グレンデーラでの生活は概ね穏やかだった。

朝は寝過ごし、其処からナウラの行法の訓練を行い昼飯。

その後は戦闘訓練を行い晩飯、晩飯後は其の儘酒場に趣き酒を嗜む。

そんな生活が数週間続いた。


城壁の向こう側、目で見える範囲の木々は色付き森の浅層を幾多の鮮やかな色に染め上げていた。

一枚上着を羽織っていると汗ばむ事もあった気温は今では夜は外套が必要なほどにまで冷える事もある。


ナウラの修行の進捗について言えば、机上の知識はかなりの速さで身に付けている。数年もすれば教えることは無くなるだろう。

浅層から中層に潜っての実地訓練でもその成果は見えている。

森での痕跡探し等は同じ答えは一つとして無い。まだまだ応用力は足りないと言わざるを得ない。

戦闘技術について言えば、やはり精霊の民だけ有り行法には秀でている。

元々軍隊の精鋭程度は使えていた土と火の行法を掘り下げ、使い方の工夫を勉強させている。

人間相手であれば撃ち合いで下手を打つことはないだろう。


問題は武器を使った戦闘技術だが、これが中々上手くいかなかった。

エンディラの民の身体的潜在能力を詳しく知っている訳では無かったが、やはりと言うべきか視力や動体視力は優れていると言ってよかった。

反射神経も悪くないのだが、何故か一拍子動きが遅れるのである。

代わりに力は非常に強く、シンカは彼女に片刃の斧を持たせる事にした。

扇状の刃、絵は短め。

1人で鬼を倒せる用になるには早いが、奇襲に成功すればなんとかと言う具合である。


街での彼女は兎に角男を引き寄せた。異国情緒溢れる容姿は特にグレンデーラの30代の男達に受けがいいようで1人にすると途端に声を掛けられていた。


たちが悪いのが夜の部で、3日に一回は酔った男かたちの悪い男にシンカもろとも絡まれ、それを伸すと言う循環が続いていた。


烏鷺覚えではあるが、グレンデーラ初日に飲み過ぎた時は不届き者を始末した様な記憶がある。

あそこまで露骨な男達はあれ以来現れていない。

これで頭の被り布を取ったらどうなる事やら。

純白の髪も合わされば収拾が付かなくなる可能性が高い。


この日も巳の刻中頃に支度を終えナウラを伴って宿の待合室に出ると正面の出入り口に赫兵が仁王立ちしていた。


「ナウラ、用事を思い出したから一度部屋に戻ろう。」


踵を返し慌てず然し最速にて階段を登り、歩みだした所で肩を掴まれた。


「暫し待たれよ。」


「ぬかった。グレンデーラでの快適な生活に現を抜かしてこのざまかっ!」


「ではこのままこの街に永住すると良い。快適だぞ」


「確かにこの生活、ぬかり過ぎの嫌いはありましたが、今更ですか?」


「何れにせよここで立ち話というのも見栄えが悪い。部屋に通してもらうことは可能だろうか?」


こうして到頭シンカはカヤテに捕まってしまった。


部屋に通すと椅子を差し出した。


「シンカ、其方はここでこの女性と2人で生活しているのか?」


カヤテは辛そうに目を瞑り胸部を押さえた。


「どうした、何か病か?差し支え無ければ見るぞ」


カヤテの動悸が激しい。

白い肌で分かりにくいが顔から血の気が引いている。

原因が分からない。


「そうではない。所で、其方の女性を紹介しては貰えないか?」


「うん。ナウラ、自己紹介を。」


シンカは寝台に腰掛け挨拶を促した。


「初めまして。私、ナウラと申します。エンディラの民の出で今はシンカに師事し薬師となるべく勉強をさせて頂いております。」


一部の隙もない表情、挙動で挨拶をし被り布を取った。

白く輝く頭髪がさらりとこぼれ落ちた。


「エンディラの・・民?・・あ、私はカヤテ・グレンデーラと言う。恐れ多くもグレンデル領軍である青鈴軍副長の位を預かっている。」


カヤテは軍人らしく踵を揃え、胸を張って自らの立場を明かした。


「私は三月程前に北方のランジューにて先生に命を救って頂きました。それ以来お供をさせて頂いております。」


「私は五月程前にロボクとクサビナの国境でシンカに命を救ってもらったぞ。」


いつも通りの無表情で述べたナウラに対し、カヤテは涼やかだが意思の強い力の溢れる視線で返した。


「其方等は何を言い争っているのだ?」


何やら互いに意地を張っている様に見受けられた。


「うむ。今日は国境での一件に加え先の戦場での事、御礼の為に伺わせてもらった。本当に!其方には世話になった!この通りだ!」


深々と頭を下げるのであった。


「頭を上げてくだされ。先の事は所詮報酬と引換に請け負った道案内に過ぎない。戦場での事はなんのことかわからぬ。」


「道案内どころの恩ではっ!ミトリアーレ様と私が無事にグレンデーラに辿り着けたのも全て其方の助力の賜物!その上2度と使えぬ事を覚悟していた腕まで治して貰った。戦場でも確かに其方の姿を見かけた!あの様な事が出来る人間が他に居てたまるものか!其方にはきっと分からないだろう。無辜の民が何の理由もなく蹂躙されるすんでのところであの様なっ。私は必死に戦いながら祈って居た。またあの時の様に其方が現れて颯爽と助けてはくれまいかと!」


感情的になったカヤテはシンカに詰め寄り顔を赤らめながら言い募った。


「成る程。だが俺は旅の薬師だ。礼は不要だ。物も金も荷が嵩む。・・・そうだ、あの時の美味い飯を奢ってもらえればとか何とか話した様な気がする。グレンデーラのお勧めの料理屋を紹介してほしい。」


