雪に埋もれて


クサビナ王国王都ケツァル。白亜の街は雪が積もり輝かんばかりの白さを持って、その美しさを人々に示していた。


クサビナの冬は其々の街、村が雪に閉ざされ行き来が無くなる。

寒さに加えて10日後に年越しを控えており王都は人気が少なかった。


兵士達は日々雪掻きに奔走し、道端には人の背よりも高い雪の壁が出来ている。

そんなケツァルで一見目立たないが水面下で意欲的に活動する集団があった。

彼等は栗色の髪を染め粉で黒く染めてエリンドゥイル一族に容姿を似せていた。


エリンドゥイラ一族は極薄い水色の虹彩を持つ為、そうしてしまうと彼等の薄い灰色の虹彩はケツァルでもさして珍しくは映らなかった。


アケルエントから遥々3つの国を跨ぎここまで辿り着いた王女ダーラ一行は積もり始めた深い雪に足を取られて大国クサビナの王都で立往生していた。


しかし其れは悪い事ばかりでは無かった。

彼女らは王都ケツァルで目的である河口の龍について有り余る冬の期間を使って調べようと考えたのだ。


「街の人達からは何か聞けた?」


寝台に腰掛ける美しく若い女、王女ダーラが顳顬を揉み込みながら口を開く。

宿の一室に集った男女は6人。男が4、女が2であった。

皆ダーラの前に直立している。


「赤鋼軍が魍魎を退治した話は幾らか聴く事が出来ましたが龍の目撃情報はありませんでした。」


初めに答えたのは大柄な五分刈りの男、タナシスであった。

タナシスは母国アケルエントでは王女の護衛兵長を務めていた男である。


「我々は伝承を当たっておりますが、芳しい成果は未だ得られておりません。」


タナシスに続いたのはダーラお抱えの小規模傭兵団の1人であるテオだった。


「成る程ね。因みにエッカルトは?」


ダーラが尋ねるとタナシスが溜息をついて口を開いた。


「いつも通り、街で見た目の気に入った女に声を掛けて、連れ込み宿へ出入りをしております。・・・ダーラ様、矢張り私は納得がいきませぬ!あの様な低俗な輩が龍を倒せる筈がありませぬ!」


タナシスの怒りは皆に共通したものだった。

エッカルトには龍どころか鬼や獣も荷が重い。


「ダーラ様。何故あの男を連れ歩くのですか?ダーラ様に金を集り湯水の様に無駄遣いしております。幾らか潤沢な資金を持っていてもこのままでは!」


精悍な面立ちの30前後の男、ミキスが声を張り上げた。

ミキスはダーラがアケルエントで組織した戦士隊の副長を務めていた男である。


「・・貴方達がそこまで苛立っているなら私の考えを伝えておくわ。私にとってあれは贄よ。期待などしていない。私は私が出来る全てを費やして災厄を止める為に努力をする。其れはエッカルトが居ようが居まいが関係ない。そうでしょ?」


タナシスとミキスは頷いた。


「でも確かに欅様の御告げはなされて御告げの通りにエッカルトが現れた。私達には分からない何かがあれば、その時になればあれは役に立つ。立たなければ私達でどうにかする。分かる?」


タナシス達は漸く得心がいった様だった。

ダーラにとってエッカルトの存在は役に立つ可能性の低い保険なのだ。


「・・・話しは変わりますが、ケツァルの者達がやけにおどおどとしている原因が分かりました。」


沈黙を破り口を開いたのは傭兵のサンドラであった。


「2年近く前に王都を三体の巨大な獣が襲った様です。」


「巨大な獣?このケツァルにか?まさか!」


サンドラの言葉に否定的な言葉をミキスが返した。


「ミキス殿、その件は私も確認した。ケツァルの民草は春が来るのを恐れている。冬眠していた魍魎が目覚めて空腹のあまり王都を襲うのではないかと。」


疑惑にタナシスが答える。


「ペルポリスでもここ2、300年は魍魎による被害は出ていないわよ?それが、このケツァルで?」


ダーラ達はクサビナ王都近辺の広大な畑地を訪れる際に見ている。稍雪に覆われてはいたものの、他国では見られない広大な畑地はそれだけ森を押し返し、魍魎を駆逐している証である。


