0x0110 誕生日プレゼント選びは慎重に

 玄関口で先に行ってると告げてドアを開けた。奥からジネヴラの声が聞こえてきたと思ったら、マルティナが僕の近くまでやってきた。


 既にコーディング・レビューは終わっている。

 先に出かけてセルジアに教えてもらった、イタリアンの店に行こうと思ってた。


 側にやって来たマルティナの黒髪は艶やかで、肩にかけられた髪房は輝いていた。相変わらずに女子力が高い。

 今日のマルティナはフェロモン一日三バレル状態。つまり平常運転だ。


 しかし、僕だってフェロモン耐性だってつく。

 寝不足になっているギル畜を舐めてもらっては困る。

 もっとも、今の僕が正常であると証明するものは何もないけれど。

 現に目を閉じると余裕で寝てしまいそうだ。頭の芯が重くて、油断すると意識が羽根を生やして飛びそうになっている。


「ウウイエア、ジネヴラの誕生日プレゼントは大丈夫だな?」

 マルティナは僕に追い打ちをかけてきた。昼のうららかな空気に蝶が舞っていた。もっとも、僕はデート前でドキドキハラハラ状態having butterfliesだけど。


 マルティナにキッと睨まれ、彼女のフェロモンが一バレルほど盛られた。

 彼女の目線に僕はたじろいだ。さすがに四バレルになられるとヤバい。

 花壇には色とりどりの花々が並んでいるが、一斉に花ビラを散らす勢いで、咲き散らかしかねない。


 マルティナの女子力効果を侮ってはいけない。

 透き通る白い柔肌に、形の良い唇。背は高くてスタイルもいい。

 こうなると誰もが振る向くレベル。現にブラウスの第一ボタンを外していて、開いた喉元に視線が吸い付けられそうで、僕は必死に抵抗している所だ。


「マルティナが言ってた通りにするつもりだよ」

 駆け足体勢のまま、僕は力強く頷いた。

「そうか。ならいいんだ。ジネヴラはきっと喜ぶと思う。しかし、ウウイエア。コーディング・レビューの時も気になっていたんだが、目が真っ赤だぞ」

 不審そうな顔をするマルティナ。


 そりゃそうだ。

 考えても見て欲しい。ここ最近の僕の活動は常軌を逸する。


 前日の朝食時、Emmaの面々からガン無視。そして、DHAでドアを蹴破って、セルジアの法律事務所で会話。それから、ミレー街にセルジアと食事して、驚愕のトラブル。

 でもって、DOGの執務室へ行って、ガシュヌアから説教を食らう。

 アイツの説教って長いんだよな。僕の繊細な神経はゴリゴリ削がれた。


 で、ドラカンと仕立屋行って、アステアと合流。バーでクダまいて、屋敷に帰ってきたら拷問椅子に座らされたりした。トドメの一撃がラルカンとのサイバー・ウォー。

 そして、寝てない状態で朝食。

 余りの眠さに口の端からスクランブルエッグをポロポロ溢し、デアドラから叱責されるまで気付かない有様だった。

 そして、コーディング・レビューですよ。


 集中力が無くなるので、ややもすると、どうでもよくなる。

 しかし、それだと僕の立場はなくなってしまう。働かざる者食うべからず、とはよく言ったものだ。(※a)

