お菓子の国のおかしな日常

第6話 才能の使い道…?


お菓子の国。

広い海にポツリと浮かんだ島国で、その独特な雰囲気が観光地として人気だ。

なによりの特徴は、全て''お菓子で出来ている''ということ。

嘘みたいな話だが現実だ。

お菓子の国周辺の海は甘い砂糖水で、陸地はスポンジケーキ。


海水と砂糖水の分かれ目は不明。

何故お菓子で出来ているのかも不明。


だがその特殊な土地故に食料問題は起こらず、ここまで発展してきたという。




「うっわぁ……すっごい甘い匂い」


定期船に乗り、お菓子の国までやって来た。

短い手続きを終えれば後は自由。

取り敢えずは宿を取らねば、そして短期の仕事を探して…ん?


「アル? どうかしたの?」


『……肉が、喰いたい』


「無理、朝から晩までお菓子しか食べられないよ。取り寄せ品は高いし」


『こんな甘ったるいモノを喰え、と?』


「甘いの嫌いなの?」


『甘い物が好きな肉食動物をどう思う?』


この国に来る前からこうだったが、来てからもその態度は変わらない。

アルは甘い物は好きではないらしい、だがこの国に来たからには食べてもらわねばならない。


船着場からほど近くの宿屋、クッキーで作られた扉を開ける。水飴で出来た窓は少し溶けて外の風景が歪んで見えた。


「いらっしゃい、一人と、一匹だね」


「はい、取り敢えず一週間でお願いします」


「あいよ」


『一週間!? 一週間も肉が喰えないのか!?』


「うるさいよアル、お菓子も美味しいから食べてご覧よ」


『肉……肉が、喰いたい』


宿帳に名前を記して部屋の鍵を貰う。

二階の角部屋か、なかなか悪くない。

ベッドは綿飴だった。いくら何でもこれはちょっと困る。髪と服が砂糖まみれでベタベタだ。


『おい! このシャワー砂糖水だぞ!』


風呂場の方向から悲鳴が聞こえる、部屋に入ってすぐにシャワーを浴びるとは……よほど潮風、もとい砂糖風が気に入らなかったらしい。

砂糖で張り付いた毛を飴細工で出来た櫛で梳かす。

意味が無い気がするのはきっと気のせいだ。


『……肉、肉』


「お仕事探さなきゃ、アルも来る? 待っとく?」


船で配られたパンフレットとこの国の地図を見ながら、ベッドに寝転がる。仕事といっても大抵はお菓子の収穫の手伝い程度しか募集がないのだが。


……お菓子って収穫するものだったかな。



「あ、これ楽しそう。マシュマロうさぎの毛刈りと綿飴羊の毛刈り、給料も良いし。」


ベッドの脇で毛繕いをするアルに仕事案内の冊子を見せる。興味なさげに一瞥し、ベッドの上に飛び乗ってきた。


「アル? どうしたの?」


僕をベッドにゆっくりと押し倒し、腕を抑えるように前足を肩に添えた。


「やっ……ぁ、アル…! ちょっと、離れて!」


アルは僕の顔を舐め、それから首筋に舌を這わせた。

そして牙を突き立て……られかけた瞬間、焦げるような匂いがし始める。

アルは尾を壁に叩きつけ、悲痛な鳴き声をあげる。


「あ、アル…?」


『……ぐぅ、…チッ、いや、平気だ』


「平気って……ねぇアル、今、何しようとしたの」


焦げるような匂いの元はアルの尾だった。

僕が名前を彫った痕が真っ赤に光り、尾を中から焼いていた。


何故、そんな事になるのか。

理由は一つ、契約違反。


なら違反とみなされた行為とは何だ?



『……この国は少しおかしい。早く出たほうがいい』


「ねぇ、アル、答えて。今僕を……」


『出かけてくる、夜には戻る』


アルは僕の言葉を遮り、部屋を出ていった。

僕は仕方なく先程まで見ていた冊子を持って牧場に行くことにした。





「いやー、坊ちゃん凄いね、こいつらいつも逃げ回るのに」


「い、いえ、そんな」


めェ、と僕の足の間で鳴き声をあげる羊。

この羊の毛は全て綿飴だ。

それを専用の器具で剃る、それが僕の仕事。


あまりこの仕事は人気じゃないようで、僕以外に希望者はいなかった。

先程言っていた逃げ回る、に何か関係があるのだろう。


「あっコラ! 待てっ……ぐわっ」


走り回る羊に頭突きされ、牧場主が柵の外まで飛ばされた。


なるほど、不人気の理由はこれか。

この羊は家畜用とはいえ魔獣、人など簡単に吹き飛ばせる。


「 お い で ー!」


そんな羊も僕が一声かければ集まってくる。

これは今後の仕事選びに役立つ発見だ。

『魔物使い』か、悪くないな。


「うぐぅ……次、うさぎも頼めるかい」


「は、はい、おじさんは大丈夫ですか?」


「ヒビで済めばいいが…な。ははっ」


担架で運ばれていく牧場主を尻目にうさぎ小屋へ。

カラフルなパステルカラーの塊達…じゃなくてうさぎ。

このうさぎの毛はマシュマロらしい。

両手で抱える程の大きさだったうさぎは、毛刈りを終えると手のひらほどの大きさになった。


「どうしよ……あ、並 ん で ! 」


二つの柵の間に腰掛け、毛刈りを終えたうさぎを分けていく。


「君、経験者かい?」


「いえ……初めてですけど」


「何年もやってる私でもこうは……ぐはっ!」


「……大丈夫ですか?」


牧場主の息子だという彼は、うさぎを抱えあげては噛まれ、他のうさぎに蹴られて…今は柵の中で倒れている。そして集中攻撃をくらっている。





「……今日の給料だ」


「あ、ありがとうございます。大丈夫ですか?」


腕と頭に包帯を巻いた青年に封筒を手渡される。

歩合給だと書かれていたが…随分と多い。


「もう今月はやる事ないからね…僕は療養かな、父さんも…ははは」


自嘲気味に笑う彼に少し戸惑う。

いつもこうだと言っていたが、魔獣の牧場というのはどこもこんなものなのだろうか。

魔法の国では国内に魔物を入れる事は禁止されていた。その代わりな自分達で改造した魔法生物をペットにしている家庭は多かったかな。


牧場から宿までの帰り道。

夕飯の菓子を買った、もちろんアルの分も。

だが夜になっても朝になっても、アルは帰ってこなかった。

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