「森に異変でも起きているのだろうか・・?」


ディミトリが難しい表情で独り言ちた。


「ガジュマ王城の崩落と言い、中央はきな臭いわね。ラクサスの国民はクサビナの襲撃だと噂していたけど、私はそうは思わない。欅様の御告げ通り内乱は必ず起きる。ケツァルの空気は張り詰めてる。雪が溶けて直ぐに兵を集め始めてもおかしくない程よ。」


ケツァルに住まう者達はそんな噂を所構わず話していた。


「矢張り内乱は避けられませぬか。」


タナシスがぼやく。

内戦さえ起こらなければ龍を倒す必要も、龍について調べる必要もない。


そんな話し合いを密かに行ってから数日、ダーラはミキスと共に立てていたある計画の実行に移っていた。


王城の第一門内区画に存在する王立書館への侵入である。

しかし第三門から既に違和感を覚える程に厳しい警戒が敷かれ、侵入は阻まれた。


「魍魎を警戒しているのかしら?」


「・・それならば外壁の警備を強化するのではないでしょうか?」


ダーラとミキスは話し合う。


「そうよね。じゃあ・・賊?天下のクサビナ王都ケツァル王城に?」


「考え難いですね。テオ達に以前何かあったか確認させましょう。」


そうしてダーラとミキスは第一区画侵入に向けて警備の盲点を探し、テオ、ディミトリ、キッサ、サンドラは龍や内戦、王都での出来事について情報を集めた。


タナシスはアケルエントの複数の間諜と密かに打ち合わせを繰り返し数日が経った。


噂では目新しい話は確認できなかった。

テオ達は町民からの聞き込みを辞めて民間伝承や御伽噺などの調査に移行した。


タナシスが繰り返していた間諜との打合せで気になる情報を得ることが出来た。


魍魎襲撃前後の騒動についてである。


ある男はタナシスにこう語った。

男は靴屋を営んでいる。腕は時折中級貴族から依頼が来る程度には良く、採寸の為に第二区画に訪れる事があると言った。

雪が溶け始め、ケツァルの白い路面が荒れ割れた頃、一つの出来事が起こったと言う。

赫兵カヤテ・グレンデルが売国行為を行い虜囚となったと言う。


男は勿論、話を聞いたタナシスも、さらにその話を聞いたダーラですら首を傾げた。


カヤテ・グレンデルはクサビナ三英傑と呼ばれる名高い英雄だ。

眉唾な話ではあるが、齢10にも満たぬ幼少から戦場で剣を振るまごう事なき天才だと。


加えてグレンデル一族はクサビナ有史千余年、王家に忠節を尽くす大貴族である。

富、名誉を人並み以上に持っていたはずの赫兵が如何なる理由で国を売るのかと。


しかし内々で処刑は為されたと言う。

その上でグレンデル一族は王家に異議申し立てを行わなかった。


ダーラはここで考えた。

或いはクサビナ王都で噂されるグレンデルとファブニルの対立はこの件に端を成しているのでは無いかと。


疑問は残る。幾らか英雄とは言え高々一個人を追い落とす意味があるのかと。


だが現に結果としてみればグレンデルは立場を悪くしてもいる。

一個人を貶める事でこの状況を作った者が居たとするなら、それは恐ろしいまでの叡智である。


話を戻す。カヤテ・グレンデルが処される2日前、魍魎の襲撃は起こった。

靴屋は魍魎を直接見る事は無かった。

だが訪れていた第二区画の貴族邸で騒動の音を聞いたと言う。


まず初めに靴屋が耳にした騒動に関する音は魍魎被害のあったケツァル外壁西門では無く王城の正門の方向だった。それは人が騒ぎ立て、怒鳴る物だった。


微かに届く喧騒は直ぐに静まり、靴屋もさして気に止める事は無かった。

次に異音を耳にした時、靴屋は貴族の女の足の採寸を終えて道具を片付けて邸宅を辞そうとしている時のことだった。


くぐもった爆発音が城の方向から聞こえてきたのだ。

