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いの一番にこれ以上無いほどの驚きを貰ったせいか、その後の教師陣紹介は僕の心の癒しの時間になったと言えよう。周りと言えば、皆ロジーの魔法により感嘆の声を挙げ……そのまま続く他教師の自己紹介にも興奮した様子で見いっていた。
視線が未だ飽きることもなく教師達に注がれていることに、予想もつくだろう。何も経歴がすごいのはロジーだけでは無かったと言う話だ。トップバッターで視線を礼拝堂の中央から外せなくするようにしたのがロジーだったらしい。流石は王家のコネクション、生半可な経歴をしている者達はほぼいない。その中には勿論攻略対象達も、いる。あのアプリのストーリーの熱烈なファンであれば、今見えている光景が宝石箱のように煌めくことだろう。一人ずつ自己紹介をしていく様子を、穴があくように見つめていた。その中でも特に輝いて見えるのはやはり、その人達で。
「――つうわけでね、色々あった後クビ飛んだ白魔法の先生の後釜に就くことになった。ラム・ダストアと言う。……先生って呼ばれるのはどうしても堅苦しくってな、気軽にオッサンって呼んでおくれよ。生徒ってのは馴れ馴れしいのが可愛いと思ってるからよ、俺」
…コハク色の長い頭髪をドレッドにし軽く結わいた風体のアンニュイミドルは、ラム・ダストア。少しくたびれた雰囲気の四十歳、ヒイロとはほぼ二回り程離れた年齢の新たな男性教師は、補助や回復等の知識、実践等の担当だ。長いローブを引きずるように着崩し、その下には魔術師らしく無いシンプルな装いの衣服。首からチェーンで吊り下げているのは、彼のトレードマークの三角眼鏡だ。地球では、年齢差カップルが好きなファンからは常に注目の的だったと思う。イベントスチルで、ヒイロと眼鏡と眼鏡をこつんとあわせてからの「まだ、ここまでな」と言うシーンは数々の夢女子を発狂させていた記憶しか無い。一見だらしなさそうに見えて実はとても紳士、プレイヤーにより積極的な選択肢を選ばされたヒイロに対しても「まだ駄目だ」「お前さんはそれでいいのか?」と、ヒイロのことをとにかく考えてくれるとても優しい一面があることからそのギャップにやられたユーザーは多い。元癒術院のベテラン癒術師であり、第一印象とは真逆の貫禄を思わせる面もしばしばある。
「んふふ。…新しく、黒魔法教科に携わらせて頂きます。アマンダ・クーフェルと申します。……見ての通り、純正の夢魔です。種族にご興味ある方も、授業にご興味ある方も。是非お話をしてみたいですね」
濃灰色と薄桃色のツートーンカラーの頭髪が特に目立つ。頭に羊に似た小さな角を持ち、腰から生えた翼と、先が尖った尻尾の持ち主。
ふわふわと浮くストラを首に巻き、神父服に幾ばくか露出のアレンジを加えた衣装の人物の名は。意味深な雰囲気にさせることが大の得意、夢魔の教師と言う意外性を持つキャラクター、アマンダである。作中ではクーフェルの名で呼ばれることがほとんどである男夢魔だが、アプリ内では確か、キャラクターデザイン担当絵師のラフを見たシナリオ担当が急きょありふれた夢魔イメージの設定から大幅な改造をされて本実装となった過去を持つ。意味深なことをよく言うけれど、実際は性的なことに関しては大照れしてしまう、夢魔らしくない性格だ。他の教師陣が全員恋愛傾向のスチルを貰うと言うのに、アマンダだけはヒイロとは親愛、親友のような位置付けのように見えることが多く。ヒイロと二人並べば「女子会」「聖域」「変態お断り空間」等と一言添えたファンアートが大量に生み出されていた記憶まで蘇ってきた。軽薄で性的な男夢魔と言う初期設定から、初心で清い男夢魔と言う世間と真逆のイメージをぶっちぎりで確立させた存在だ。過去、人間に恋をして悲惨な目にあったことがあるが、国王二人とヒイロのお陰でまた恋をしようと思えるようになった素晴らしい経緯もある。
「ほい!同じく!新しく魔道具の授業を担当させて貰うよ!メイメル=メアーです!こちらはペットのヒナリ!いつもは王家も指揮をとってる開発室で働いてます!就職希望の人とか是非バンバカ聞きに来てね!どうぞよろしく!」
「ぴよ」
