第53話 緊急面接

 急遽始まった緊急面接。

 結果はだいたい予想通りだった。



 ・元国軍兵士の場合


「元々第四師団だったんですね。」


「はい、第四師団の4番隊に所属していました。」


「4番隊というと?」


「えっと、弓兵です。」


「今の希望は?」


「今のところ弓兵の部隊はないとのことですので警邏隊を希望です。」


「何か質問はありますか?」


「もし弓兵隊ができれば移動は可能でしょうか?」


「はい、作るときに内示するようにするので、その時希望をあげてください。」


「了解しました。」



 ・元近衛隊の場合


「えっと、元々近衛隊だったんですね。希望は?」


「はい、警邏隊を希望します。」


「質問はありますか?」


「特には、一度決まったら移動は難しいですか?」


「実力を示してくれれば難しくありません。」


「ちなみに近衛隊は?人族ではなれないのでしょうか?」


「いや、別にそういうわけではありません。実力を示してくれればこちらから声をかけます。」


「警邏隊でも可能ですか?」


「もちろんです。」



 ・元赤獅子傭兵団の場合①


「えっと、赤獅子傭兵団の方では得物は何を?」


「両手剣だ。…です。」


「希望はありますか?」


「団長と同じ部隊がいい…です。」


「ちなみに、ガレスさん以外に従うつもりはないとかいいます?」


「いや、そんなことは…。」



 ・元赤獅子傭兵団の場合②


「えっと、赤獅子傭兵団の方では得物は何を?」


「ダガーを。」


「希望はありますか?」


「特にはない。」


「馬、乗れます?」


「昔少しだけなら。」



 ・元銀鷹傭兵団の場合


「希望は?」


「…名前とか得物とか聞かないのか?」


「馬乗れます?」


「まぁ、乗れるけど。」


「はい、次の人。」


「おい!」


 だいたいこんな感じで面接は進んでいった。

 元国軍の人はほとんど警邏隊希望だった。

 ちょっと意外だったのが、元赤獅子の人達だ。50人ぐらいはガレスさんと同じところを希望したけど、他は特に希望なしだった。中には近衛を希望した人までいた。

 元銀鷹の人は…ほぼ知り合いだったのでもう馬に乗れるかどうかと、気まぐれに希望だけ聞いた。


 全員の面接が終わったところで、伸びをしていると、ガレスさんとカシムさんが歩いてくる。

 なんだろうと思っていると、どうやら面接に来たらしい。

 …呼んだ記憶はないが。


「おい、俺らの面接は?」


「こいつより先に頼みますわ。」


 2人とも何か勘違いしている。


「もう面接は終わりましたよ?」


「いや、俺たちは面接されてないが…。」


「他の奴らは希望とか聞かれたっていってたぜ?」


 どうやら希望は聞いて欲しいそうだ。


「じゃあガレスさん、希望は?」


「1番隊か2番隊だなっ!ほんとは1番がいいけどよ。馬に乗れねぇから2番でいいや。」


 そこにカシムさんが割り込んできた。


「まってくれ、俺も2番隊希望だっ!でもこいつと一緒は気に食わねぇ…。」


「んだと!?」


 喧嘩が始まりそうなので、無理矢理止めて切り上げた。


「じゃあ、そういうことで、明日以降に連絡しますね。なるべく早くしますが、それまでは今日みたいな基礎体力作りお願いします。」


「おう。」


「なんか適当すぎねぇか?…まぁわかった。」


 一息ついて、今回書記をしてくれた警邏隊の人に確認する。


「希望者で言うとだいたいどれぐらいの割り振りになった?」


「1番隊が5人、2番隊が58人、警邏隊が57人、近衛15人、希望なし73名ですね。」


「あれ?数合わなくないか?」


「それは…元銀鷹の方が…。」


「そうか、希望聞いてないもんな。」


「誰がどれを希望したかも書いたな?」


「はい。」


「ありがとう。あとはこっちで持ち帰るから、その資料をもらえるか?」


「どうぞ。」


 資料を受け取る。

 うまい具合に分散したから、意外と綺麗に分けられそうだ。


 面談のとき、ずっと隣にいたララに少し意見を聞く。

 近衛隊長のことについてだ。


「ララ、面談前にもいったけど、近衛隊長できそうな人いたか?」


「…銀鷹なら何人かいるの。けど他はさすがにわからないの。」


「やっぱりそうか。」


「銀鷹の誰かじゃだめなの?」


「いや、なるべく公平に選びたいなって。」


「でも、近衛はアレイフが信頼する人っていうのが前提なの。」


「それもそうか…。」


「参考までにその人たちの名前教えてくれるか?」


「わかったの。」


 ララから何人かの名前を聞く。

 正直、予想通りというか、何人かは俺の考えと合っていた。

 もう少し、よく考えてみたいが、なるべく早いほうがいい。

 今晩を目処に考えてみよう。

 ウキエさんが復活するのは明日だろうから、部隊の件もさっさと片付けてしまおう。




 翌日、復活したウキエさんが「いい知らせがあります!」と笑顔で応募兵に元傭兵団がいて即戦力だ!すぐ面接を!と意気揚々と登場したので、「もう終わりましたよ。」と出鼻を挫いて、割り振りの仕事を渡す。


