銃の整備と謎の人
事務所へ帰りの中、車の中でリトアさんは 焼き肉ぅ〜♩ 焼き肉ぅ〜♩ と歌っていて、天野さんは煙草を吸いたそうしている。
因みに運転しているのはリュークさんだ。何故リュークさんが運転しているのか? というと、ピックアップトラックに乗る前に、 どうせ途中で運転を変わるんだから、ボクが運転する! って言って天野さんから車のキーを奪って運転席に乗り込んで出発した。
フェリーに乗っている時もリュークさんは鍵を持っていた。
「あの、天野さん」
「ん、どうした紫音」
「この資料に書かれている人達、 イザナミ、ヤマ、ネルガム って人の名前なんですかね? しかも3人共ドクロのマスクで顔を覆っているから、逆に目立ちませんか?」
「ああ、名前については本名を隠す為の偽造、言わば本人達のコードネームだろう」
「本名を隠す為の偽造?」
「そうだ。本名を名乗っていたら、すぐに身元がバレて追われる身になるだろう。だから本名を名乗らないんだよ」
「なるほどぉ〜」
「それとコイツらは殺し屋で東京の隔離区域で活動していたらしいんだが、何故か活動拠点をこっちの方に移したみたいだ」
こ、殺し屋っ!?
「じゃあ僕達は、とんでもない人達に目を付けられたんじゃ・・・・・・ウゥゥゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜」
顔を青ざめさせながら身体を震わせていると、僕の頭と背中をリトアさんが優しく撫でてくれる。
「大丈夫よシオン。私達は狙われてそうにないんだから」
「ああ、今のところはな」
天野さんはそう言ってポケットの中に手を突っ込んだ。
「アマノくん、煙草を吸おうとしないでくれるかな?」
「・・・・・・チッ!」
軽く舌打ちすると、不機嫌な雰囲気を出しながら頬杖をついた。
「それはそうと、何処の焼肉屋に行んだい? 駅前、それとも事務所に近い大通りのところ?」
「駅前じゃ混んでいそうだから、大通りのところで良いだろう。リューク、酒を飲むか?」
「ボクは飲まないから安心して」
「そうか、わかった。っと、そろそろ事務所に着くな」
「そうだね。車はすぐに出せるように事務所の前に停めておくよ」
「そうだな」
そして、このやり取りの後に天野さんの事務所に着いたので、ピックアップトラックから降りて荷物を事務所へ運んだ。
「さてシオン、そのリボルバー は4発程度しか撃ってないが整備の方法を教える。って言っても簡単な整備方法だけだから早く済む」
「は、はい!」
こうして天野さんの指導の元、S&W M327 R8 の分解清掃をした。
「っと、まぁこんな感じだ」
「あの、天野さん」
「本当にこんな方法で大丈夫なんですか? 僕にはバレルとかフレームを掃除をして、重要なところにガンオイルスプレーを思いっきり吹き付けたようにしか見えませんが」
もっと厳密に言えばシリンダーだけ抜き取ってグリップを外した後に、バレルと外装とシリンダーをウエスとかブラシを使って掃除してから、ハンマーとか重要なところにガンオイルスプレーを思いっきり吹いて組み直した。で、最後にシリンダーをグルグル回したり、ハンマーをコッキングして戻したりをしてグリスを馴染ませて終わりって感じだった。
「まぁ、そうだな。簡単な整備方法はこんな感じだ。詳しくやりたいとなると時間が掛かるからな。それと、精密な整備なら月一で羽田空港のガンショップに出せば充分だ」
「そうですか?」
「それが嫌だったら、お前が完全分解して整備してくれ。俺に、これ動かなくなっちゃったんです。 って泣き付かれても知らんと言うぞ」
そう言われてしまうと、失敗する事が恐くなってしまうので、やってみようって気力がなくなってしまう。
「天野さんの言う通りにします」
「よろしい。俺も銃の整備を帰って来てからする。だから道具はそのままにしておいていい。その汚れた手を洗って来い」
「はい」
そう返事をすると、洗面所へ行って手に付いた油と汚れを洗い落としてから、濡れた手をタオルで拭き、天野さんのいるところへ戻って来る。
「洗い終えました!」
「じゃあさっそく、リュークとリトアを連れて焼き肉屋に行くか。先に車の方に行って待っててくれ」
「はい」
焼き肉、何ヶ月ぶりだろう。楽しみだなぁ〜。
ウキウキしながら外に出て車の側へ行くのだが、車のフロント部分から出てきた男の人達とぶつかりそうになった。
「え?」