音の大きさからかなりの規模の火行法だと推察された。

屋敷から出ると明らかな戦闘音が春風に乗って耳に届いた。


そしてあの地響きと野太い、地の底から響くような鳴き声が聞こえたのだ。3度もである。


靴屋の話でダーラ達は魍魎の襲撃前に何がしかの騒動が起こっていた事を知る事ができた。


タナシスが2人目に聴取を行なったのは城仕えの侍女であった。

この侍女はアケルエント貴族と二代前に婚姻を結んだ貴族の三女で行儀見習いの為に城に勤めていた。

この貴族の女系は間諜とは言わずともアケルエントへ可能な範囲で情報を流して来た。


その彼女は件の日に城に詰めていたのだと言う。

常日頃から変わらぬ日常は男の怒声から始まった。

侍女は後宮の幼い王族に読み書きを教えていたが、表の本城方面から数人の男が怒鳴る声にはたと顔を上げた。


扉の前の2人の衛兵が顔を見合わせて剣の柄に手を当てた。

直後絶叫が響き渡った。絶叫は途切れる事なく続き、暫く静まった後に巨大な爆発音と地響きに襲われた。


侍女は10歳の王子を抱き締めて震えていた。その後の事はよく分からない。誰かが叫び、戦う音が続いた。それしか思い出せないと、そう告げた。

思い出したくもないという風情だった。


侍女の回想で、魍魎襲撃前に王城で何か争いが起こっていた事を知る事ができた。


しかし3人目以降の間諜からは同程度かそれ以下の情報しか入手出来なかった。

商人、狩人、傭兵、市井の主婦、酒場の店主。

15人が空ぶった。


兵士として潜り込む間諜と渡りを付けたかったが、国境での警備の任を受けていた者が1人、非番で騒動を知る由もなかった者が2人、騒動で死んだ者が1人という有様だった。


タナシスが途方に暮れていた時、騒動後行方を眩ませていた者の居所を突き止めるに至った。

その者は左足を魍魎に踏みつけられて粉砕されるという重傷を負ったものの、運良く生き延びていた。


しかし精神を病んで家に籠る生活を送っていた。

タナシスが彼の家の戸を蹴破って家屋に踏み込んだ時、男は暗い部屋の中で厚手の毛布を数枚被りぶつぶつと1人言を呟いていた。


「其方、俺は分かるか?」


タナシスが声を掛けても兵士は視線一つ動かさず、何かを呟き続けた。

アケルエント出身の者でタナシスを知らぬ者は居ないだろう。


若い頃に名付きとなり王に娘を任されることとなった男だ。

彼に憧れる若い男は多い。


しかし今、タナシスの目の前の男は寝台の上に丸まり大きなタナシスの体の向こうを見つめて不気味にひたすら独り言ちている。

殻に閉じこもっているのだ。


タナシスは彼の呟きに耳をすませた。


「・・狐、狐が・・。あれが、黒い獣・・。また来るのか・・?なんで・・。」


狐、黒い獣。魍魎は貴族屋敷をも超える大きさの黒い鹿であるとディミトリ達が調べ上げていた。それが3頭。狐の話は一度も聞いていない。


兵士は毛布の下、無くなった脚を撫でさすろうとする。しかしそこには何も無い。


「何があったのだ。話せぬか?」


肩を揺すっても兵士は反応を示さなかった。


「狐男が来る・・」


震えながら身体を前後に揺らすだけだ。


「白い光・・・狐男・・・黒い獣・・・」


その男から聞き出せたのはそれだけであった。


「狐男?」


報告を聞いたダーラは端的に疑問を口にした。


「はい。」


「もしかして、城で騒動を起こした者の事?」


「1人でケツァル状に乗り込む等、正気とは思えませぬ。」


暫くダーラは考え込む。


「白い光と言えば、火行法の一種か風行法よね。・・どうして赫兵は内々のうちに処されたのかしら?・・処していないから?」