妥協案を告げるとまるで胃痛の仔犬の様だった顔が途端に獲物を付け狙う象森狗の如き鋭いものに変わった。


「ではっ!其方を我が屋敷に招待するぞ!ミト様に話しグレンデル城の厨房長を手配しよう!」


「いやそれ店じゃなくて家。」


「ん?」


「騙されんぞ。貴族の屋敷に上がるものか。その辺の店では無いのならこの話は無しにさせてもらう。」


「そうか・・・そんなに私は駄目か。」


「面倒くさっ」


この女、思っていたよりも騒々しい。

必死な顔をして食い付いてくる。


「どうしても駄目か?」


男に愛想など使った事は無いだろう。

表情は胃痛の仔犬であるが、胸は逸らされ顎は突き出し全く懇願されている様に感じられない。

シンカは面倒になりカヤテに敬語を使うのを辞めた。


「俺の事も考えてくれ。流れの薬師が平穏に街で生きて行く為には、それが一番だ。」


「私は其方に私の副官となって貰いたいと考えている。流れの薬師ではなく。」


「この街に腰を落ち着ける事は出来ぬのだ。」


言うとしゅんと悲しそうな表情となった。因みに姿勢はピクリとも動いていない。


「わ、私と共には・・・い、居られないか?」


「言わされている感丸出しなのだが・・」


「そうか・・いや、私は諦めぬぞ・・取り敢えず南街に良い料理屋がある。今夜卯の刻に南街中央イブル南橋通りの貴林だ。忘れたら許さんっ!」


カヤテは一通り喚くと麗しい黒髪を棚引かせて走り去っていった。

どうやら屋敷に招待するのは諦めた様だ。


「・・・」


「なかなか個性的なお方でしたが。先生はどうお考えですか?」


「うん。まあ、ありだな。でもお前が言うなよ。」


「先生の女性の好みの話しは聞いて居ませんが。後、私の何処が個性的なのですか。」


「その表情筋少しは動かしてから聞き直してくれ。」


「私程喜怒哀楽の激しい者も中々居ないと思いますが。」


「ん?・・き、ど・・、何だったか?それは。」


「本当に揶揄うのがお好きですね。それで、如何されますか?」


「勿論行く。お前と共にな。」


「!・・逢引に女を同伴ですか。」


「あの会話の何を聞いて逢引だと思った?唯の勧誘だろうが。」


「いえ、あからさまに好意が垣間見えましたが。」


「仮にお互い懸想したとしても身分が異なる。」


「私には分かりません。何故導かれないのですか?何故身分が異なると伴侶になれないのですか?」


「その話はもういい。取り敢えず此れからの話を弟子のお前無しでする事は有り得ない。」


「・・・」


相変わらず無表情ではあったが、ナウラは嬉しそうに、ほんの僅かに目を細めた。


シンカとナウラは日中修行を行い夕刻前に蒸気風呂に入って身を清めると貴林へと足を向けた。

泊まっている宿の受け付けで確認した話だと、貴林と言う店は高級グレンデル料理を提供する店で、客も殆どが貴族という事で場を弁えた正装でもって臨むこととした。


少し早めに店に着いたのだがカヤテは既に店の前で仁王立ちしていた。


「何故だ!?」


顔合わせ早々やかましいことこの上ない。

カヤテは軍服で現れるかと思っていたが、かなり女性らしい誂の婦人服を身に纏っている。


胸元は大きく開き乳の谷間がむき出しであった。


中々見応えのある乳が3分の1近く剥き出されている。


白い肌が神々しい。