 徹夜明けのコーディング・レビューって本当にキツかった。


 ジネヴラとマルティナのコードを一見したら、基本に忠実なのだが素直すぎ。

 メンテナンス性や負荷耐久性について考慮されていない。

 軍用パッケージの規定はハードルが高く、信頼性を高める必要がある。となると、多重起動させて、バグを引き起こさないコードにする工夫が必要になる。


 コーディング・レビューは白熱した。今の所、僕の唯一の見せ場だからだ。

 だから、脳もフル回転させた。

 フィギュア・アイススケートで表現するなら、ディカプルアクセル10回転半・ターン。変顔にもなっていたと思う。限界状態の人間とはそういうものだ。


 ジネヴラに対してアドバイスする時には、何気に顔も近づく。

 僕はモジモジしちゃったけど、案外とジネヴラは平気そうで、僕の目を真っ直ぐに覗いてきた。頬を紅潮させる訳でもなく、声も澄んでいた。

 こうなると、ちょっと悔しく感じないわけでもない。


 僕はコーディング・レビュー中、朝日に照らされる赤い髪の毛綺麗だなとか、顎が細いよねとか色んなことを考えてしまった。

 でも、ジネヴラは、ユウヤ、ちゃんと話を聞いてない、と途中で不満顔をしてた。

 割と切り替えちゃんとできるんだね、ジネヴラ。だけど、僕は色々意識してしまって、そういう状態じゃなかったんだ。


「おい、ウウイエア。私の話を聞いているのか?」

「はっ!」

「はっ! じゃないだろう? そして、何故、両手を上げている?」

「僕は起きてるよ。僕はちゃんと起きてて、マルティナの話を聞いてる。そこに何も問題はないよ」

 僕は慌てて両手を上下にしてアピールする。対するマルティナは頭を振っていた。


「どうだかな」

「ちょっと、マルティナ。鼻で笑わないでよ。”手鏡”が良いんだろ? ちゃんと覚えてるし。ほら、僕は起きてるよ。僕は起きているんだ」

 そんな僕の様子を見て、彼女は少しだけ疑いを解いたようだ。


 どうも、マルティナは僕を頼りなさげと思っている節がある。

 ここは僕の威厳を見せておく必要があるだろう。春風はまだ冷たく、目も覚めてきた。今日は天気も良く、陽光が心地いい。


「大丈夫! ちゃんと目が開いてるでしょ? ほら、見てよ!」

「指で目をこじ開けてる所が普通でない気がする」

 その言葉で正気に戻る。目を開けていた指を外し、腕を降ろす。


「……いや、何となく。その……。マルティナ、疑わしそうだったから」


 コーディング・レビューでは積極的に質問してきたマルティナとは、自然に会話できるようになっている。最初の頃と比べると上手くやれてると思う。


「”手鏡”はディアン・ケヒト通りの二つ向こう側、キアン通りの露天に売っているだろうから」

「うん、わかった」

 ディアン・ケヒト通りと聞いて、僕は嫌な予感がした。そこにはDHAの事務所がある。

 この世界はいつだって悪い方向にブレがない。また、トラブルに巻き込まれなきゃいいんだけど。


「それじゃ、行ってくる」




 ディアン・ケヒト通りは相変わらずに賑わっていた。金音が響き露天では商人達が行き交う人に声をかけている。活気があっていいのだけど、交流が盛んなのかアラビア系や黒人まで言い合いしている。

 僕の居た世界では、この時代の黒人は奴隷扱いされていた。だけど、この世界では対等に話をしている。何かが根本的に違うのだろう。


「昨晩、ラルカンは沈めたはずだから、今日は大丈夫だよね」

 ディアン・ケヒト通りの雑踏の中で、独り言が口から転び出てくる。

 そして、考えても無かった所で、後ろから声がかけられた。


「どういうことだ、ユウヤ」

 振り向けばガシュヌア。相変わらずの無表情。今日はドラカンは居ないらしい。

 彼の着ているスーツは上品で、この場所とはマッチしておらず、この通りの賑やかさに浮いて見えた。


「実は昨日、ラルカンとサイバー・ウォーになりまして」

 とか言える訳がない。黙っているとガシュヌアは問い詰めてきた。


「お前、何か隠しているな?」

 何だろうこのプレシャー。いつの間にか壁際へと追い詰められている。どうした訳か、足下を鶏が駆け抜けていった。頭の片隅で鶏に、お前は気楽そうでいいな、と思った。


「正直に言え、ユウヤ。ラルカンに訊きたいことががあって来たんだが、DHAには居ない。そして、メールを送っても返信がこない。何があった?」

 ガシュヌアの背後で占星術師が駆けてゆく。片手にナタを持ち、鶏を捕まえてくれと叫んでいた。


 そうか、僕の置かれた状況が鶏と同じだ。

 恐らく鶏は追い詰められ、占星術師に首を切られでもするのだろう。だが、鶏はそれを潔しとせず逃げ出した。つまりはこういうことだろう。

 僕は鶏の勇気を称えることにした。逃げ出す鶏にエールを送るべく、小さく拳を握った。


「おい、訊いているのか?」

 僕はガシュヌアの言葉を聞きながらダッシュをする。明日は見えないが、鶏に勇気を貰ったのだ。人混みの中へと入りこもうとしたが……


「やあ、ユウヤ君。どこに行こうとしているの?」

 白髪のドラカンが僕の目の前に立っていた。目は瞑っているが、どう逃げても無駄っぽい。

 脱出は失敗した。そして、向こう側で占星術師に首根っこを捕まれている鶏を見付けたのだった。



 僕はキアン通りに立っている。

 ガシュヌアが説教モードに入りかけたが、事情を説明すると短く息を吐き、付いてくることになった。ドラカンは関係ないのに付いてきた。無表情なガシュヌアとは違って、微笑んでいた。


