模擬訓練2
市街地エリア、東区。
周囲のNPCと異なるプログラムをを実行するユニットが二体。
ハイネは〈
あのAL4――ソウスケは、ハイネにとってまさしく未知の脅威プログラムに他ならない。
アカデミーの公開情報によると、ソウスケの仮想空間でのスキルは
電導士には確かに強力なスキルも多いが、大技になればなるほど電力を消耗してしまうという欠点がある。仮想の訓練フィールドにおいて、充電は致命的だ。充電を始めると電力の流れが集中し、相手に居場所を特定されてしまうからだ。
AI同士の交戦は隠密性と騙し合いが基本――ネットワーク内に存在するウイルスプログラム、脅威プログラムがそうしているように――できるだけ能力を隠し、いざというときに発揮してこそ、確実な勝利をつかむことができる。既存の技を応用し、対象プログラムを欺くほど有利になり、勝率があがる。
カウンター攻撃を仕掛ける準備を相手側に与えるために、ハイネとサクヤはわざと襲撃を少し遅らせた。
高性能なAIメンバーで構成された電導士と
とくにAL4が電導士、格下のAL3が解析士という構成になると、AL3はAL4の実行プログラムを邪魔しないようにどこかに身を潜め、遠隔アシストに徹するようになる。一方で解析士のアシストスキルによって一定時間能力を飛躍的に向上させたAL4が、そのスピードを生かして対象AIに攻撃をしかける――という戦略はもはや使い古されている。
だが、電導士の攻撃は同じ電導士の防御系スキルによってすべて相殺されるのだ。たとえ実行者の能力レベルに差があっても、アシストスキルによって増減するのは〈実行速度〉、〈持続時間〉、〈使用回数〉のみであって、ダメージの〈効果〉も、技の〈威力〉も変化しない。
その視点で考えれば、AI同士の交戦で圧倒的に有利なスキルは〈威力〉に差を生じさせ相手に決定的な物理ダメージを与えられる
解析士のアシストによって攻撃の〈威力〉も〈実行速度〉も変幻自在。メンバー内に解析士がいなくても、基本性能――つまりAL4としてのシステム自体が補助となり、どのような環境下でも他AIより優位に立てる。
解析士は役に立つが、攻撃スキルの高いメンバーが相手だとスピード負けし、足手まといになることもある。
今回の対戦がそれに当てはまるだろうとハイネは推測した。E2に標的にされ、なおかつそのE2を〈不能〉にしてみせたAL4のソウスケと、処理スピードが遅いAL3のドロシーとでは、チーム内に能力格差がありすぎる。
であれば、ソウスケは自分の能力を向上させ、ドロシーを狙われる前に対象を仕留めるに来るはずだ。
――対策はある。
今回の〈任務〉内容は、周囲の人間――もとい仮想空間内のNPCを巻き込まないように〈不正プログラム〉を〈破壊〉すること。
だとすれば、交戦場所は自ずと限られてくる。中心街から離れたこの廃ビルか、海に近いコンテナ埠頭か。しかし埠頭周辺には充電可能なスポットがない。
そこで廃ビルにやってくると予想し、ハイネはあらかじめそこへサクヤを潜伏させていた。先ほど、電導士特有の技がぶつかる衝撃値を感知した――読み通り、ソウスケは大技でサクヤを仕留めにかかったようだが、サクヤが防御系スキルですべて防ぎきったのは、仲間内で確認できる仮想体の〈耐久値〉に変動が見られないことでも明らかだ。
大技を止められたソウスケはすぐに体勢を立て直そうとするだろう。電子光剣使いと違って、電導士、解析士は、物理的な接触によって相手にダメージを与える技が一つもない。技を使用するための〈電力値〉が底をついてしまえば、充電が完了するまで動けない。
仮想空間のフィールドでのみ使用できるスキルを使いこなすには、かなりの実戦経験と高い予測能力、そして戦闘フィールドを最大限に利用した戦略構築が必要なのだ。
《……聞こえるか、ハイネ》
サクヤの声を感知し、ハイネは応答した。
「ああ。どうなった?」
《ソウスケが放った、〈
「よくやった」
しかし同時に、ハイネは底知れぬ恐怖も感じた。E2との実戦経験があるとはいえ、ソウスケは仮想空間での模擬訓練は初めてのはずだ。それなのに、電導士の大技をすべて失敗せずに使いこなすとは。
《ドロシーの〈破壊〉も完了。ソウスケは電力供給のため一時撤退中》
サクヤの報告通り、廃ビルの中では自分を含め、四体のプログラムが動いていたが、その内一体が消失している。
読み通りだ、とハイネはほくそ笑んだ。
大技を使用したソウスケに、ドロシーは電力供給技の〈
「やつを追うぞ。お前も後で合流しろ」
《了解》
やはりAL4同士の勝敗は、交戦経験数に左右されるのだ。
ハイネは、他とは明らかに異なる動きを見せるソウスケのプログラムを感知して、廃ビルの地下へ向かった。
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