第73話 リントヘイム 攻略戦

 イヤリングから聞こえるランドルフの指揮を聞きながら、戦場の先頭に躍り出る。

 後ろからは近衛隊が付いてくる気配。


 そこで魔法を発動する。


「我、古の契約に基づき、汝が加護を我が友へ。風の福音(ふくいん)」


 風の加護を全軍に行き渡らせる。

 続いて自分に向けて詠唱する。


「風よ、旋風がごとき加護を我に。旋駆」


 加えて声の拡張魔法を唱えながら前に進む。


「第四師団の勇士達、我らが民の眠るリントヘイムは目前だ!目の前にいるのは使者すら殺す敵!容赦はいらない!さぁ、先陣の役は引き受けよう、ただ後ろに続き、勝利を勝ち取れ!」


 言い終わると、走り出す。


「うわっ!また走り出した!」


「ちょ!はえぇ!」


 後ろから聞こえる抗議の声を無視しながら、魔法を発動する。


「我、古の契約に基づき、我に向かいし災いをはらわん。風斥」


 これで火の玉は無効化できるはずだ。

 かなり魔力を消費したが、これで死傷者を減らせるなら問題ない。


 城壁と門が近づく、城壁の上から火の魔法が打たれる気配がしたが、風斥にかき消される。

 城壁の上が騒がしくなり、矢が放たれるが、それも届かず力を失って地面に落ちていく。


 念のために、自分を更に強化する。


「我、古の契約に基づき、汝が衣を使役する、纏え、風毛」


 使者が死んだ場所を通過するが、何も起こらず、空いている門から中に入れた。

 門を抜けてすぐ、20名ほどの鎧を付け、槍を持った集団に対峙した。


 ・・・トカゲ?

 明らかに人族でないことはわかるが、その顔には知性が感じられ、なによりきちんと隊列を組んでいることから、魔族というやつなんだろう。


 こちらを見て槍を構えたので、敵と判断して魔法を放つ。


「風よ、その刃をもって、我が敵に災厄を。鼬風」


 見えない刃に、隊長らしきトカゲ兵士が何かを叫び、全員が一斉に盾を構えた。

 鼬風が到達するも、盾でほとんど防がれる。


 すごいな。オークとは違う。

 足を止めていないので、どんどん距離が近づく。


「風よ、我が意に沿って穿て!ウインドレイ」


 無数の風の矢が放たれ、今度は盾を貫通して敵を射殺した。

 半数ほどが生き残り、その中の1人が、負傷したまま相手は盾を捨てて、槍で突進してくる。


 更に魔法をと思った矢先に、後ろから衝撃を受けた。

 バランスを崩したところに槍が迫る。


 だが、槍は風に阻まれ、砕け散り、突進してきたトカゲ兵士もあらぬ方向へ吹き飛ばされた。


 風毛を唱えていないと危なかった・・・。


 後ろを振り返えると、城壁から多くのトカゲ兵士が降りてくるのが見える。

 たぶん、槍を投げたんだろう。

 いいタイミングだった。

 ちょうど、後ろからクインやミア達、足の速い近衛が門を通過するのが見えたので、無詠唱でその上にいるトカゲ兵士にむかってウインドレイを発動する。

 無数の敵が矢に貫かれ、崩れ落ちるのが見えた。


 第一射は運悪くあたったものがほとんど倒れ、第二射は影に隠れるなどして避けられたのが半数。

 本当に反応が速い。

 兵士の練度がかなり高い・・・というか、種族差だろうか?


 クインとミアが俺の後ろにいた生き残りのトカゲ兵に斬りかかっていく。

 更に後ろから合流したユリウス、リザが左右で俺の護衛をした。


「また先走って!危険ですからやめてください!」


「下がりましょう。」


 そういう二人だが、もう門から突っ込んでくる一番隊が見える。

 今更門からでるのは無理じゃないだろうか。


「や、やっと追いついた。」


 荒い息をつき、他の近衛隊も追いついてきた。

 ライラやララは特に息を切らしていてすでに戦えそうにない。


 ・・・戦えなくなるほど走らなくていいのに。

 そうおもったけど、それは口にしない。

 きっと反感をかうからだ。


 一番隊が大きな道を使って街を駆けていく、遅れて入ってきた二番隊は細めの路地を中心に見て回っていった。

 各所で怒声や、刃を合わせる音が聞こえる。


 警邏隊が門からはいり、ランドルフが合流してきた。

 あいかわらず、無表情だ。


「この周辺の制圧は完了、一番隊、二番隊が制圧を続けております。報告を聞く限り、少数に思えますね。ただ問題が1つ・・・。」


「なんだ?」


「人族とは異なりますので、勝利条件がわかりません。殲滅は間違いない勝利条件でしょうが、敵本部の掃討、大将の打ち取りなどで勝負がつくか不明です。」


「大将ってどこにいるもんなんだ?」


「セオリーでは・・・敵が守っている場所ですね。ただ、この広い町に少数の敵兵しか確認できませんでしたので、どこかに本陣があるか、そもそも少数精鋭でここを陣取っているのではなく、中継地点として使っていただけかもしれません。いや・・・もしかすると彼らが来たためにオークが北上してきた可能性も・・・。」