「戦闘、白い光、爆発音。まさか、赫兵は脱獄した?」


サンドラが呟く。

その呟きに皆がはっと顔を上げた。


「でも噂話を信じるなら赫兵は大人しく縄についたって・・・」


キッサが疑問を呈する。


「しかし脱獄とは・・グレンデル一族が脱獄を幇助したとするならもっと早くに戦争になっているはずだぞ。」


「ただの思いつきよ。」


サンドラとテオが話す。

この話はそこで終わった。


しかし皆の中に脱獄とその幇助という可能性はしこりのように残っていた。


数日後、テオとキッサが王城の第三区画に潜り込む為の可能性を携えて戻ってきた。


王都ケツァルの地下を流れる下水路である。

王城や貴族街からの廃水が流れ、何処かの川と合流する筈であった。


しかしこの積雪では川との合流地点を探すのは困難。

下水道への侵入口は存在したが、石造の建屋の中にあり警備の兵が5人交互に立哨していた。


3日後、ダーラとミキスは身体を白い衣類で包み、吹雪の夕刻に建屋へ忍び寄った。


吹雪と地吹雪で視界は白く染まり、伸ばした掌すら見とめる事が出来ない。

そんな中2人は回り込んで兵士を避け、建屋内に侵入した。


建屋の中にはぽつんと地下に繋がる鉄製の梯子がかかり、下水の異臭が立ち昇っていた。

2人はその梯子を降りた。


ミキスが用意していた松明に火を付けて細い歩行路を歩き出した。

幸い路はじめついているものの汚れてはいない。

下水道は正に迷宮であった。


ケツァル中に張り巡らされているのであろう。しかし一切の出口は存在しなかった。


細い管路を通り下水は流される。一つを辿れば貴族屋敷に繋がると言うことはない。

当然だ。それが可能ならケツァルの門内区画は賊が忍び込み放題である。

ダーラとミキスは侵入した位置からの歩数を数え、ここという場所で天井の石材を土行法でくり抜き始めた。


頭上は第一区画内の想定である。

床石に拳大の穴を開けると踏み固められていない雪に触れた。

穴を広げ、雪を掻き分けると顔を吹雪が叩いた。貴族屋敷の中庭であった。


吹雪に紛れて鉄格子を抜けて街路に出ると雪に残る轍を辿って第一区画を歩いた。

王立書館の位置は事前に市民街の高い屋根に登りミキスが確認していた。

円形の第一区画の東南にそれらしき建物が存在していた。


吹雪の中入口を2名の衛兵が守っていた。

吹雪に紛れての侵入は困難であった。

ダーラとミキスは新雪に身を潜め策を練る。

身分を偽る事は難しいだろう。

ミキスが囮になるしか無い。


ミキスは書館の更に東側に向かい、ダーラの視界から姿を消した。

そして8半刻後、空に煌々と輝く火球が上がり、爆散した。

書館を守る兵士は顔を見合わせてそちらへ駆けて行った。


ダーラは素早く羽織っていた外套を脱いで裏返す。

白い毛皮の外套は裏返すと一目で高価と分かる滑らかな仔山羊の皮が張られ、金糸刺繍が施されていた。


染めた髪と相まってダーラはエリンドゥイル一族の令嬢に見える。

門番は身分の確認をするので誤魔化しは効かないが、中に入って仕舞えば疑われる事はないだろう。


ダーラは司書に声を掛ける。


「クサビナの歴史について学びたいのだけど?」


30代の女司書は疑問を抱かず口を開く。


「どの様な歴史でしょうか?近代史、中世史、古代史に大分されますが。」


「私、魍魎に興味があるの。今まで我が国の有志達が退治してきた魍魎について学べる書は無いかしら?」


「では魍魎に関する書棚にご案内します。」


ダーラは尻を振りながらかつかつと音をならせて歩く司書の後を追った。

なるべく濡れた足元を外套で隠しながら。