黒髪には銀粉が撒かれ、真赤な口紅や薄赤い頬紅が塗られ、目元や瞼も縁どられ鋭い印象の眼が妖艶に彩られていた。


「折角身嗜みを整えて貰ったのに2人ではないのか・・」


自分で化粧を施した訳ではないらしい。となると家ぐるみの犯行ということか。


「どうだろうか。似合っているだろうか?」


気まずげに尋ねられる。


「そうだな。戦っている姿も洗練されていて美しかったが、こうして女性らしく着飾った姿もまた別の美しさがあるな。」


否定しても仕方ないし、事実でもある為歯の浮くような台詞を告げた。


隣のナウラからじとっとした視線を感じる。

カヤテは予想外だったのか硬直しつつ顔を赤らめ、眼球を彷徨わせるといった器用な芸当を行なっていた。


「それで、中に入らないのですか?」


これ以上騒ぐ前にとナウラが言葉で誘導し、3人で店に入った。


店の中は壁布や絨毯、家具から一目で格調の高さが見て取れたが、この実直な女騎士が好むだけ有り鼻に付く感覚は無く庶民のシンカにも好感が持てる。

案内に席へ通されると、女性2人もシンカも席を引かれて椅子へと掛けた。

注文内容はカヤテに一任する。


「それで、シンカ。その、ナウラと其方の関係はただの師弟関係なのか?・・所謂男女の間柄では無いのか?」


「何故そのような事を?」


「うむ。不躾で済まない。深い意味は無いのだ。」


ナウラの視線が生温い。

深い意味しか無いだろう、と思っているのだろう。


「私は先生を慕っております。しかしそれは男女としてのものでは無く師に対して、恩人に対しての敬愛です。」


シンカが余計な事を言う前にナウラが答えた。

カヤテはほっとした様だった。


店の料理は前菜から主料理、甘味、茶までが順々に一品ずつ出される方式で非常に肩肘が張るものではあったが味は美味だった。


ナウラなどはこの格調高さに内心脂汗を流していたはずだがやはり表面上には億尾にも出さず全てを完食していた。


やや量に不満は見受けられるが。


カヤテ持ちで飯を終えると今度はシンカがカヤテを飲みに誘った。

貴族にこの様な誘いは本来行うべきでは無いが、試しに誘ってみると間髪入れず了承を得られた。


初日以来気に入って3日に1度は通っている酒場に3人で入ると酒盛りを開始した。


「余り酒を外で嗜んだ事は無いが、偶にはこう言った場所を訪れるのも風情があるものなのだな。」


「貴族は余り麦芽酒を飲まないと聞く。飲んだ事は?」


「実は無いのだ。名産だとは知っているのだが。」


「では飲もうか。」


既に麦芽酒無しでは眠ることができない体のナウラに加えて3人で酒盛りを開始する。

2杯も杯をからにする頃にはシンカも良い気分になってきている。

ナウラもシンカと同じ程度の酔い具合であるが、カヤテは更に先を行っている。


「なぁ、どうしても私の所に来てはくれないのか?其方が金に綺麗な男である事は知っているが、私は他に差し出せそうなものが無いのだ・・」


「先生は身体を差し出せば一発の軽い男です。」


「おい!言い過ぎだぞ!」


酔い始めのナウラは何時もより二割り増しで口が悪くなる。


「か、身体を差し出せば・・いや、その様な・・私はシンカとは気持ちが通じ合ってからと・・」


胡乱な事を言い出す女騎士である。


