第38話 仮面の裏側

「そして、最後の証拠だ。

 何故最初から気づかなかったのだろうと今は思うよ。それ位濃厚かつ明白に。花月朗、僕はお前から知佳の気配や雰囲気を感じるんだ。

 これこそが僕が提示出来る最大にして最後の証拠だ」

 感情論と言ってくれればそれでいい。

 実際その通りだ。

 でも勘による判断とは、偶然じゃ無くて無意識の観察の結果。

 そんな事を以前聞いたような気がする。

 それと同じ次元で、僕のVR上の五感が叫んでいる。

 こいつは知佳だと。

 花月朗はしばらく沈黙して。

 そしてため息をついた。

「何故今更、こんな時になってそういう事を言うのかなあ、聡は」

 そう言って、わざとらしいシルクハットを脱いで、笑い顔の仮面を外す。

 仮面の下にあった顔は涙とかで色々くちゃくちゃの、知佳の顔。

「折角こっちが別れを決めようとして来た時に、私の正体を暴くなんて。どうしてくれるのよこの状況。もうお別れしかない筈なのに」

 いや、違う。

「まだ別れるというのは早い。

 つまり花月朗こと知佳も、僕もまだ手段を尽くしていない」

「私はもう知佳じゃないよ。本体が情報構造物だからリアルな身体よりも進化は早いし。この場所にいると数日で年単位の情報に接する。だから必然的にもう元の知佳とは違うものになっているの」

 おっと、結論を急ぐ前に確認事項が出来た。

 だから質問する。

「という事は、僕の前にいるのは知佳の意識という訳ではないんだな」

 彼女は頷いた。

「勿論。小島知佳のマインドアップロード構造物アーキテクチャって聡は言ったでしょ。その通り。それが1月あまり経って独自進化を遂げた存在、それが今の私ね」

「なら本体の意識はちゃんと知佳の身体にいるんだな」

 これは僕にとっても重要な確認だ。

 そして彼女は頷いた。

「うん。間違いない。ただ意識がどうすれば出てこれるのかわからないだけ」

「間違いないか?」

「うん」

 よし。

 確認事項コマは全て揃った。

 でもその前に。

「ところで目の前の知佳の事は何と呼べばいい。花月朗というのは僕に会うために作り上げた虚像だしさ」

「何でもいい。私は私。それにもう会えるのは多分6日までだから」

 いや、そうはさせない。

 この知佳は気づいていないが方法論はまだ残っている。

 上手く行くかはわからないけれど。

「なら取り敢えず、知佳と呼ぶよ。どっちを呼んでいるか困ることは無いだろうし」

「うん」

 さて、ここからが本当の僕の作戦だ。

 僕は仮想上の右手を握りしめる。

「さて。ここまで引っ張って知佳に悪かったけれどさ。方法論はまだ残っている。目の前の知佳が消えなくてもいい可能性が」

 えっ!

 知佳がそんな驚いた顔で僕の方を見る。

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