里帰り
<Ireaze>
アレイフが帰ってきた日。
もしかしたら数日後に死ぬかもしれない儀式を受けると知った。
やめてほしかったけど、もう後戻りは出来ないときいて、どうしようもなく、ただ帰ってくると信じた。それから毎日教会にお祈りに行くのが私の日課になった。
園の経営は順調で、園長とローラ姉さんがいれば問題ない。
以前より多くの孤児を受け入れられるようにまでなってきている。
となると私はもう卒業しないといけない。私が卒業すればまた少しでも多くの孤児を受け入れられる。
本来ならもうとっくに卒業しているはずだったけど、園の状況を見て、園長の代わりにローラ姉さんと園の経営の仕事をしていた。
でもそれも必要なくなったとなれば私も自分の身の振り方を考えないといけない。
自分が将来どうなりたいか。
あまり考えたことはなかったけれど、ローラ姉さんの勧めもあって、王立学園の入試を受けてみた。
王立学園は平民から貴族の子弟まで能力さえあれば幅広く入学できる学園だ。
中には将来、騎士になるものから商人になるものもいる。
ローラ姉さんもそうだったらしいけど、とりあえず入学してみて自分の目指すものを探す人もいるらしい。
完全寮制で入学金から授業料も格安。
入学金以外は奨学金といって後払い制度まである。
しかも優秀な人材なら各所からスカウトまでくるという、いいことだらけの学園だ。
入試資格は幅広く、年齢などは関係ないものの、もちろん試験はとても難しい。
普通の専門に何かを教える学校と違い、幅広い知識などが必要となる上に魔法や剣術なんかの一芸まで試験に含まれる。
一般的に難関とされる王立学園の入試だけど、うちの園からは毎年何人かの合格者がでている。
意外とうちの園の教育レベルは高いのかもしれない。というか魔法を教えているのが大きい気がする。
そしてすでに試験を受けた私も、もし受かっていたら何日か後には寮生活を始めることになる。
落ちていたら身の振り方をその時考えようと思っていた。
それからは教会に幼馴染みの無事と、ついでに受験のことをお祈りしながら過ごし、発表の日を迎えた。
お祈りした効果か、園の教育の賜物か。私の受験結果は見事合格だった。
そして結果を見に行った帰り道。私は偶然国王の演説を聞く。
ずっと後ろのほうで姿は見えなかったけど、声は聞こえた。
そこでアレイフが第四師団長に任命されたのを知った。私の願いは両方叶っていたんだ。
アレイフが無事に帰ってくる。
私は無事だったアレイフのことをすぐに知らせたくって急いで園に帰った。
ローラ姉さんや園長も喜んでいたし、私はアレイフがすぐに帰ってくるんだと、どんな料理でお祝いしてあげようかと考えながら喜んでいた。
だが園長やローラ姉さんは違ったらしい。
「貴族様になったのよね?一度は会いに来て欲しいけど、普通に話して大丈夫なのかしら?」
「ここを卒業していった子の中で貴族様になったのはアレイフが初めてだ!これは貴族様との話し方も調べないといけないな。」
そう、私は忘れていた。
この帝国で貴族は国から認められた者。平民の私達から見れば雲の上の存在だ。基本的に平民は普通に声をかけることも許されない。話し方にも最上位の敬意をもって接するのが習わしだ。
ある意味、一度園に来た王女様より爵位持ちの貴族には気を遣う。
王女様は国王様の御子息様だけど、無位無冠。
血筋は高貴なものであるものの、権威は一部貴族の方が持っている。
この帝国の首都であるこの都市ではあまり聞かないが、地方では不敬罪という罪すらあるらしい。
例えば、その地を統治する貴族が乗る馬車に身を投げ出し、直訴する。直訴した内容ではなく、行動が不敬罪に当たり、罪に落とされることがあったとか。
あくまで噂だけど。そういう話を聞いたこともある。
アレイフは伯爵になったらしい。
間違いなく貴族だ。
違いはあまりわからないけど、確か男爵、子爵、伯爵、候爵、公爵だったはずだ。
いきなり真ん中の貴族になっている。そして、私の記憶が確かならば、上の爵位ほど人数が少ないはずだ。
今度会うときは私も昔みたいに気軽に話せないのかもしれない。
それ以前に、話す機会はあるんだろうか?
すぐに帰ってくると思っていた私の予想は外れて、それから何日かたったけど、会いに来る気配はない。
忙しいのか、それとも卒業したからもう園には顔を出さないつもりなのか。…それだとちょっと寂しい。
アレイフは偉くなっても普通に接してくれるような気がしていたから。
そして、あと数日で私も園を卒業するというある日、私はもうすぐ始まる寮生活の説明を受けて、園に帰宅した。
「あ、おかえりー。」
するとそこには、小さな子供を背中に乗せてお馬さんごっこをしているアレイフがいた。
一瞬、見間違いかとおもったけど、そうじゃなさそうだ…。
服装も昔みたいに普通の格好をしているし、入口に馬車もなかった。
「…た、ただいま…。」
「聞いたよ。王立学園に受かったんだって?すごいな。で、何目指すの?」
子供を背中から下ろし、足に群がる子供達を撫でながらアレイフが笑顔を向けている。
「えっと、それは…まだ。」
「レーゼならきっとなんでも目指せるよね。要領いいし。」
私のことをレーゼと呼ぶ。
そのことに目の前にいるのが本物のアレイフだと再認識する。
私は持っていた鞄を捨てて、アレイフに抱きついていた。
「おかえりなさい!」
いきなり抱きつかれて驚いているアレイフはそれでも私の背中を撫でながら、「ただいま。」と言ってくれた。
久々に食事をみんなでとる。
園長やローラ姉さんも笑顔だ。
アレイフは昼にふらっと現れて、園長やローラネエサンとは先にいろいろと話していたらしい。
…私は朝からいなかったので仕方ないけど、ちょっとずるい。
「今どこに住んでるの?おっきいお屋敷とか?」
「いや…今は第四師団の兵舎で寝泊まりしてるよ。屋敷とかもってないし、本当は執務用のとこらしいんだけど、生活するには問題ないし、いいかなって。」
「そうなの…大きいお屋敷なのかとおもった。」
「まぁ…貴族っていってもぱっと出だし、そもそも自分ひとりだけなのに屋敷っていらなくない?」
「それもそうか。で、やっぱり優雅な生活を満喫中?」
「優雅ってなんだよ。普通だよ。別に特別美味しいものが食べられるわけでもないって。」
「そうなの?」
「うん、兵士と同じ食事だから、味より栄養重視だしね。園長の料理のほうが格段に美味しい。」
こんな普通の会話を楽しむ。
やっぱり貴族になってもアレイフはアレイフのままだった。
食事が終わって、しばらくし、帰る前にアレイフと少し2人になる時間があった。
「いろいろとごめんね。園長にも、ローラ姉さんにも、レーゼにも心配をかけて。」
「大丈夫よ。」
「2年もほったらかしにしてしまったから、ここからは俺が園を見るよ。だからレーゼも学園で頑張れ!」
アレイフは約束を忘れていない。
旅に出た幼馴染との約束を。
それがとても嬉しく。
そして肩の荷が少し軽くなった気がした。
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