一瞬生徒がざわついたのは、その紹介されたペットが教師よりもでかいひよこだったからだろう。しかも、重低音でぴよと鳴かれては初見では驚くと言うもの。
メイメル=メアーは元気で明るい発明家、魔道具制作現場の最前線で日夜様々な用途の為に試作されるそれらの開発を行っている青年だ。ぐるぐるとした文様が入っている両目、ウェーブがかかった長めの薄紫の髪を胸に流すように横で結んで、毛先に所々見える黄緑のメッシュは見ていて不安定になりそうだ。彼は所属する研究室で一番活きが良すぎて、リドミナからの教師要請にも誰よりも早い即答でここでの勤務を承諾した……魔法の才能が、てんで駄目な人間だ。小さい頃から魔道具の補助無しではまともに魔法も使えなかったことから、魔道具を作る職を目指すようになり。その結果、彼の発想力はカナリア領土内一の天才という位置にまで到達するようになっていて。落ちこぼれのレッテルを過去に貼られ、ろくな職にも就けないと罵られ、それでもなお、憧れを貫いて魔道具開発に携わることになれた、努力のシンデレラボーイ。子供っぽい表情を見せる彼が、ヒイロを笑わせる時だけ大人の表情を見せるスチルが異常な人気を博していた。
「た、担当教科は天文学、及び占星術です。……代々、星詠みの一族として専門的に学んで来たのですが。時代は移り変わり、星と言えば錬金術師達の天文学にお株を奪われ、どの学校でも次々と廃止されてきた占星術ですが……こ、この度、陛下のお言葉により、魔法使いとしての矜持も高い皆様の為にもと言うことで、後学の為にもその双方を教える権利を与えて頂きました。…すみません、名前言い忘れました、ごめんなさい…。僕はステラ、ステラ・メテオール、と申します。――星詠みの一族の末裔に恥じぬ講義を行いたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
そして、この十数人の教師陣の中だと、彼がアプリ内でのネームドキャラとしては最後だ。真面目さの擬人化、という言葉の一番最初に「空回りが多い」と付け足される、不遇の努力の人、ステラ・メテオール。その名の通り、星を落として相手を攻撃することが出来るスケールの大きすぎる反則級の必殺技を持ち、メインストーリーで満を持してプレイアブル化した際にはあまりの攻撃ステータスの強さに、国王二人に次ぐ壊れ性能とまで有志が検証した程だ。こちらもリドミナ学園に呼ばれたシンデレラボーイと呼ぶに相応しい程の不幸な過去持ちで、王に引き抜かれてカナリア王都に引っ越して来るまでが本当に悲惨なのだ。
先に彼から言われたように、天文学は現在では錬金術師達の領域である。魔法と錬金術は互いが互いを補い、より正確な方がその分野で領域を広げることがあり。こと空においては、魔法使いが行う占星術よりも錬金術師が確立させた天文学の方が正確性、専門性が高く。技術自体は魔法と錬金術を掛け合わせたものであることと、界隈の関係も良好である為啀み合うなどということは無いのだが、今の空に携わる割合は錬金術師の方が多い。
かつてステラのいた学園は柄の悪い生徒が多く、錬金術師としての在り方を崇拝する校風があった。その為か占星術の授業をこてんぱんに荒らされ、駄目で弱い教師として生徒からも虐げられ、時代の流れにもうあわないからとクビにされたと言う本当にひどい話があったキャラクターだ。全てを素直に受け止めて熱心に学ぼうとしてくれるヒイロと出会い、教師と生徒でありながら惹かれていく……というのがステラに与えられた救いの展開で。メイメルがプラスなら彼は間違いなくマイナス思考の人間だろう。……仲良くさせて頂きたくなるな、見ていると。
礼拝堂、様々な場所に視点を飛ばしては考え込んでいた僕ではあるが。周りではざわつきながらも、彼らの経歴を聞くうちにまた目を輝かせる生徒も多くなっていて。
教師達とは接触して得になることもありそうだと、そんな風景を見て思う。彼等の紹介が終わり、また王の言葉が出ると途端に静まり返っていて。結びの話が始まる時に、僕と来たら無礼にもこの次の時間に既に意識を飛ばしていたのである。
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