第29話 仮面の噂
「おう、そっちはどうだった?」
明るい口調で話しかけたのはサイ。
持っていた槍を自分の隣に置く。
「特に何も。」
言葉少なく答えたのはレイ、剣を腰につけたまま座っている。
「どこがだよ!めっちゃ殺ってたよね?僕も人のこといえないけど、レイほど容赦なくないよ?」
レイに突っ込んだのはフワフワ浮く、アフという顔立ちはまだ幼い少年。
「そうなのか?こっちは本気でなんもなかったぞ?ただ注目されながら街を練り歩いただけだ。な?」
「ああ、だが平和が一番だ。」
サイに振られて話に参加したのは、マウ、持っていた斧を壁に立てかけていた。
ここは王城の一室。
4人は椅子に座り、雑談しながら上司の登場を待っていた。
ガチャっと扉が空き、男が入ってくる。
彼こそ、4人の直属の上司、第四師団所属で、現在はすっかり文官、王室特別対応の任についている、ウキエ・サワだった。
「まずはお疲れ様。」
そういうとウキエは4人の顔を見る。
今は仮面が机の上に置かれており、全員の素顔が見えている。
眠そうなもの、無表情なもの、ニコニコしているものといろいろだ。
ウキエはこの2年間、使い慣れた部屋で4人に言葉をかける。
「さて、報告は…いいです。付いていった文官達にもう受けています。まったく、派手にやったものですね…。」
そういって、ウキエは少し疲れた顔でアフとレイの方を見る。
「派手って…そんなにか?」
「応援が必要だったか?」
ウキエの言葉にサイとマウもアフとレイの方を見た。
「言われた通りの仕事をしただけです。」
「まぁ確かにねぇ…ていうか、第四師団酷すぎじゃない?チンピラ以下だよ。あと、サイがいたら倍は死体が増えてたと言い切れるね。僕やレイより手が早いし。」
答えるレイにアフが同調する。
「それは…否定できません。報告は聞きました…私もまさかこれほどとは。引き締め以前に粛清が必要だと思い直しましたよ。」
「そんなにひでぇの?街中の悪人よりそっちのが酷そうだな。」
「これからも巡回は続けるんだろ?儀式までに何人生き残れることか。」
「笑えません…ただ、噂が広まればうまく隠れようとするでしょうから、これからは巡回方法も考えないといけません。」
「基本法に触れるやつを狩るんだろ?証人の文官で、隠密行動できるやついねーの?」
「サイ、いたら文官なんてしてないって。」
「アフの言うとおりですね。」
ウキエが苦笑する。
だが、実際に貴族の関係者も処罰してしまっている以上、処理していけばいくほど揉めるのは間違いない。
不正や犯罪の証拠はきちんと抑えているが、それでも貴族達の突き上げは必死。
国王がどこまでいなせるか。
ウキエも国王の心中を察する。
「で、明日の予定は?」
暗くなりかけた雰囲気に、マウが話を変えた。
「明日は…第四師団本部の視察と、要人警護ですね。組み合わせはサイとレイに視察…いや、マウとレイに視察をお願いしましょう。要人警護のほうはサイとアフに任せます。そのほうが安全ですし。」
「…安全って?実力ならどんな組み合わせでも問題ないはずですが。」
「それとも俺とレイが組むのに何か問題があるってのか?」
疑問を返すレイとサイ。
2人の視線がウキエに向く。
「実力は全く問題視していませんよ?…わかりませんか?」
ウキエが全員を見回した。
「いや、わかるよねぇ…。」
「…うむ。当然の配慮だ。」
マウとアフの2人は事情がわかったかのようにうなずいた。
だがそれに対して、
「なぁ…わかるか?」
「いや…。心当たりがない。」
サイとレイは顔を見合わせながら首を傾げている。
「はぁ…レイ、あなたは容赦が無さすぎる。サイ、あなたもです。サイはそれに加えて手も早すぎます。」
ウキエがため息混じりに指摘すると、二人は気まずそうな顔をした。
「犯罪者…じゃないか。」
「そうだそうだ。」
「犯罪者だからといって皆殺しでは法は成り立ちません。更生のチャンスを与えるか判断する裁判ぐらい受けさせてあげてください。」
