第七章 6


 二二五六年、六月九日、午前五時十六分。


 交代で仮眠しながらベラルーシとの国境に辿り着いた第一世代の六人は、愕然とした。


 国境を警備しているはずの敵ロボット兵の姿が見当たらないのだ。


 ひらけた荒野を切り裂くように伸びる幹線道路の先に設けられた国境には、孤立する古びた入国管理施設と、土埃でくすんだ入国ゲートと、その横に広がる頑丈な金網しかなく、警備人員が一人もいない。


 あるのは、立ち入り禁止という文字が読めない愚か者に警告を発するためのセンサーと、監視カメラだけだった。




 アレクセイはゲートの汚れ具合を観察し、使用されなくなってから相当な年月が経っていると推測した。


 ゲートの各所に設置されているセンサーと監視カメラの仕様を分析し、アトヴァーガに任せれば簡単にクラッキングできることを確認した第一世代の六人は、全対応型の迷彩機能が施された外套がいとうを纏ったアトヴァーガを底部ハッチから出動させて、邪魔なセンサーと監視カメラを速やかに無力化し、拍子抜けするほど簡単に国境を越えた。




 オリガは改めて、時刻と空の色を確認した。


 人々が起床して活動し始める前に、次の段階へと進まなければならない。擬似透明化した装甲車で街を走行すれば、間違いなく追突されてしまう。


 彼らは思い切って走行速度を上げ、次の段階へと進むために訪れなければならない目的地へと急いだ。


 その車内では、敵ロボット兵に電子戦を仕掛けて無力化するという使命を帯びていたアトヴァーガが、活躍の機会を失ったと悲嘆に暮れながら、父親ともいえるニコライを見つめていた。


 ニコライは国境ゲートのセンサーと監視カメラの無力化の成果を褒め称え、これから体験するであろう楽しい出来事を話して聞かせて、拗ねる息子を慰めるのだった。

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