任務を終えた紫音と犯人の過去

〜〜〜 ??? side 〜〜〜


「チクショウッ!? チクショウチクショウチクショウがぁっ!!?」


男がそう雄叫びを上げながら、プラスチックのゴミ箱を蹴り続ける。


「俺がクセェ死体を捨ててる間に、計画を全部パァにしやがって!」


ゴミ箱がバキッ!? と破れたら男は蹴るのを止め、疲れたのか荒い深呼吸をする。


「全部、全部アイツらが悪いのに・・・・・・俺を犯罪者扱いしやがってぇ!」


7年前の高校にいた頃。思い出してみれば今でもハラワタが煮え繰り返る。


『おいキモ顔! ツラ貸せや!』


『い、イヤだよ!』


『んだとっ! キモ顔のクセに生意気な事をぬかしてんじゃねぇぞ!』


そう言って腹を殴って来て、悶え苦しんでいるところに金井が笑いながら蹴りを入れて来る。その後に校舎裏に連れて行かれてサンドバックにされるのが、日常のように続いていた。

担任はもちろんこの事を知っていたのだが自分に被害が及ぶのを危惧して知らんフリをしていて、両親も藁にもすがる思いで校長にも相談したのだが事実関係を調べて対応します。と言ったきり何もしてくれなかった。そう、校長もまた事実をもみ消していたのだ。

その虐めが続き、耐えられなくなった俺は遂には家に引きこもるようになってしまった。


「フゥ〜・・・・・・フゥ〜・・・・・・クソがぁ〜っ!?」


そう言ってあの時の事を思い出しながら壊れたゴミ箱を掴み、地面に叩き付けて更に壊した。


俺の引きこもり生活が始まってから3年が過ぎた頃に、父は母と離婚して俺の事を見捨てて出て行ってしまった。母は俺が更生してくれると信じていたのか、何も言わずにいたが離婚から3年半が過ぎた時に事件が起きた。

唯一の家族である母が事故に遭い、他界してしまったのだ。


「クソオヤジがぁ〜!」


今度はそう言いながら既にボロボロになったゴミ箱を踏み潰して壊した。


葬式には父親も参列してくれたのだが、父親から“もうお前を養えない。それにいい歳なのだから自立しろ。”と言われて去って行ったのだ。母親よりも若く、お腹を大きく丸くさせた女性と共に出て行ったのだ。その事がショックでよく食べるようになった。


「アイツが・・・・・・アイツがぁぁぁああああああっ!?」


母の他界に加えて父に見捨てられて無気力になって歩いていた時、スーツ姿の冨上と出会ったのだ。

怯える俺に対して冨上がニヤつきながら近づいて来た。


『よぉ久しぶりだな、キモ顔』


『う、うん』


『お前が学校から居なくなって、みんな心配してたぞぉ。金井もなぁ。てかお前、前より太ったんじゃねぇの? キモ顔からキモ豚に変わったなぁ』


そう言いながらスマホで俺の姿を撮って来たのだ。


『今のお前の姿おもしれぇから、みんなに見せてやろう!』


『や、止めてくれ!』


そう言って近づくが、蹴り飛ばして来た。


『キモ豚野郎のクセに、俺にさわんじゃねぇよ! ん? 何だこれ? 生活保護申請書?』


『それは!』


『マジかよ! お前ニートなのかよ! お前にお似合いじゃねぇか!』


『か、返せ!』


そう言って取り返そうとするが、今度は顔を殴って張り倒して来た。


『風の噂で聞いたんだが、お前母親が死んで父親にも見捨てられたんだってな』


『ッ!?』


『大手に勤めて出世街道にいる俺と大違いだな。やっぱ生まれ持った者と持たない者の違いだなぁ〜。所詮お前はクズなんだよ』


そう言って手を踏んで来て痛がっている俺をおもしろ可笑しそうな顔で見つめる。


『何にも出来ない何にもないクズはクズらしく、生きていけばいいさ。ハハハハハハッ!』


そう言って俺の生活保護申請を破り捨てて高笑いしながら去って行く姿を、ただ呆然と見つめていた。何故悔しいとか怒りとかを感じなかったのかって?