「ナウラ殿はシンカを男として見てはいないのか?私から見ると随分と仲睦まじく見える。男女の間柄に無い等とは信じられぬ。」


「我らエンディラの民は生涯の伴侶を精霊のお導きにより選びます。自らの意思で・・すみません、このデール地方産の金麦芽酒を頂けるでしょうか?・・はい。1つです。・・どこまで話しましたか?」


「ナウラ殿はシンカを男として好いてはいないのか?」


酔いが回ったせいか臆面もなく素面では到底言わないであろう台詞を発している。

当のシンカはどの様な反応をすればいいのだろうか。

聴いていない振りをして後でつついてみるのがいいのか。


「正直な所をお伝えしますと分からないと言う答えになります。人との間にその様な感情が芽生えるものなのか、事例もありませんし私自身どうなるのか及びもつきません。しかし、もし仮に私が人に異性としての愛を抱けるのだとしたら。それは先生以外にはあり得ないでしょう。」


「大分好きではないかっ」


声を荒げるとカヤテは杯を呷り三杯目の酒を頼んだ。


「実は私は酔うほど酒を飲んだことが無いのだ。シンカ。相手が其方だから信頼しての事で、普段は人前で酔ったりなどしないのだぞ?況してや男の前でなど・・。私は軽い女では無いのだぞ?それで、酔い潰れても頼めるか?」


「・・家に帰らんでいいのか?」


「うむ。問題ない。実は私は軍に身を置いた時に家より勘当されているのだ。女は家の為に家が決めた相手に嫁ぐ。私の父はそんな古めかしい考えを持つ男だった。言っておくが未練も後悔もないぞ。私はミト様のお力になれれば他に何もいらぬ。」


新しい杯の中で揺れる水面を見つめながら茫洋とした瞳で告げる。

まだ20と少しといった年で1つのものに執着しこれから先の全てを決めてしまう彼女が酷く視野狭窄にも見えた。


しかし20かそこらで広い視野を持った上で将来を定めろと言うのも難しい話なのだろう。或いは貴族に生まれ着くということはそういう事なのだろうか?


「カヤテは他の事をしてみたいとは思わないのか?」


「・・他の・・・他の事・・・・そうだな。其方の様に旅はしてみたいな。ここでは無い何処かの、私には想像もつかない様な景色。様々な国特有の短剣を集めてみたいな。・・・他には・・魚釣りをやって見たい。色々な土地で色々な魚を釣って・・・。後は・・・」


「なんだ?」


尋ねるが顔を俯けてなかなか口を開かない。


「どうした。話しにくければ無理には聞かないが。」


「いや、そうだな。」


口ごもった後に小さな声でカヤテはお嫁さん、と口に出した。


ナウラがぷるぷると僅かに震える。鳥肌でも立ったのだろう。


聞こえなかった事にしてシンカも次の酒を頼んだ。玉蜀黍と麦の蒸留酒を原液で酒精はとても高く、一口含むと口や喉が焼ける様な刺激が有りかっと胃から熱が込み上げてくる。

この刺激と口に広がる香りがシンカは好きだった。

ついでに言えばこれを嗜んでいる自分が好きでもある。


シンカとナウラは酒を煽ってカヤテの発言を聞かなかった事にすると話題を変える。


「しかし、今回の戦は難儀した様だな。倍の戦力であったと聞いた。」


「む?・・そうだな。覚悟はしていた。正直な話、際どい所だったのだ。其方が助けてくれなければ・・・。あと少し気付くのが遅ければ自爆して居た。私はな、今まで誰かに助けら、支えられた事が無かったのだ。」