「で、ユウヤ。お前はラルカンを沈めたわけか。何をしているんだか」

「ほっといて下さい。ガシュヌアさんにはわからないデリケートな問題なんですよ。そんなことより、どうですかね。この手鏡。ジネヴラに似合うと思いません? 鈴蘭の模様とかカワイイでしょ?」

「……」

 無表情で沈黙を守っているガシュヌアの間にドラカンが割って入ってきた。


「うーん、ジネヴラさんだったら、こっちの方がいいかもね。誕生花はこれになるから」

 ひょいとドラカンが手にした手鏡には、アイリス菖蒲の花が彩られていた。


 誕生花とかそんなの知らねーよ。男子力たけーな、おい。

 僕は黙って、渡された手鏡を手に取った。そして、手にしていた手鏡を置こうとする。


「それはマルティナの誕生日にでもとっておけ。彼女の誕生花がそれになる」

 とポロリとガシュヌアが言った。


 こ れ は !


 ガシュヌアがポツリと漏らした言葉に僕は耳を逆立てた。耳の先が尖ったかもしれない。それぐらいの案件だ。

 商店街の騒がしさなんて関係ない。僕の耳はガシュヌアに釘付けになる。


 マルティナ、これって脈アリじゃね?


 僕の脳裏にラルカンの横顔がほんの少し横切った。

 だが、マルティナとの関係もいい感じになってるし、実際の所、ガシュヌアがマルティナをどう思っているのか聞くチャンスだ。

 セルジア辺りは食いつくと思う。実際、僕は食いついた。


「ねえ、ガシュヌアさん。実際の所、マルティナのことをどう思っているんですか?」

「ユウヤ、俺は仕事で忙しい。そして、俺の肩に手を置くな」

「えー、何言ってるんですか。マルティナの誕生日、シッカリ覚えてるし。僕なんてジネヴラの誕生日知ったの昨晩なんですよ?」

 ガシュヌアの肩にかけた手はあっさりと払われる。

 代わりに店主から手鏡の値段を請求される。仕方無いので払っておく。思っていたより高かった。


「Emmaの審査会の事前準備で提出書類に目を通す必要があった。それで覚えていただけだ」

 相変わらずの無表情。コイツガシュヌアからは何も情報が出てきそうにない。仕方あるまい。ドラカンを巻き込んでしまおう。


「ねえ、ドラカンさん。ドラカンさんもマルティナの誕生日覚えています? 普通、覚えませんよねえ。その気がないと?」

 長い白髪で、美しいとも言える容貌を備えたドラカンは僕の意を察するだろうか?


「僕も覚えてるよ、ユウヤ君」

 あっ、ダメだ、コイツら。

 そういや、コイツら二人して主人公系だった。忘れてた。そういうセンサーは運休することがないらしい。樫の木的に置いていかれた感がする。


 ポツリ。


 舞台の上で樫の木にスポットライトがあたることはなさそうだ。


「とにかく、ラルカンが居ないとなれば仕方あるまい。ドラカン、アステアの所に行くぞ」

「そうだね。このままミレー街に移動しようか」


 えっ、コイツら何を言ってるの? 

 そういや、アステアと昼食でミーティングとか言ってた。

 僕もミレー街でジネヴラと食事するんだけど、コイツも一緒にいるの?

 いくらなんでもハードル高すぎだろ。


 誕生日プレゼント渡すのはいいよ。用意できたから。

 でもさ、こいつらの前でジネヴラにキスするの?

 冗談じゃないよ! ハードル上げすぎでしょうよ!


