助ける紫音
シロくんに外に連れ出されて、他の子達と一緒に隠れんぼや鬼ごっこなどして遊んだ。そこまではよかったのだけれどもぉ・・・・・・何でこうなったんだろう?
「おにぃちゃんのみみ、うごいてるぅ〜!」
「シッポ! シッポおもしろぉ〜い!」
「おにぃちゃん、だっこ! だっこして!」
などと四方八方から子供達の声が聞こえて来る。そう、現在僕がオモチャになっている状態なのだ。
「み、耳は引っ張らないで。痛いから」
「じゃあシッポは?」
「尻尾も同じだよ」
そう言うと、ハーイッ! と言って力を弱めてくれた。
「スンスンスン・・・・・・」
シロくんはニオイを嗅いでいるのか、僕の腕に抱きついて鼻をスンスンと動かしていた。その様子を見て僕は、 本当にこの子は人見知りなのか? と疑問を抱いてしまう。
「ねぇ、キミ達」
「なぁに?」
「ここの先生からシロちゃんは、いつも1人で寂しそうにしているって聞いていたけど、本当なの?」
「うん、そうだよ。シロちゃんはね。いっつもひとりでいるんだ」
いつも1人でって、もしかしてイジメられているのか?
そう思いながら身体を見てみるが、目立った外傷とか怯えた表情とかがないので違うとわかる。
「シロちゃん、いつもあそびにさそってもイヤっていうから、いっしょにあそんだのはじめてかも」
「そうなの?」
シロちゃんに向かってそう言うと、コクンと首を縦に振って返事をした。
「みんなと遊べて楽しかった?」
「・・・・・・うん」
シロちゃんは戸惑った様子をしながら小声で言った。
「みんな、これからはシロちゃんと一緒に遊んであげてね」
「「「うん!」」」
子供達はそう言うとシロくんの周りに集まり、次はどんな遊びをしようか? と話し出した。
「あの、すみませーん!」
「ん? はぁーい!」
正門へ顔を向けて見ると、20代ぐらいの男女が門の向こう側で立っていた。
「あらヤダ、この子カワイイ!」
「ああ、シロちゃんと同じカワイイ子だね!」
ニコニコしながら会話する2人の薬指の指輪を見て、この人達は夫婦だとわかった。
「あの、こちらの孤児院に何か御用ですか?」
「ええ、今日シロちゃんと面談する予約をしたのですが、もしかして日程を間違えましたか?」
子供との面談の希望者が来たのかな?
「田端園長に確認を取るので、少々お待ち下さい」
「わかったよ」
夫婦に向かって軽く頭を下げると、建物の中へ入って行く。
「何処にいるんだろう? って、いた」
さっき面談をした部屋で女の子の隣で、宿題と思わしきプリントを見ていた。なので、そのまま部屋へ入る。
「お忙しいところ、すみません」
「紫音さん、どうかしました? 子供達に何かあったのですか?」
「あ、いえ。シロくんと面談するのを予約しているという方が、こちらに来られました。田端さん、何かご存知ですか?」
「えっ!? もう来ちゃったの? 約束は午後の2時なのに」
壁に飾ってある時計を見てみると11時を過ぎた辺り、どう考えても時計の針が遅れているとは思えない。
「あの、どうしましょうか?」
「困ったわねぇ〜、2時からの約束だったから、何も準備していないの」
そうだよね。1時間前ならともかく、3時間前に来られるのは誰も予想出来ないはず。
「まだ面談準備が出来てないので、1時間ぐらいしてからお越し下さい。って言いますか? あ、でもそうすると、お昼ご飯と被っちゃうかぁ・・・・・・」
「そうね。まだ面談の準備が出来てないし、子供達にお昼ご飯も食べさせなきゃいけないから、2時ぐらいに来て下さい。って言いましょうか?」
「私からそう伝えますから、一緒に行きましょう」
田端さんがそう言って立ったところで、僕の後ろ側を見つめながら固まったので、 何だろう? と思いながら振り向くと、何と外にいた子供達が血相を変えて部屋の中に入って来たのだ。
「えっ!? みんなどうしたの?」
「先生、シロちゃんが!」
シロちゃん? シロちゃんに何かあったの?
「シロちゃんがどうしたの?」
「めんだんのひとに、おそわれてるのっ!」
「何ですってぇ!?」
面談の人って言うのは、今日来たあの夫婦人で間違いない。
「急いで行きましょう!」
「ええ、みんなは危ないから、ここにいて下さいね!」
「うん!」
子供達の返事を聞き、シロくんのいる外へと急いで向かう。
外に出ると、あの夫婦と男の人が孤児院のすぐ外の道路にいて、お互いに怒号を撒き散らしていた。
「一体何なんだお前はっ!?」
「お前こそ、この子に何をしようとしているんだっ!!」
「何をって、私達はその子を食事に」
「だったら何で嫌がる子の腕を、強く掴んでいたんだ?」
見知らぬ男の人は泣いているシロくんを庇うようにして背後に隠していて、シロくん自体もその男の人のシャツの裾を不安そうに掴んでいた。
「ど、どうしたんですか!? これは一体・・・・・・」
孤児院の責任者である田端さんが動揺している中、こちらに気づいた夫婦が話し掛けて来た。
「あ、アナタが園長ですよね!?」
「え、ええ、私が孤児院の園長の田端と申します」
「聞いて下さい! この人が私達のシロちゃんを、連れ去ろうとしているんです!!」
えっ!? この女の人、今何て言った?