だが、ウキエの正論に、二人は小さくなりながら、わかった。と答えた。
「大変だねぇ、ウキエさんも。」
「そうですね。アフ、あなたも言葉遣いは気を付けなさいよ?私に対してならともかく、国王にあれはない。」
「うげっ!覚えてた…。」
失敗したとリアクションをとるアフをみながら自然と皆が笑顔になった。
「ねぇ、ミアは知ってる?仮面のヒーロー。」
「悪者をズバッとやっつけるんだってー。」
「ズバーって!」
小さな子供達が集まって話している。
「仮面のヒーロー?」
子供達の真ん中でミアが首を傾げた。
「それって、国王様が紹介した仮面の4人組?」
「国王様~。」
「仮面~。」
一緒に遊んでいたローラの言葉に子供達が追従する。
「それってこの前話題ににゃってたやつ?」
「あ~それ、傭兵団うちでも話題になってたの。」
ミアの横にいたララも話に入る。
「2人は実際に見たの?話題になってるって。」
「見たことはないの。」
「あちしも。けど、確か誰かが見たっていってなかったかにゃ?」
ミアが首を傾げる。
あわせて、横に居る子供達も同じように首を傾げている。
「確か、カシムさんが見に行ったっていってたような。」
ローラが人差し指を顎にあてて、思い出すような仕草をとる。
「ローラ姉が知ってるってことは、あいかわらず団長はここに通ってるのかにゃ?」
「あいつ、仕事してないの。」
自分たちの代表を蔑む傭兵団員2人、ローラも苦笑を浮かべている。
「そういえば、最近は3日に1回ぐらいに減ってるかも。」
そこにオヤツを持ってイレーゼが登場した。
子供達が一気にイレーゼの方へ駆け出す。
「それは、いい加減にしろって怒られたからなの。」
「怒られたって誰に?」
代表者を叱る人なんているんだろうかとローラが首を傾げる。
「副団長みんな怒ってたにゃ。」
「さすがにサボりすぎなの。」
実際、数ヶ月前に地域代表者との会合、国軍との調整、ダンジョンとよばれる縦穴の探索など代表者である団長が行う業務を交代で押し付けられていた副団長達から抗議の声が上がり、団長は仕事を優先的に行うよう約束させられている。
その顛末を軽く聞いているミアとララは呆れたような声を出した。
「そういう貴方達も、3日に1日ぐらいは来てない?」
ローラが笑顔をミアとララに向ける。
「そういえばそうかにゃ。」
「私はミアの監督なの。」
「監督なんて必要にゃいにゃ。ということはララは明日からこにゃいのか?」
「ひ、必要なの。」
「もうララよりずっと大人にゃ?ほら見てみるにゃ!」
そういうとミアがセクシーなポーズ?を決める。
確かにララと比べると人族の15歳ぐらいと同じ見た目で、最近は胸も大きくなった。
それとは対照的に、2年前と見た目が全く変わらないララが声を荒げる。
「み、見た目だけで中身は子供のままなの!」
「はーん、負け惜しみにゃ。」
言い合いを始める2人。
確かにミアは見た目だけで、中身は出会った頃と対して変わっていない気がすると思いながらも、声にはださず、お菓子を配り終わったイレーゼが近づく。
実際、16歳のイレーゼとミアは同年代ぐらいに見える。
「私達は小さい子の相手してくれるから助かるけど、相変わらず連絡なんてないわよ?」
「そうねぇ…もうすぐ丸2年になるわね。長いのか短いのか。」
イレーゼが同調したローラの隣に座る。
「立派な国軍の兵士になってくるのかな?」
「どうだろう。あの子なら大丈夫だと思うけど。」
「大丈夫にゃ!兵士ににゃれなかったらまた傭兵になればいいにゃ!」
「ていうか、受からないわけないの。」
いつのまにかミアとララが意見を合わせる。
「お届けものです。」
その時、玄関から大きな声が届き、イレーゼが対応に向かう。
ミアとララは聞き覚えのある声に顔を見合わせた。
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