 あっ、でも店が違うとかあり得るかも。セルジアのお勧めの店ってイタリアンだったし。

 アステアはスペイン系だし、味の好みまでは、ぶつからないだろう。

 そんなことを考えながら、僕とDOGはミレー街へと移動する。


 僕を横目にしてガシュヌアが問いかけてきた。

「それで、ユウヤ。セル民族自治同盟の件について、デアドラの反応はどうだ?」

「はあっ!」

 僕は棒立ちになった。


 拷問椅子に座らされ、それどころではなかった。

 エマのえん罪事件に、ヤメ検のドナヒューが絡んでることぐらいしか聞いてない。そして、デアドラ自身がセル民族問題は言及したがっていない。この問題とは距離を置きたがっていると推測できる。


「ユウヤ君のリアクションが大きいね。どうしたの? 大きな声だったけど?」

 ドラカンから声をかけられるが、僕としては答えようがない。

 実際問題、セル民族問題どころではなかった。

 それというのも、ガシュヌアがセルジアにシェルフ・カンパニーの告発状を送りつけたからだ。


 思い出したら、ムカムカし始めた。

 オペレーション・カムランは失敗したが、樫の木的に反逆をする時が到来した。


「ガシュヌアさん! 何でセルジアに告発状とか送ってんですか! お陰で昨晩、拷問寸前までいきましたよ! 死ぬかと思ったし!」

 ガシュヌアはどこ吹く風といった様子だ。相変わらずに無表情。冷淡な口調で返してくる。


「ユウヤ、声が大きい。どうもお前は不安定なようだな。セルジアに告発状を送った理由は簡単だ。デアドラがセル民族問題に頭を突っ込むと、真っ先に顧問弁護士family lawyerに矛先が向く」

「そういう説明は事前にちゃんとして下さい。何なんですかアレ? セルジアとかブチ切れて、僕が爆弾処理ですよ。僕を大切に扱うべきだと思います。待遇改善を要求します!」

 僕は両手を上げて抗議するが、DOGの二人は冷静だった。ドラカンとか杖をつきながら笑っていた。こいつら本気で僕の話を聞いてるんだろうかと思う。


「そんなことはどうでもいい。で、デアドラの反応はどうだ?」

「どうでもよくねーよ! でも、デアドラはセル民族問題には関わりたくないっぽいです。Emmaのメンバーの前では話をしたくないみたいで、無反応ですね。後、僕を伝書鳩みたいにして使わないで下さい。悪魔であっても人間らしさを失わない。僕はその路線で行こうと思います」

 僕はサラリと悪魔的なワーク・ライフ・バランスを提示する。


 この世界では何かと理不尽な目に合わせられることを学んだ。

 だから、それに適応すべく自分のことは自分で主張をする。そうでないと、この世界に食い散らかせられる。


 実際、僕の世界での中世もそうだったのかもだが、そんなことはどうでもいい。

 僕は生きなくちゃならない。でも、この世界では厚かましいぐらいでないと生きていけない。


 ただ、そんな決心もガシュヌアの一言で粉砕される。


「一言だけ言っておこう。デアドラが契約する場合、ユウヤ。お前が担当者となるなから、覚悟はしておけ」



<Supplement>

※a 働かざる者食うべからず

 この概念が明確に現れたのは、新約聖書内にある『テサロニケの信徒への手紙2』になる。

 パウロ書簡(a-1)と呼ばれる文書の中の一つになる。


※a-1 パウロ書簡

 新訳聖書にはパウロ書簡と呼ばれる文書群が存在している。

 尚、この文書群が新訳聖書で正典として扱われているが、同時代に存在している文書群で聖書に含まれていないものもあり、それらは外典(a-2)と呼ばれている。


 パウロ書簡とは新訳聖書内にある文書群を指す。

 『ヘブライ人への手紙』についてはパウロが書いたものとされていたが、三世紀から疑問視されている。現在の学者の間では殆どが作者は不明であるとなっている。


※a-2 外典、偽典

 旧約聖書、新訳聖書が存在する以前に複数の宗教文書群が存在している。

 その宗教文書群を編集したのが、旧約聖書、新訳聖書となる。

 聖書に取り入られたのを正典、そうでないものは外典とされている。カトリック、プロテスタントなど教派によっても正典、外典は異なる。また、ユダヤ教は旧約聖書のみになるが、正典は異なる。イスラムでも旧約聖書(a-4)、新訳聖書(a-6)は啓典として扱われ、文書の扱われ方は異なる。

 偽典とは旧約偽典とも呼ばれ、旧約聖書で取り入れられなかった文書群を指し、正典、外典にも指定されなかった文書群を指す。

 外典、偽典などの設定は、それぞれの権威主体で行われており、カトリックでは公会議と呼ばれるキリスト教世界での最高会議体によって決定されている。


※a-4 旧約聖書

 旧約聖書の構成(キリスト教カトリック)