書館は広く、木製の書館ぎ四角い屋内にゆとりをもって並べられている。吹き抜けを通して際数は3階である事を確認できた。


ダーラは司書と言葉を交わした時、周囲の様子をこっそり伺っていた。

司書が居た受付の背後に扉があり、その奥に広い空間があった。

司書の休憩室と思われるが、そこそこの空間がある事が傍目でわかった。

公開されていない書物を保管している可能性が高い。


案内されたのは2階だった。ダーラの身長の2倍近い書架に所狭しと分厚い書籍が並べられていた。

背表紙が有るものも、紐で閉じて木札で題を記しているものも有る。様々だった。


ダーラの祖国アケルエントの王城にも書室は有るが流石に規模が隔絶している。

この中から必要な書物を探すのは至難を超えて困難と思われた。


司書が去るとダーラは頭を振った。

魍魎の退治実績を調べたいと宣ったダーラだったが、その実求めている情報は異なる。

倒された魍魎の情報等毛ほどの価値もない。


古代クサビナで猛威を振るった魍魎の情報が必要なのだ。

中世以降であれば口伝の伝承や物語として伝わっている可能性が高い。


しかし鬼退治程度の民間伝承はいくつか確認出来るものの、龍退治の伝承は未だ確認できていない。


ダーラは古びた書籍を優先して題を確認していく。

800年程前の魍魎被害史を手に取り項目を確認して首を振る。

900年程前の魍魎災害録。これは虫害が主軸であった。

龍と竜。これも役に立たない。龍と竜の相違点を書き連ねたものだ。

龍の系譜。数種類の龍に着いて書かれた図鑑である。

さしたる情報源にはならない。


一つ目の書架を調べている内にあっという間に数刻が過ぎてしまった。

直に閉館の時間となる。ダーラは司書を遣り過す場所を探し始めた。今夜は此処で寝泊りする予定だった。


ダーラは木製の書庫をよじ登り、天板に積もった埃を刺繍の施された手布で払うと外套を体に巻き付けて横になった。高い書架だ。下からは見えないだろう。

半刻程横たわって考え事をしているとかつかつと床を踏む靴底の音が近づいて来た。


「・・・あら?・・いつの間にお帰りになられたのかしら?」


司書は首を傾げる。

元々人の入りが少ない書館だが、今日は吹雪いており美しいエリンドゥイル一族の女性しか訪れていなかった。


数度花摘みに席を立った時に帰ったのだろう。

書架を見て回るが書籍が抜かれたままの形跡はない。


司書は1人納得すると入り口に立ち寒さに首を縮める衛兵と二言三言言葉を交わして帰宅した。

衛兵は2人で館内を巡回して明かりを落とし、最後に入口を施錠して去っていった。

ダーラはむくりと身体を起こすと書架を降り、一階の受付へと向かう。

司書の背後に確認できた扉の取っ手を引いたが鍵が掛かっていた。


舌打ちをすると受付に置かれた硝子製の油灯明を手に取り懐の火打石で明かりを灯した。

そうして保存食を齧りながら夜半まで書籍を漁ったがこの日成果は無く、ダーラは夜更けに作業を辞めて灯明を返し、また書架の上に登ると眠りに就いた。


その後ダーラは同じ数日を繰り返し、4日目に書館を出た。

成果は無かった。


司書は日によって変わっており、はじめの女性に帰る姿を見せてダーラは雪道を歩いた。

どんよりと雪雲が空を覆う薄暗い夕刻だった。

ダーラは合図を送りミキスと合流して護衛と令嬢として正規の道筋で門内区画から出た。門内区画からは出る分には容易い。


そうして同じように吹雪の日に下水道経由で書館に忍び込み書籍を漁る工程を幾度も繰り返した。しかし年の瀬を迎え新年に至っても尚、ダーラは河口の龍に至ることが出来なかった。


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