冨上の言った言葉で彼は気が付いたのだから。


『・・・・・・そうだ。もう俺には何にもないし出来ないんだ』


だから家族に迷惑が掛かるとか気にしなくてもいいんだ。それにこうなってしまったのは誰のせいなのか、俺はようやく気付いたんだ。


『アイツらが俺の人生を狂わせたんじゃないか。アイツら俺をこうしたのだから、両親が離婚したんじゃないか。それにアイツらがこんな風にしたから母は死んだんだ。

俺の人生をメチャクチャにしたんなら・・・・・・アイツらをメチャクチャにしてもいいんだよなぁ?』


人間の枷が外れてしまった瞬間だった。


それからというもの復讐を誓ってから半年近く、物資を隠し持っていた土竜を殺して拠点ごと奪って入念に準備して来た筈だったが、俺が金井の死体を捨てに出掛けている間に隠れて拠点をPMCに見つけられてしまったのだ。

遠目の俺の拠点を見て不利と理解したので、身を隠しながらここまで逃げて来たのだ。


「クソ犬がぁ・・・・・・俺の拠点を見つけやがってぇ〜! ぜってぇに殺してやる」


そう、逃げようとした際に自身を撃った紫音を見かけたので、鼻のいい彼が拠点を見つけたんだと理解したのだ。


「俺の復讐を邪魔するヤツは、PMCだろうと敵だ! ぶっ殺してやるっ!!」


彼はそう言った後に車に乗り込み、走り始める。



〜〜〜 紫音 side 〜〜〜


ところ変わって、土竜のガンショップ。


「いやいやいやいや、よくやってくれたよ紫音くん。お手柄だよ」


「でも、商品の一部は犯人に・・・・・・」


そう、AK47uと弾。それにドラムマガジン12個を取られている事が判明した。


「それはそれで、何処かで元を取るさ。それよりもだ。紫音くん、これを見てくれ」


そう言ってガラスケースの上に置いたのは、 M&P M327 R8 だけれども僕が持っていた物と形が違うカスタムモデル。


「シリンダーがシルバーメタリックでノンフルーテッド(※シリンダーの溝切りされていないタイプ)」


「他にもあるぞ。ほら、アイアンサイトのフロントサイト部分を赤のファイバーオプティックサイトにして、リアサイトを緑のトリチウムサイトにしてある」


「おお〜!」


僕が持っているM&P M327 R8よりも視認しやすそう。


「それに、グリップを耐劣化と耐水性の魔法を掛けた木製グリップを採用してある。

このグリップも特注品でね。ほら、グリップチャンネルの数を中指と薬指の間の1つだけにしてあるんだ。こうする事によって、咄嗟に握る時に握り方のズレを余り気にしなくていいからな」


確かに、僕も握りがズレた時フィンガーチャンネルが邪魔と感じた時があった。この形状のグリップならズレた時の心配しなくてよさそう。


「いいなぁ〜」


「欲しいか?」


「はい。でも今の僕じゃ買えそうにないですね」


単体だけでも値段が高いのに、このカスタマイズをしたら一体いくらになるんだろう?


「はい、紫音。キミに返す」


「・・・・・・え?」


今この人何て言った?


「お前、このリボルバーいらないのか? だったらウチ方でオリジナルカスタマイズとして売りに出すが、いいのか?」


「いやいやいやいや! 待って下さい! 返すってどういう事ですか?」


「あ〜、そりゃこのリボルバーがお前から預かった物だから、お前に返すのは当たり前だろう」


「えっ!? 僕のM&P M327 R8 なんですかぁ!?」


僕が驚いていると188さんが、 ハッハッハッ! と可笑しそうに笑った。


「ああそうだ。お前の為に俺独自にカスタマイズしてやったんだ。気が付かなかったのか?」


「はい、気が付きませんでした」


188さんが銃を預かった時は、メンテナンスでもやってくれるのかなぁ? って思っていたんだけれども、まさかカスタマイズをしていたとは思いもしなかった。


「どうだ、カッコイイだろ? それに性能面でも俺のお墨付きだ」


「あの、今お金は・・・・・・」


「もうお金の方は貰っているからな、心配をしなくてもいい」


「えっ!? もう貰ってる?」


一体誰が払ったんだろう?


「ほら、お前の愛銃を受け取らないのか? ん?」


「ありがとう・・・・・・ございます。後これ、お返しします」


僕はガラスケースの上に スタームルガー スーパーレッドホーク とその弾を置くと、188さんが手に持っているM&P M327 R8と弾を返して貰う。


「ちょっと重くなってる」


「シリンダーの溝がない分だけ重さが増したんだ」


「あ、なるほど」


そう言いながらホルスターにM&P M327 R8をしまう。


「さて、抜け道まで送ってってやるから、俺に付いて来い」


「あ、はい!」


そう返事をしてから、188さんの後に付いて行くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る