第七章 7

 午前六時三十八分。


 第一世代は、ベラルーシ東部にある都市ビデプスクの付近に到着した。


 住民が通勤と呼ばれる行動を開始すると思われる時刻は、すぐそこまで迫っている。無数の自動運転車が動き出す前に、街の中心部にある目的地まで到達しなければならない。


 街の手前まで来たところで装甲車を停めたアレクセイが、ビデプスクの情報通信網に不正接続して、目的地の所在地を調べ上げる。


「もう隠れずに、モーターを思いきり叫ばせて急ぐべきじゃないか、オーリャ?」


 指揮官であるオリガが答える前に、ニコライが賛同した。


「オレも同意見だ。今日は珍しく気が合うな、アリョーシャ」


 オリガは、通勤に巻き込まれて追突されるリスクと警察に通報されるリスクを天秤にかけ、少し考えてから決断を下した。


「わかった。可能な限り走行速度を上げて、目的地に乗りつける。中に入ったら、冷静に話を進めて、状況を理解してもらいましょう。さあ、今のうちに対放射線スーツを脱いで。アトヴァーガ、運転をお願い」


 アトヴァーガは、にこにこ笑って返事をした。


「了解したよ。いよいよだね。運転は得意だから安心して」


 第一世代は疾走する装甲車の中で重厚な対放射線スーツを少しずつ脱ぎながら、どのようにして話を進めるかを検討した。


 アレクセイが左腕パーツを外し、それを床に置いてゴトンと音を立てさせながら、険しい顔で言う。


「前に話し合ったとおり、ベロボーグ計画の最終目的や、隠蔽していると予想される西側諸国による虐殺行為など、対立が生じかねない情報は明かさないようにしよう」


 ニコライも、同じように右腕パーツを外しながら答える。


「わかってる。ただし、いつか必ず真実を公表するという約束を忘れるなよ」


 胸部パーツの固定を解除しながら、アレクセイは神妙に頷いて言った。


「もちろん。公表しなければ、世界はいつまで経っても変わらないからな。公表する時期を判断するのは難しそうだけど、いつか、最適な時期と場所が見つかると思う」




 しばらくして、装甲車はビデプスクの中心部にあるビルの屋外駐車場の前に到着した国境でセンサーを解除した時と同じように、アトヴァーガが迷彩外套を纏って装甲車の下部ハッチから降り、敷地出入り口を管理するコンピュータを無線で支配して、ゲートを開けさせる。


 装甲車は速やかに敷地内へと進入し、とあるビルの入り口前に乗りつけた。


 対放射線スーツを脱いで身軽になった兄弟姉妹に、オリガが命じる。


「ハッチバックを開けるよ。三、二、一、行こう」


 第一世代はハッチバックを開け放ち、ここに来てやっと、地上に降り立った。




 少し離れたところに停められた車の中から、眼鏡をかけた細身の中年男性職員が、その様子を見ていた。


 夜勤を終えて帰宅しようとしていた彼は、玄関前の空中に四角い空間が突然現れ、そこから軍服のようなものを着た七つの人影が出てきて、脇目も振らずにビルに入っていくのを目の当たりにして、強くまばたきをして目頭を揉みながら、そろそろ本格的に休暇を取らなければと誓った。


 第一世代の六人と一体は、落ち着いた足取りでビルの内部へと入っていった。本物の太陽を肉眼で目視するという望みすら忘れて。


 そんな健気な彼らの背中を、逞しい朝日が照らし、優しく温める。


 オリガは清らかな陽の光に背中を押されながら、怪訝な表情を浮かべる受付の職員に対し、少しも恐れずに秘密を打ち明けた。


「私たちは、ロシアの地下深くから来た、正真正銘のロシア人です。どうか、私たちの話を聞いてください。テレビの取材なら、いくらでも受けます」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る