをされたのはお前ではなく、俺だ」


 エルキュールがそう言うと、ニアが小声で呟いた。


 「それは絶対に嘘……ひぐぅ!」

 「当事者じゃなかった奴が口を挟むな。それでアリシア、お前は何か、不満があるのか?」


 エルキュールが尋ねると、アリシアはふるふると横に首を振った。


 「そんなこと……欠片もありません」

 「嘘を言ったら仕置きだぞ」

 「少し、思うところはあります」


 あっさりとアリシアは白状した。


 「ほう、具体的に言ってみろ」

 「公衆の面前で全裸にされて、靴を舐めさせられました。……私も姫のはずなのに」

 「あれは爆笑ものでし、ひぎぃ!」


 口を挟もうとしたニアを、尻尾を握りしめることで黙らせる。

 

 「でもお前、協定違反もしたし、俺を矢で射抜いたじゃないか」

 「……その節はすみません」


 アリシアは目を逸らした。

 ルナリエとは違い、アリシアは開き直るほど図々しい性格をしていない。


 「まあ、良いか。とりあえず、ソニア姫のところに行ってみよう。俺は先に出る、お前らもすぐに着替えて来い」

 「「「はい」」」

 「あ、ニア、お前は水着のままな」


 エルキュールがそう言うと、ニアはギョッとした顔をした。

 そして鏡に映る、自分の体を確認する。

 ……この姿で外を出歩くなど、考えただけでゾッとする。


 「そ、そんな!! 冗談ですよね!?」

 「命令だ」

 「ひぅ……分かりました……」


 尻尾を握られたニアは半泣きで頷いた。

 

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