「大変なのだなあ。貴族とは。やはり俺は気儘な旅の薬師が性に合っている。」


「・・・」


いつの間にかナウラが頼んでいた塩漬け肉を摘みながら一口酒を煽る。


「うぅ・・何だかいい感じだ。視界が滲んでふわふわした気分になる。」


「ところで先生。これからどうするか聞いていませんでしたね。」


ぶつぶつ言い始めたカヤテを放置してナウラは疑問をぶつけてくる。


「情勢次第ではあるが冬だしなぁ。クサビナを南に出てルーザーズ、アガスタを超えてムスクアナで冬を越すのも良いかもしれん。」


「それは大分南なのでは無いですか?暑い地域は初めてです。大丈夫でしょうか?」


「アガスタでも既に暑いから合わなければそこで引き返せば良いだろう。」


「シンカ。そなたはわたしのことをおいていってしまうのか?」


カヤテは翡翠色の瞳で真っ直ぐにシンカを見つめてくる。

カヤテの瞳はシンカの視線を固定してしまう。

目の光がシンカを縫い止めてしまう。


なんと言ったものか考えあぐねて言葉を詰まらせていると、ほろりと涙が一筋零れ落ちた。


まさかの泣上戸である。

零れた涙を拭う事なくじっとシンカを見つめ続ける。

次第にしゃくりを上げ始め卓に突っ伏してしまった。すんすん鼻をすする音が時たま聞こえる。


「南には砂漠という地形があってだな。どんな地形が想像が付くか?」


手元の杯を開けて同じ蒸留酒を注文する。

シンカはカヤテを見つめて居たいと言う気持ちに蓋をした。


「砂のなんでしょうか?広い砂?砂地ですか?」


「うん。広漠とし砂地が続く地形だ。魍魎は森ほど多くは無いが、水も食料も得られない過酷な土地だ。」


「見てみたいと思います。」


「お前ならそう言うと思ったよ。広大な景色を見ると自分の悩みが些末なものに思えてくる。自分はこの大地に比べてなんとちっぽけなのかと。自分が抱えるこの悩みがこの大地に一体どんな影響を与えられるのか。いや、与えられないだろう。大人しく人としての生を全うしよう。そう思える。」


「それ程なのですか。」


「想像を絶する。」


「いかないでくれぇ・・いっしょに・・いっしょに・・・」


その後は酒を飲みながらナウラと2人で取り留めのない話を続け、店を出たのは二刻も経ってからとなった。

無表情でじゃれついてくるナウラとべそをかき真っ直ぐに歩くことが出来ないカヤテを引き連れて宿への道を辿った。街に人気は殆どなく、偶に見かける者達も酔っ払って潰れている者ばかりだ。

良い街だ。あの時守りに協力出来たことを密かに誇りに思っていた。


カヤテも良い貴族だ。好意を抱いてくれる事は嬉しく思うが不用意に貴族の女と関係を持てばどうなることやら。

彼女が家を捨てると覚悟があるのであれば此方も其れなりに考える気はあるが、一族のたった1つの掟を守るには貴族のカヤテと関係を持つ事はできない。

早くに他界した両親に自分を引き取り一族の叡智と生き延びる為の経験を積ませてくれた養父の恩に報いる為。


気持ちも通わせる事無かれ。


彼女は危うい。強い心を持った強い剣士である事は分かっている。だが彼女はミトリアーレを支えると言う行為に依存しているのだ。凝り固まった狭い価値観だ。何とか梃入れしてやりたいとも思うが難しい様に思えた。


今夜は星が美しい。頭頂部を擦り付けてくるナウラをあしらいつつ灯篭の向こうで輝く星を眺めた。


「自分のやりたい事・・・か」


幸せとは何か。

それを自覚するにはシンカはまだ人生経験が足りて居なかった。

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