「こいつらがオークを追い出したと?」


「可能性にすぎませんが・・・。にしても、この周辺が一番激しかったようですね。残りは本当に追撃戦のようになっているようです。何人か捕まえて捕虜としたいところですね。」


「・・・意思疎通できるんだろうか。」


 俺の疑問にランドルフも無言になった。


「できるよ。私みたいに普通に話せるはずだ。」


 疑問に答えてくれたのはナットだ。

 いつのまに来たのだろう。確か怪我人の・・・そうか、警邏隊と一緒に行動していたのか。

 ていうか、なぜ腰に酒瓶をぶら下げている・・・。


「リザードマン、人族風にいうと、竜神族だ。高い知性をもってるし、安直な例をあげると王に使える騎士って感じだというとわかりやすいか?」


 そういうとクイっと腰につけていた酒を直に飲む。

 最初の頃はその仕草に眉をひそめていた周りの者も、今では気にしない。

 ナットはそういうものだと諦めている。


「ということは尚更、捕虜がいりますね。」


 そういうとランドルフはイヤリングを使い、カシムとガレスに指示を出したようだ。

 なんだかんだで、一番こいつがイヤリングを気に入ってる気がする。


「うわっ!」


「ぐえぇ!」


 城壁の上から声が聞こえ、そちらを見ると、大きな・・・竜?に警邏隊が食いつかれているところだった。

 城壁の上を制圧にいった警邏隊だろう。


「竜!?」


「んーあれは・・・下級の火竜だな。」


 驚く周りに、ナットが解説を入れる。

 火竜と呼ばれた竜に羽はなく、どちらというと足がでかい、大きさは・・・3メートルほどだろうか。

 なぜ気づかなかったと言いたいが、今はそれどころではない。

 城壁から放たれていたのは火の魔法ではく、あれの火弾だったらしい。


 火竜の後ろから何人かのリザードマンが顔を出す。


「敵将とお見受けする!その首、もらいうける!我が名はトッカス!魔軍、アウレリア・ラウ・ローレンス様が将!」


 周りより少しだけ豪華な鎧を着たリザードマンがランドルフの方を槍で指しながら口上を述べた。


「・・・なにか答えてやったほうがいいんじゃないのか?」


「・・・私を大将と勘違いしたようですな。しかし、あれを倒せば勝ちになりそうです。出てきてもらえてたすかりました。この広い街を捜索しなくて済みそうです。」


 そういうと、ランドルフはわざとらしく俺に頭を垂れた。

 そして、その動きでトッカスは自分の勘違いに気づいたようで、槍の先を俺のほうに向ける。


「汝が大将か!?先陣を切る勇姿、見事なり、名乗られい!」


 ・・・ランドルフめ。


「アレイフ・シンサ、シュイン皇国、国軍第四師団長だ。」


「これは・・・大物!相手にとって不足なし!いざっ!」


 そういうと、トッカスは周りのリザードマンにも号令をかけた。

 火竜とリザードマンの特攻がはじまる。


 わずかな警備兵と近衛隊しかいない状況。だが数から見てもあちらは10人程度。


「ランドルフ、警邏隊を下げろ。近衛隊は前に出るぞ。竜には俺が行く。」


 警邏隊が切られ、竜に焼かれ、潰されながらも後退する。


「近衛隊、3人ひと組で行動!ナットはランドルフの護衛を!」


 ライラの指示で近衛隊が戦いに加わっていった。

 後退する警邏隊と逆に火竜に向かって進んでいく。


 火竜は逃げる警邏隊と向かってくる俺をまとめて焼き殺そうとおもったのか、火を噴いた。

 すでに自分への補助魔法はすべてきれていたため、無詠唱で風の壁を張る風壁の魔法で完全に炎を遮断する。


 旋駆を唱え直し、一気に距離を詰めると、尻尾でこちらをなぎ払おうとしてきた。

 なんとか避けると今度は噛み付こうとしてくる。

 でかい牙だ、これに食いつかれたらひとたまりもなさそうに思う。

 なんとか猛攻を避け、少し距離をとり、鼬風を放つ。

 一瞬ひるんだようにも見えたが、身体が傷ついたようには見えない。

 少しぐらいウロコはかけているかもしれないが、ぱっと見は無傷に見える。

 火竜は俺を警戒しているのか、こちらを睨みながらも口から火が漏れさせている。

 次はまた火弾を繰り出すつもりなのだろうか。


 予想通り、火弾が放たれた瞬間、再び風壁で火を防ぎながら火竜との距離を一気に詰める。

 竜のウロコは魔法や物理に強い耐性があるときいており、先ほど魔法を完全に防がれたところだったので、今度は自分の魔法の中でも最大の威力がある魔法を火竜の首に向けて放った。


「風爪!」


 少しでも傷が付けばいいとおもっていたが、予想外に、竜は動きをとめ、そして首がゴロんと地面に落下する。身体もズシンと横に倒れた。


 ・・・聞いていた噂とは随分違うらしい。だが、助かった。これで無傷だとこちらは打つ手がなくなる。


 後退していた警邏隊から大きな勝鬨があがった瞬間だった。

 なんとなく、後ろを振り返ると、そこには、槍を大きく振りかぶり、必殺の一撃と言える突きをはなとうとするトッカスというリザードマンの姿があった。

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