暴君退治始まる

 稽古場に戻るとシーン練習が行われていた。ちょうどミズキがダメ出しをしているところだった。

「あんた、しばらく会えなかった人に会える時の静かな喜び方がまだまだできてないのよ。大人の男はね、子供みたいにはしゃがないのよ、わかる? もっと考えなさいよ」

 そのダメ出しを受けているのは、久代である。不貞腐れている表情だった。なにがそうさせるのかよくわからない。このメンツに歯向かっても得はないのに。なぜ、そんなに反抗的なのか気になってしまう。

 その後もダメ出しは続いたが、ミズキはいたって大人の対応だった。決して怒ることなく、みんな平等に接していた。しかし、家に帰ったらその分の愚痴を僕は聞かされるんだろうな。

 ちなみにあたらしく入ってきた葉子さんに関してはあんまりダメ出しをしていないイメージだった。それは、なにか意図があるのだろうかと勘ぐってしまうがきっとたまたまだろうと自己解決させて終わりにする。

 稽古が終わり帰りの準備をしていると久代が近寄ってきた。

「あんたさぁ」

「はい」

 始めて話すのに喧嘩腰で話すなんてもうあからさまにやばいんじゃないかと思って警戒してしまう。

 ミズキがこっちを見ているがわかった。

「最近、みさきと一緒にいないっすか?」

「そうかな? スタッフだから、これくらいは当然かなと思うけどな」

「当然? それはお前からみたものの尺度だよな。俺からみたら違うんだよ」

 彼が理不尽で俺様てきなことで切れ始めてどうしていいかわからない。

「すいません。でも、みさきさんとはこれといってスタッフ的なことしか話してないので、別に問題ないですよ」

「いや、それがひょんなはずみでわからないだよ」

 なんだよ、この男、女々しいな。

 結局、みさきさんを僕に取られるじゃないだろうかと恐れてるんだろうな。

 みさきさんはこの久代の発言をどう思っているのだろうか。だからといってみさきさんの方を見るのはあからさまなので、今は見ないでおく。

「じゃあ、どうすればいいの?」

「そのスタッフの仕事を降りてもらえないですか?」

「えっ?」

「だから、もうみさきに近づかないでくださいよ」

「そんな」

「できないんですか?」

「もういい加減にしてよ!」

 みさきさんが業を煮やして話に入ってきた。

「一緒に芝居作ってるのに、そんなこと言わないでよ。なんか変よ、いつもはグループの輪を乱すこと言わないじゃない。それなのになんで今回はなんでそうなの? おかしいわよ。私も我慢できないわよ」

 これはみさきさんの本心だろう。自分の好きな人が周りに迷惑をかけるのは見たくないと言っているのだ。

「知るか! お前はすっこんでろ! 今日の俺はすべてに対して腹が立っているんだよ! 行こう、葉子ちゃん!」

 葉子さんはあっけにとられた様子ながらも、ついていかないとなにをされるかわかないと思いついていった様子だった。そのとき、僕たちのほうをしきりにきしていた。

「ひどい男ね」

 ミズキが言った。

 みさきさんは泣いていた。

「なんとか懲らしめてやりたいわね」

「方法はあるわよ」

 黒崎先輩が言った。

「彼をもう二度と舞台に立たせないようにしてあげるの」

「どうするの?」

「それは、ここでは説明できないから今度説明するわ。なるべく男性に聞かれたくないし」

「なんか面白そうね」

「きっと、面白いと思うわ」

 趣味が悪いなと思った。

 なんか変な企みが始まる。

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