 すでに面接が終わっているということは配属を決めるということで、となると部隊としてのバランスなどを考えて、いろいろとまた割り振りなどをする必要がでてくるわけで…。

 また徹夜の可能性が見えてきたことに気づいたウキエさんは一気に顔を暗くしていた。


「で、こういう割り振りでどうかと思ってるんですが、どう思います?」


 そこへすでに終えた割り振り結果を見せてみる。

 徹夜の可能性が遠のいて明るい顔になったウキエさんが内容を確認していく。


「だいたい希望通りに割り振ったんだけど、希望なしが多かったから助かった。突っぱねたのは近衛希望ぐらいかな。」


「それは仕方ないと思いますよ。近衛は慎重に選んでもらわないと…んー悪くはないのですが…。」


「問題あります?」


「いえ、軍としては理想的です。即戦力ですし。ただ…。」


「ただ?」


「元傭兵ばかりだと印象はあまり良くないかなと。」


「それはどうにもならないんじゃ?」


「まぁそうですね。しばらくは素行に目を光らすしかなさそうですね。」


「じゃあこれで発表してしまいましょう。早い方がいいですよね?」


「そうですね。あとは私がやっておきます。」


 そういうと、資料をウキエさんが受け取る。


「ところで、提案があるのですが。」


「ん?」


 ウキエさんが何か思い付いたらしい。


「傭兵団の方々って、元々得意な武器がありますよね?」


「そうですね。」


「それをそのまま使ってもらうのはダメですかね?」


「それはどういう?」


「国から支給できるのは鎧と剣、槍、弓なんですよ。ダガーとか双剣は無理です。」


「だから自前にしてもらおうと?それは…不公平になるんじゃ?」


「そこでなんですが、希望者は鎧と剣、槍、弓のいずれかを。ただ自前も可としてしまいませんか?」


「それは…国軍的には大丈夫なんです?」


 ウキエさんの案を採用すると、第四師団は統一制がなくなる気がする。普通、国軍は師団ごとに揃ったデザインの鎧を装着しているはずだ。


「いや、使い慣れない武器を持たせて戦力ダウンしても馬鹿らしいですし、何より設備費が浮きますよ?」


 たぶん、ウキエさんの狙いは後者だ。


「その代わり、第四師団の証を何かつくって携帯させましょう。例えば腕輪とかマントとか、部隊ごとに少し変えるのもいいですねっ!」


 なぜかウキエさんがノリノリだ…。休んだ後なのでおかしなテンションになっているわけじゃなさそうだし、久々に楽しそうなので、任せよう。


「わかりました。では任せます。」


「とりあえず、任命が終わってから決めていきましょう。あと、国王に許可とってくださいね?」


「え、許可が?」


「臨時徴兵といっても国軍ですからね。武器を自前なんていう前例はないですし。たぶん大丈夫とは思いますが。」


「…わかりました。今日、用があるからついでに聞いてみます。」


「あれ?今日何かありましたか?」


 俺の予定を知らなかったウキエさんが首を傾げる。


「いや、この前言ってたヘイミング卿に作法を教わる話。」


「あぁ、あれですか?わざわざ王城でするのですか?」


「いや、ちょうどマイン王子もそろそろ習う時期だったらしくて、なぜか一緒にという話に…。」


「王子とですか!?すごいですね…。」


「あぁ…正直驚いますけど、さすがに断れないし。」


「ですね。昼からですか?」


「昼過ぎと言われているので早めに出ます。なので午後からはいないので…。」


「分かりました。帰りは未定…まぁ夜でしょうね。書類は執務室に置いておきます。」


 暗に帰ってから仕事しろよ?と言ってくる。

 まぁそれぐらいは仕方ない。

 少しでも早く第四師団としての体制を整える必要があるのはわかっている。


「そういえば使用人と文官の採用は?」


「もう少しですね。文官はあと少しです。きちんと体制が組めたら紹介しますね。その前にあってもらう人もいるかもしれませんが…。使用人の方はもう集まりました。募集をかけたらすぐでしたよ。しかも経験者が豊富です。」


「それはよかった。武官の方も人数はまだ不足していますが、ある程度は形になりそうだし、文官ももうすぐですね。」


「はい、もうすぐ第四師団としての体裁が整います。第三師団長様にも引き継ぎの準備をお願いしないといけませんね。」


「わかりました。それも打診しておきます。」


 執務室を出て、王城に向かう準備をする。

 もう少しで第四師団としての体裁が整う。


 だが、少し不安もある。

 おそらく、これからだんだんと政治的な話にも巻き込まれることになりそうだ。

 今は国王とヘイミング卿にある程度保護されているような状態だが、それを脱した後、きちんとやりくりができるかどうか、まだまだ不安がつきまとう。


 また、園にでも顔を出そうかと、少し弱音をぼやいてしまった自分に苦笑した。

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