男の人の声に思わず反応して目線を上げて見てみると、ちょっと老け顔の男性が僕の事を見下ろしていた。
「あ、その・・・・・・ご、ごめんなさい!」
「い、いや! こちらこそすまない。私の方も前を見ていなかったから」
その人はそういい、僕に背を向けるとそそくさと歩き出した。
「あ〜、変な人じゃなくてよかったぁ〜」
危ねぇだろ! 何処に目を付けてんだ! とか言われていたら、オドオドして何も言えなくなってたかもしれないから。
「紫音、どうした?」
「あ、天野さん。なんでもないです」
人とぶつかりそうになった。って言っても、 そうか。 と言われるだけっぽいから、言わないでおこう。
「そうか。車に乗ってくれ」
「は、はい」
僕は天野さんに言われた通りに車の後部座席に乗るけど、乗ってすぐにリトアさんが笑顔で抱き付いて来た。
「さぁ出発よ、出発!」
「リトアくん、キミはどれだけ楽しみなの?」
「メチャメチャ楽しみよ!」
「ホント、お前はエルフらしくないな」
天野さんの呆れた声を出した後に、車がすぐに出た。
「シオンくんのおかげ焼き肉に行けるんだから、感謝しないとねぇ〜! ヨォ〜シ、ヨォ〜〜〜シ!」
リトアさんがそう言いながら頭を撫でてくるので、ちょっと困る。
「困ってる顔をしている割には、嬉しそうな感じがするな」
何でそう思うのですかっ!?
「僕だって15歳なんですから、こういう風に子供扱いされるのはちょっとぉ〜・・・・・・」
「そう? 私達からすれば、アナタは立派な子供よ。それにまだ成人してないんだから、大人っぽくしようとしなくても、いいのよ」
そんな気はないんだけどなぁ〜。もしかして、単にリトアさんが撫でたかっただけじゃないの?
うりうりぃ〜。 と言いながら撫でてくる合間に耳を摘んでスリスリしてくるので、 そろそろ自分から離れようかな。 と考えだす。
「そうだシオンくん。キミが倒したウルフは、一体どうしたの? その場に放置?」
「倒したウルフは188さんが回収してくれるみたいです。金額の方は後日連絡して、渡して貰えるそうです」
「そうかぁ、金額の方はあんまり期待出来そうにないね」
「どうしてですか?」
グレート・デーン並みに背が大きくて、体毛に覆われていたのに安いのはちょっと。
「確かに毛皮は頑丈だから、ちょっと前までは防具として使われていたよ。でもね、今となっては防寒具かファッションアイテム。もしくは剥製にしか使い道がないんだ」
リュークさんが言っている ちょっと前までは。 ってのは多分、新大陸がこっちの世界に来る前の事だと思う。
「そうだな。皮の防具はファンタジー世界の定番アイテムだけどな、こっちの世界の技術が上だったからな」
「うん、まぁね。珍しい魔鉱石は、あの大陸だと土地柄のせいで生産量が少なかったからね。
それにそういった金属は熟練の職人が必要だし、それに費用が掛かるから安易に作れないよ」
魔鉱石は魔力を帯びた鉱石で、透き通る様な透明度で見る角度によっては虹色に見える鉱石。その鉱石で作った武器に魔力を通せば強くなり、防具の場合は堅くなる。場合によっては剣とかに属性エンチャットしやすいので欲しがる人がいたらしい。しかし、魔力を通していない状態だと銅並みの強度しかないので、常に魔力を通しておかないといけない。なので魔力操作の苦手な人には相性が悪い金属なのだ。
そして、魔鉱石は新大陸で取れる鉱石なのだけれども、余りにも採れないので防具一式買い揃えるのに数千万円ぐらい払う覚悟がいる。そんなにバカみたいに高い防具を揃えるんだったら、防弾プレートの入ったプレートキャリアを買って付けていた方が身の為だ。とPMC内ではよく言われる。
因みに魔鉱石の他の使い道は指輪もある。何故かというと、先程も話した通り魔鉱石は高いので一部のセレブが金持ちアピールをするの為に付けているから。
「そうだったのか。てっきり隠し財産にしているのだと思っていた」
「それはないわよ。あそこはマナが少なかったし」
「マナ?」
「まぁ着いたから、続きはお店の中で話そうか」
リュークさんにそう言われたので、前を見てみると焼き肉屋さんの看板が目の前にあった。
「ボクは車庫に車を入れてくるから、3人は先にお店に行ってて」
「ん、わかった」
天野さん達と一緒にピックアップトラックを降りると、店内へ入って行くのであった。
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