第30話 条件闘争実施中
これが私の考えた作戦。
学校で三崎君に話しかけても自然な状況を作る。
その第一歩だ。
「それで取引とは」
でも三崎君、なかなか用心深い。
ここであっさり同意したら色々たたみかけてしまう予定だったのだけれども。
「そうね。でもそれはちょっと場所を変えてから」
おばさんは寝ているけれど、知佳の前でこの話はしたくない。
「わかった。外で話そう。でもその前に今日の知佳の様子を確認」
私は頷く。
お見舞いに来たのだからそれは当然だろう。
そんな訳で2人で知佳の様子を確認。
まあ寝ているだけなのは変わらないのだけれども。
そう、見た限りは普通の人が寝ているのと変わらない。。
「それにしても、本当に単に寝ているだけって感じだね」
思わずそう言ってしまう程に。
今、知佳が起き出してきたらどうなるだろう。
私の目の前で感動の対面になるのだろうか。
三崎君の性格からそれは無いかな。
でもお母さん起こして、先生呼んで、そして……
三崎君は元通り知佳とくっついて、そして私の今やっているゲームは終わる。
三崎君に抱いている興味が本当はどういう感情だったのか、それを確かめる事の無いままに。
それはきっと、とても正しい終わり方。
だからごめんなさい。
知佳、今はまだ目をさまさないで。
そんな思いの私に関係なく、三崎君は状態を説明してくれる。
「脳は敵には実際睡眠とそう変わりないそうだ。レム睡眠とノンレム睡眠もちゃんとある。気絶とか意識途絶とかと違って。だから実際いつ起きてきてもおかしくない筈なんだ」
でも現実には今日この時も知佳さんは目を覚まさないままだ。
「行くか」
三崎君の言葉に私は頷く。
そして知佳に心の中で頭を下げる。
ごめんなさい。でももう少しだけでいいから。
私にも夢を見させて下さい。
ずうずうしいお願いをして、おばさんを起こさないよう静かに部屋を出る。
「それで取引とは?」
廊下に出るなり三崎君が尋ねてきた。
さて、条件闘争だ。
「三崎君は昼休みにもVRアダプタつけているでしょ。あれを外して欲しいの。
小島さんの為に短時間でも手がかりを、というのはわかるの。でもあれをつけていると何か他人を拒絶しているように見える」
そう、あのVRアダプタ。
あれがあるとなかなか話しかけられない。
だからこれが私の第2作戦。
遠慮無く三崎君に話しかけるための条件その2。
三崎君はちょっと動揺している。
ちょっとこの条件、意地悪かな。
あのVRアダプタは知佳を助ける方法を探すためでもあるだろうし。
知佳がいるかもしれないVR世界と繋がっている安心感かもしれないし。
あてどもなくVR世界で知佳を探しているのかもしれないし。
でも、あれは障害物。
私が三崎君に近づくには邪魔。
だからここは譲れないし譲らない。
「VRアダプタ無しでスマホ検索とかは取り敢えずありでいいわ。それは他の人もやっているから。VRアダプタがあるとどうしても話しかけにくいの。五感を全て向こうへ持って行ってますよという感じで。
だからそれが交換条件」
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