第6話メバル釣りが始まるみたいです。

 満月の月光が周辺を照らす。

 真っ黒な闇をかき消すようの、海に反射している。

 携帯の明かりがゆんの顔を照らす。


「おーい。待った?ごめんね」


 汗を額のたらしながら、由紀が「ハアハア」と息を切らしている。


「由紀ちゃん、遅いよ。もう1時間も過ぎて、今が満潮だよ、もう」


 ゆんは目をバッテンのように、目をつぶりながら言った。

 頬が少しばかり赤い。


「ごめん。ファミチキ奢るからさ。ね、ね」


「ファミチキ2個、それかジャンボフランク1個」


「ちょっと、待てって、それじゃファミマ1個にコロッケ1個はどう?」


「……ファミチキ2個、ジャンボフランク1個」

 ゆんは低い声で言った。妙に笑顔なのが、恐怖なところだ。

 由紀はまぶたを手で押さえながら、ため息を吐いた。


「わかったよ。ゆん。私が悪かったよ。ファミチキ2個奢るよ」


「よろしい。もう遅刻しないでね」

 ゆんは右目を閉じながら、ニコリとウインクをした。

 遅刻がイケナイ。分かっているのにもかかわらず、遅刻した由紀が悪い。

 再度、ため息を吐いた由紀がうつむきながら、頭をかいた。


 由紀は「うーん」と背伸びをする。鼻につく香りは磯の匂いだ。

 ピチャピチャと岸壁に波が当たる音が聞こえてくる。


「やっぱり満潮だと人が多いね。由紀ちゃん」


「そうだね。1、2、3……、6人ぐらい居るね。こんな事なら早く来れば良かった」


 由紀は頬をぽりぽりとかきながら、赤灯台を見つめる。

 ゆんは、むしゃむしゃと、ファミチキを食べる。

「むしゃむしゃ、むしゃむしゃ、だね」


「は? 何言ってんの? 食べるか、喋るかどっちかにしなさい」

 由紀は「ジトー」とした目でゆんを見た。


「……、ごっくん。人多いけど、人と人の隙間から投げてみるよ」


 ゆんは道具を地面に置くと、背中にかけてあった竿ケースから、ゆんの竿を取り出す。

 リールから糸を手にとって、竿に糸を通す。

「由紀ちゃん、ライトとハサミ持ってない?」


「持ってるけど、まさか持ってないの?」


「うん。由紀ちゃんが持ってきてると思って忘れちゃった」


「確信犯ってわけね。ハサミとライトは私の準備が終わるまで待ちなさい」


「はーい」

 ゆんは道具を見つめながら、由紀が準備出来るのを待っていた。



 由紀は竿に糸を通すと、針にくるくると糸を通す。

 ぎゅっと取れないようにくくると、残った糸をハサミで切った。


「はい、ゆん、終わったわよ。ハサミとライト使いなさい」


 由紀は手に持っているライトでゆんを照らす。

 ゆんは右斜め45度の角度で顔を傾け、ニコリと笑みを見せた。


「由紀ちゃん、私の代わりに準備して」


「いい笑顔でだけど、ゆんの準備は自分でしなさいよ。あんた出来ないわけじゃないんでしょ」


 ゆんは「えへへ」と右手で自分の頭をかきながら、

「ハサミとライトありがとうね。少し借りるよ」


「うん。使ってちょうだい」

 由紀はライトをゆんに手渡すと、手に持っているリール、竿の順で見つめる。

「今回も釣れるといいな。ゆんも頑張ろうね」


「うん。頑張ろ!  大物釣ろうね」


 ゆんも準備が整うと、道具を手に持ち、投げられる場所に移動する。


「どこも人がいるみたいだね。由紀ちゃん」

 ゆんは周辺にポツポツと居る人に指をさした。由紀は口がへになりながら、渋い顔をする。


「あの赤灯台のところ行ってみよう。人多そうだけど……」

 手に持ったライトで照らしながら、由紀とゆんは赤灯台まで歩き出した。

 満月の月光が明るく、海の水面がうっすらと見える。

「ねえねえ、由紀ちゃん、水面に見える魚って何かな?メバルかな?」


 由紀は海の水面をじっと見つめる。


「これはフグじゃないかな?小さいけど」


「食べれるかな?小さいけど」


「フグ調理師資格持ってないでしょ。捕まっちゃうよ。それに食べたら毒がまわって……」


「た、食べないよ。私はまだ生きるよ」


 ゆんは目をバッテンとしながら、由紀に言った。

 由紀はゆんの顔をちらりと見てから、ニコリと笑みを浮かべて歩き出す。

「けど、フグはワームを喰いちぎるから、私たちの天敵でもあるんだよ。ってか、今日はメバル、大物釣るんでしょ」


 ゆんは自分の頭を撫でながら、「えへへ」とニコリと笑う。

「そうだね。由紀ちゃん。今日は釣るよ。早く行こう」


「そうだね。だけど、人が多すぎて、すでにスレているかもだけどね」


 由紀は竿をぎゅっと握りしめて、満月を見渡した。

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