レアな出会い
最近教えてくれる人がめっきり減ってきた。
一番隊の人はリントヘイムに行っちゃったし。
翠さんはなんだか最近特に忙しそう。珀さんと何か企んでる…。
ミアやリザは怪我して動けない。
ライラさんも怪我。
ララはその看病で忙しいし。
シドおじさんも最近忙しくて声をかけられない。
レイ様やウキエさんなんてもう何日も姿を見ていない。
クインさんたちもレイ様と同じで姿が見えない。
そこで私が目を付けたのは最近来た人達。
三番隊の人達だった。
イリアさんにまだ誰にも教えてもらっていない弓矢を。
アラゴンさんにランドルフさんに教わろうと思っていた調略や戦闘指揮を。
トレアさんに魔物を倒すときのコツや冒険者の心得を。
最近はこの3人で手が空いてそうな人に声をかけてる。
3人とも忙しそうな時は、もっぱら教わったことの復習か、自主練をしてるけど、全員同じ三番隊の人たちだから忙しい日もかぶることが多くて、1人で訓練したり勉強する日が増えてきた。
そんなある日、私は一人の女性?兵士を見つけた。
三番隊は今日休みのはず。
確か昨日は10日に一度、休み前の強化訓練で朝からずっと過酷な調練を行っていたはず。
いつもならほとんどの人達が次の日死んだように眠って起きてこない。
前にも似たようなことはあったけど、次の日全員が食事にすら来ていなかったってきいたから、過酷な調練なんだろう。
私もそのうち参加してみたいと思う。
なのに朝からいつもと同じように重い鎧をつけて、走りこむ人がいる。
毎日続く基本練習だろう。
イリアさん達以外にもタフな人がいるんだと、ちょっと興味が出た。
いつも教えてもらう3人と幹部の人達はウキエさんに呼ばれて不在らしいから、たぶん一般兵の人。
もしかしたら私の先生候補になるかもしれない。
そう思って様子を見ていた。
この調子なら昼まで全然続きそう。
なので私は食堂で昼ごはんをもらってからその兵士のところに近づいていった。
一段落したらしく、兵士の人も肩で息をするように木陰でかがんでいた。
ちょうどいいタイミングだったみたいだ。
「あの、お疲れ様です。よかったら昼食ご一緒しませんか?」
濡れた冷たいタオルを差し出しながら、手に持った2人分の昼食を見せる。
遠目からみてわかってたけど、鎧を外したその兵士はやっぱり女性だった。
整った顔立ちに、短く切った青い髪。女性なんだけど、どこか少年っぽさが残る雰囲気が印象的だった。
「…君は?」
「私はレアと言います。ここでお世話になってるものです。貴方は?」
「私はクレアという。ありがたく頂くよ。」
そういってクレアさんが私の渡したタオルを受け取り、汗をぬぐった。
重い鎧のいくらかをはずし、シャツ一枚の姿になる。
細く、白いきれいな肌が見えた。
とても強化訓練を受けきれなさそうな姿だけど、この人はやり遂げた上に次の日もいつも通りのメニューをこなしてる。…すごい。
「すごいですね。みなさん昨日の強化訓練で動けないほど身体を酷使したってきいたんですけど…。」
「あぁ…いや、まぁ…私は人一倍やらないと出来が悪いからな。タフさだがとりえさ。」
そういってクレアさんは頭をかいた。
謙遜だろうか?
「今日はこのまま一日鍛錬するんですか?」
「あ、ああ。とりあえず習慣になってる調練をする予定だ。」
「私もお付き合いしていいですか?」
「え?あ、ああ。かまわないが、ついてこれるのか?」
私の言葉にクレアさんは驚いていた。
まぁそうだろう、見るからに年下の私が調練に付き合いたいとか言ってきたら驚くだろう。
「大丈夫です。ダメそうなら放っていってくれていいので。」
だからそういって、私は昼食を食べ終わった後に、クレアさんの調練に付き合った。
結果はちょっと残念。
クレアさんがいうように、イリアさん達みたいに特出した感じはしない。
もちろん、私よりはずっと強いとおもうけど…いや、もしかしたら微妙かも?
日課の調練も終盤になってきたころ、私はクレアさんに模擬線をお願いした。
調練についてきた私に驚いていたクレアさんは快く模擬剣で相手をしてくれるといった。
私が使うのは木刀。といっても少し短めのを2本。ミアと同じ双剣。これが一番私にあってるし、自身がある。
結果は1勝4敗。
やっぱり残念だった。
最初の4戦はクレアさんの勝ち。そしてさっき私は1勝した。
クレアさんはなんていうか、基本に忠実すぎる。
確かに基本通りだから、弱くはないけど、なんていうか面白くない。
次に来る手が予想できてしまう。
だから私の奇襲…といってもただ双剣の1本をありえないタイミングで投げただけで動揺して隙ができる。
結局そのまま私の残った剣で弾かれて、模擬剣を落としてしまった。
あのタイミングで投げるなんて…。と少し非難めいた表情をしているのはなぜだろう?