「なっ、連れ去ろうとしたのはアンタ達の方だろうっ!!」
「嘘を
夫婦が男の人に詰め寄るが、男の人はそれに合わせて後ろに下がる。
「本当・・・・・・ですか?」
「ええ、本当です! さぁ、こっちに・・・・・・」
「ちょっと待って下さい!」
僕はそう言うと、夫婦と男の人の間に入る。
「すみませんが、アナタ方夫婦は先程とは違う事を述べてませんか?」
「え? わ、私達を疑っているのですか?」
「ええ、僕は耳がいいので、先ほどのやり取りは話は丸聞こえでしたよ」
「「ッ!?」」
ハッキリ言って嘘。外に出てから聞こえたので、一部始終しか聞いてない。でも、シロくんの様子から見るに、後ろにいる男の人が話していた事が本当っぽい。だって、人見知りのシロくんがいつでも逃げられるのに、男の人の後ろに隠れたままでいるなんておかしい。
この人が悪い人だったら、もうすでに駆けつけた僕か田端さんのところにいるはずだ。
「これは・・・・・・そのぉ」
「それに僕達のところに来た子供達も、アナタ方夫婦がシロくんを連れ去ろうとしていると言ってました」
「か、勘違いよ! 私達はただそのぉ・・・・・・シロちゃんとお昼ご飯を食べに」
「食べに行くにしても、僕達に断らないといけませんよね?」
そう問い詰めると夫婦は、分が悪いと思ったのか一歩下がる。
「その子供達に言うつもりだったんだけれども、その子達が連れ去ろうとしていると言い出したからぁ・・・・・・いやぁ〜、困ったもんだよ」
「そ、そうよ。」
あくまでもシラを切るつもりらしい。それなら。
「シロくん、両腕を見せて」
僕がそう言うと素直に腕を出してくれたので、長袖の裾を捲って見る。すると、力一杯握りしめたであろうと思われる赤い手跡が腕にベットリ付いていた。
「痛々しい。誰にやられたの?」
僕がそう言うと、シロくんはハッキリと夫婦を指差す。
「本人がそう証言していますが?」
「なっ!? デタラメよっ!!」
「そうだ! その男はシロちゃんを脅していたから・・・・・・」
ここまで証拠が揃っているのに誤魔化そうとするなんて・・・・・・もう仕方ない。使いたくなかったけど、最終手段しかない。
「PMCの僕にそう言うんですか?」
「ぴっ、PMC?」
「ええ、PMC。こちらがライセンスカードです」
そう言って夫婦にライセンスカードを見せると、驚いた顔になる。
「今回あった事を本部に相談して調べさせて貰います。もし、アナタ方夫婦がおっしゃった事が本当であれば、後ろにいる男の人が捕まるでしょう。仮に違っていましたら、どうなるかわかりますよね?」
そう、PMC協会は警察ではないけれども、独自で事件の調査したり証拠集たりする探偵みたいな部署がある。その独自で集めた証拠を、警察に渡したり、裁判に提出したりもしている。
「ど、どうか、それだけ許して下さい!!」
目の前にいる夫婦は顔を青ざめさせながら、土下座をして来た。もうこれは黒である証拠だ。
「私達は、そのぉ・・・・・・シロちゃんの事を思って」
もうわかった。この人達はシロくんの事をどう思っているのかを。
「もうここに立ち寄らないと約束が出来るのでしたら、黙っています」
「わ、わかった! 約束する!!」
「念の為に言っておきますが、未遂とはいえこのような事があったので、もしシロくんの身に何かあったら、真っ先にアナタ方が疑われるのを忘れないで下さいね」
「わ、わかりました! い、行こう!」
「え、ええ!」
夫婦はそう言うと、逃げるようにして孤児院を離れて行った。
「・・・・・・フゥーーーーーー」
本当に緊張した。自分が間違っていないか、心配にもなった。あ、そうだ! 後ろにいる人にお礼を言わなくちゃ!!
「あ、シロくんを守って頂いて、ありがとうございます!」
「あ、いや・・・・・・気にしないでくれ」
あれ? そういえばこの人見た事あるような。確かこのニオイはぁ・・・・・・あっ!?
「もしかして昨日、事務所の前で僕とぶつかりそうになった人ですか?」
「あ、その・・・・・・まぁ、そうだね。あの時は悪かったよ」
「い、いえ! こちらこそ、すみませんでした」
そう言って頭を下げたら、両肩に手を置かれた。
「なぁ、キミは本当にPMCなのかい?」
「はい、PMCですよ。まだPMCになって間もないですが」
「そうかぁ、キミはPMCだったのかぁ・・・・・・」
何処か悲しような顔で、僕とシロくんを交互に見つめる。
「すまないが、もう行くよ」
男の人はそう言うと、身体を翻して歩き出す。その僕はその姿を呆然と見つめていた。
「え、あ、すみませんがお礼を!」
「いえ、気持ちだけで充分です」
田端さんにそう言いと、十字路を左へ曲がり去って行ったのだった。
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