 ・モーセ五書(※a-5)

 ・預言書十五書

 ・諸書十九書

 ギリシア語の正典としては紀元前三世紀程から紀元前一世紀までかけて編纂されたという経緯がある。一般的に七十人訳聖書はこれにあたる。

 ヘブライ語の正典として成立したのは西暦九十年頃のヤムニの宗教会議を通じて決定をされる。


※a-5 モーセ五書

 この書物についてはアブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)(※a-7)での律法の在り方の根元を表している。尚、旧約聖書に記載がある宗教儀式についてはキリスト教では、イエス・キリストの誕生によって成就されたとしており、道徳律法が今日の西洋哲学に引き継がれている。他方、イスラムでは啓典の一つという位置づけで、宗教儀式や倫理感などはコーランが優先される。


 モーセ五書は以下の書物で構成されている。

・創世記(J・E・P)

・出エジプト記(J・E・P・D)

・レビ記(P)

・民数記(J・E・P・D)

・申命記(J・E・P・D)

 これら文書は文書仮説では神の呼び名が混在していたり、記載文書に矛盾が存在しており、ヤハウィスト資料(J資料)、エロヒスト資料(E資料)、申命記史家資料(D資料)、祭司資料(P資料)を参照して作成されたとされている。


 モーセ五書類関連性(安全確認済み:2019/01/05)

 https://en.wikipedia.org/wiki/Documentary_hypothesis#/media/File:Modern_document_hypothesis.svg

 J:ヤハウィスト資料

 E:エロヒスト資料

 Dtr1:初期(7世紀前半)申命記史家資料の歴史学者

 Dtr2:後期(6世紀前半)申命記史家資料の歴史学者

 P *:祭司資料(西暦前6~5世紀:ほぼレビ記を含む)

 D†:申命記の出典(申命記の大部分を含む)

 R:編集者

 DH:申命記の歴史(ヨシュア記、士師記、サムエル記、列王記)

 Torah:モーセ五書トーラ


※a-6 新訳聖書

 新訳聖書の構成は以下のようになっている。

 ・福音書(キリストの生涯、マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)

 ・使徒言行録(初期キリスト教の歴史)

 ・書簡(パウロ書簡、公同書簡)

 ・黙示録


 マタイ、マルコ、ルカの福音書は共通点が多く、共観福音書とされている。

 一方、ヨハネの福音書に関しては著しくスタイルが異なり、共観福音書には含まれない。


 共観福音書の作成については、Q資料仮説や二資料仮説がある。

 Q資料仮説とはマタイ、マルコ、ルカの福音書が書かれるに辺り、共通資料を参照して作成されたという説。

 1801年にハーバート・マーシュ(英国)によって論文が提出された。後に神学者フリードリヒ・シュライアマハー(独国)によって整理され、現在のQ文書仮説の土台となる。

 1945年にナグ・ハマディ写本が見付かる。キリスト教グノーシス派由来の文献の発見ということもあり、20世紀の考古学上では最大の発見とも言われている。(西洋的価値観での最大の発見)原初キリスト教においてグノーシス派は異端とされ、グノーシス派に関する文献が残っていなかった。しかし、トマスの福音書に代表される文書群の発見を受けて、Q文書仮説は過熱化することになる。

 尚、1978年には原初キリスト教グノーシス派の資料となる、ユダの福音書がエジプトで発見される。

 このユダの福音書ではユダ以外の11人の使徒はイエスの教えを誤解しており、ユダのように不滅の魂を与えられている人々は、死に際して内なる神を知り、不滅の領域に入ることができるとしている。


 最期に、二資料仮説というのは、マルコの福音書とQ資料をベースとして、それぞれの独自資料をもって、マタイの福音書、ルカの福音書が作成されたとするものである。現時点において一番有力であるのは、二資料仮説である。


※a-7 アブラハムの宗教

 ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の総称を指す。

こう呼ばれるのは宗教理念として、以下のような構成になっているからである。

・ユダヤ教:旧約聖書+タルムード(戒律集)

・キリスト教:旧約聖書+新訳聖書

(諸派によって旧約聖書、新訳聖書の構成は異なる)

・イスラム教:旧約聖書(トーラ)+新訳聖書(福音書)+コーラン

(但し、旧約聖書や新訳聖書よりコーランが優先)


</Supplement>

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