どんな手段でも勝ちは勝ち、負けは負けなのに。
たぶん、次同じ手は聞かないと思うし、警戒されてて似たような奇襲も効かなくなるだろうけど。
もし、ミアやイリアさんならあんな奇襲は通用しないだろう。
まぁ私も通じないのがわかってるからしないけど。
基本は大事だけど、絶対じゃないっていってたのはライラさんだったかな?
「最後のはよかったが、君はもう少し基本をきっちりしたほうがいいんじゃないか?」
クレアさんがアドバイスしてくれる。
確かに4敗したのは事実だし、実力ではあっちが上なのも確かなので聞いてみた。
「どこがいけませんでした?足運びですか?どうすればいいですか?」
「ん?いや…それは自分で…。」
だけどクレアさんはなぜか指摘するのをためらってる。
「え、クレアさん、私のダメなところが見えたんですよね?なら直しますからどうしたらいいのか、ぜひ教えてください。クレアさんの方が強いんですし、お願いします。」
私はクレアさんに頭を下げた。
知りたい。どうやればもっと強くなれる?足りないものを少しでも早く補いたい。
けれど、クレアさんは憮然とした態度をとった。
「それは自分で見つけて理解し、直すかどうか考えるべきだろう。人に聞いたことを鵜呑みにして自分にとってそれが問題かどうか、直すべきかどうかを考えなければ逆に効率が悪いぞ。」
「え、でも自分より強い人に悪いところを指摘してもらって直したら、もっと早く、強くなれますよね?」
「自分より強い相手だからといって、その相手のいうことが必ずしも君にあっているとは限らないだろう?他人には他人の、自分には自分にあった戦い方があるはずだ。」
その言葉を聞いて私の中で2つの感情がせめぎあった。
明確な言葉では言い表せないけれど、なんとなく、そうなんとなくだけどクレアさんのいうことが正しいと思う私と、わかる人にさっさと聞いた方が効率的だという私だ。
そんな私の葛藤を読み取ったのか、クレアさんが続けた。
「人に教えをこうのは大事なことだ。けれど自分で気づくことも大事だと私は思う。君はまだ若いんだし、あきらめなければなんとでもなる。時間はかかっても自分で自分にあったスタイルを手に入れるほうが大事じゃないか?」
「…けれど私は少しでも早く…。」
私の口から意志に反して出たのは私の本音…焦りだった。
「なぜそんなに焦っている?」
クレアさんが不思議そうに首をかしげる。
「わ、私は…早く役に立つようになりたいんです。ミアのように!ララのように!」
「ミアとララ?…その子達が君よりどれだけ優れていて、どれだけ役に立つのかはわからないけど、これだけは言える。人の言うことばかり聞いて、自分の考えや自分のスタイルをもたないような人は一人になった時、とても弱い。そして取り返しのつかない失敗をしても自分ではなく誰かを責めるような卑怯者になってしまう。気づいた時には手遅れだ。」
その言葉には妙な説得力があった。
クレアさんが私から目を離さず、じっと見つめてくるからだろうか?
「昔、私もただただ理想を追い続けて自分の実力や向き不向きを把握せずに人のまねばかりして失敗した。自分の能力を正確に把握して、その時できることをよく考えていればと…今は後悔している。」
目を閉じるクレアさんに私は何も言えなかった。
だけど、今私が返す言葉はきっと慰めの言葉じゃない。
「わかりました。自分で考えてみます。」
「そうか。よかった。どうしてもわからなければ上位者に相談すればいい。ここには私よりもずっと剣がうまい人達がいる。自分にどんな戦い方があうのか、行き詰ったときに、その人たちの経験からアドバイスしてもらって少しだけ背中を押してもらうのは悪くないと思う。」
「わかりました…。あの、クレアさん。」
「ん?」
「クレアさんは自主練とかもしているのですか?」
「んー。休日はこうやって毎日の日課をするぐらいだけど、半日の時はここで訓練しているな。」
「半日のとき…それ、私も一緒にやっていいですか?ここに来ればいいんですよね?」
「ああ、かまわないぞ。えっと…レアだったっけ?よろしく。」
「はい!よろしくお願いいします。」
なぜ自分がこんなことを言ったのかはわからない。
正直、今でもクレアさんに何か学ぶよりは、他の人に学ぶ方が効率的だと思っている。
けれど、クレアさんが言ったこともなんとなく理解できる。
うまく言葉にはできないけど、クレアさんとの時間は私にいろんなことを気づかせてくれる必要な時間になるんじゃないかと、そんな予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます