新型人工島
新型人工島の面積はおよそ七千百平方キロメートル。
岡山県ほどの広さを有しており、東京都特別区から南南東へおよそ五百キロ――小笠原諸島との中間点に位置している。
滑走路は整備されているが、それは主に政府関連のプライベートジェット用で、本土から移動する人々はたいていフェリーを利用する。移動時間は約十二時間。
運賃が最安値の深夜便を利用したため、島に到着したのは午後三時だった。
タラップを降りる際、ソウスケはマスターである楓花に手を差し伸べた。眼鏡をかけ直していた小柄な彼女は、嬉しそうに微笑んでその手をとる。
ソウスケの指先、手のひらの温度感知センサーは平均レベルだが、それでも楓花の手は柔らかく、温かいと感じることができた。
ソウスケは右手で荷物を持ち、左手で彼女の手を引いて、待ち合わせ場所の新型人工島の電子案内板前にやってきた。その電子板のボタンを押して起動させると、新型人工島の全体図が3Dで浮かびあがる。
どうやらこの島は、六つの新興区に分れているらしい。
第一新興区には最新の科学研究開発所が設立され、第二新興区は宇宙産業開発系の施設が集中している。第三新興区はビジネス街で、第四新興区には学校などの教育機関が並ぶ。第五新興区のみ一般開放された観光地区になっており、第六新興区は住宅街といったところだ。
だとすれば、楓花の職場は第一新興区。AIアカデミーなる場所は第四新興区か。
それにしても――どうしてこの情報を本土で公開しないのだろうか。
楓花の異動が決まったとき、ソウスケは人工島の情報を集めようとあれこれ手を尽くしたが、本土から接続できるサーバからでは一切の情報が取得できなかった。
ネットで検索をかけても、出てくるのは観光旅行関係の広告ばかり。旅行代金にいたっては世界一周旅行かってくらい法外だった。楓花に推薦状という〈印籠〉がなければ、宝くじ当選、または投資信託で驚きの成功を収めないと来訪は難しかっただろう。
だから世間では、新型人工島は世界最大のテーマパークという認識でしかない。資産家やセレブらが、特別な時間を体感するために訪れる、夢と冒険のアイランド。
新型人工島にある最新の科学研究所でさえ、とびきり上質なエンターテイメントを生み出すための演出だとテレビで放送されていた。結局、SFのような世界はまだ確立されていないのだと、本土の人々にそう信じさせるように。
だが実際は違う。違うに決まっている。
何らかの権力を持った〈意志〉が働いて、大衆に公開する情報を厳密に制限しているのだ。徹底した情報管理と情報操作。ネットワークはつねに監視され、公にするには望ましくない情報は何者かの手によって即時消去されている。
では、その理由は?
どうしてそこまでするのだろう――早急に調べる必要がある。
新天地でリスクを回避し、マスターの身の安全を守るために。
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