猫娘の朝
あたしの朝は早い。
いっつも日が昇る前に目が覚める。
その分眠くなるのが早いけど、それは仕方ない。
だって眠くなるんだもの。
隣で眠るララの寝顔を見て、起こさないようにそっとベットから飛び降りる。
ちゃちゃっと身支度を整えて、1階に降りた。
うっわぁ…酒臭い。
床に何人か寝てる奴が居る。
うちの傭兵団が使ってるこの酒場は大繁盛だ。
あたしは飲まないけど、たいていどっかの隊の奴らが朝まで飲んでる。
ほとんど専属酒場になりつつある。
宿屋と酒場のご主人は同じ人で、もう長い付き合いだし、私にもとっても良くしてくれる。
名前は知らないけど、みんなマスターって呼んでる。
今だってほら、朝からいっつも早起きのあたしのために、ご飯を作ってくれてる。
本当にいい人だ。
マスターの作ったご飯を受け取って、あたしは席を探す。
なるべく酒臭くない席を…。
結局いつもカウンターで食べるんだけど、今日はカウンターにもうっぷしてるやつがいる。
ナットとチルだ。
というか、ナットは毎朝いる気がするけど、一体いつ仕事してるんだろう…。あれで傭兵団長の中じゃ稼ぎがかなりいいほうだから不思議。
ちょっと酒臭いけど、あっちよりましなので、カウンターの端っこに陣取る。
鼻が効くとこういう時、不便。
今日はお魚メインの朝ごはんだ。
とっても美味しそう。
あたしがご飯を食べていると、ムクっとチルとナットが起き上がった。
「あれ、ミア?ごはん食べてるの?おいしそうねぇ…あれ?てことはもう朝?」
「マスターおかわりー。」
チルはともかく、ナットは起きていきなり酒のおかわりを頼みだした…。頭は大丈夫かな?
そういえば、ナットがお酒以外を飲んでいる姿をあまり見た記憶がない。
「あ~あったま痛い…飲みすぎた。マスターお水ちょーだい。」
ナットにお酒を持ってきたマスターにチルが水を頼んでる。
二日酔いってやつかな?ナットに付き合うから…。あぁ、ナットがイッキ飲みしてそのまま杯をマスターに返した。ちゃっかりおかわりも頼んでるし。
「あ、そういえばミアって例の子と仲いいんじゃなかったっけ?」
「んにゃ?」
あたしは食べる手を止めて、ナットの方を見る。
「ほらなんつったっけ?チルがいってた。」
「うーちょっとまって…。」
チルがマスターから水をもらっていっきに飲み干す。
「えっと、なんだっけ…。」
「ほら、なんつったっけ?あのちっこい子。」
誰のことかなんとなくわかった…。
たぶん少年…アレイフのことだ。
「アレイフかにゃ?」
「そう、それ!どんな感じの子?」
なんでそんなこと聞くんだろう?
あたしが首をかしげるとチルが教えてくれた。
「いや、うちの隊のやつらがね。やけにライラのとこと共同で仕事したいみたいなこというからなんでか聞いたら、そのアレイフって子?その子がライラの下にいるからだって。」
「あんたの部隊のやつらってそういう趣味なの?」
「違うって。そうじゃなくて…なんかすっごい魔法使うらしいじゃん。一緒にいると怪我しにくいってさ。ほら、私らは身体が資本だし、怪我しないに越したことないもの。」
そういえば、チルのとこの人達とも何度か一緒に依頼をこなした気がする。
アレイフが褒められるとなぜか、あたしも嬉しい。
なので、胸を張って答えた。
「アレイフは世界一の魔法使いにゃ!」
そんなあたしを見て、なぜかチルとナットが目を丸くした。
「へぇ、そんなすごいんだ。それは興味あるなぁ…。」
「ナットの魔法見たことあるミアが言うんだからよっぽどなんだろうね。」
そういえば、ナットも魔法使うんだった…ついつい忘れてただけなんだけど…まぁいいか。
それからアレイフについて、いろいろ聞かれた。
あたしがご飯を食べ終わるまでだけど。
ご飯を食べ終わったタイミングでライラがやってきた。
こんな朝早くからめずらしい。
「ミア、今日ってアレイフは来るのか?」
「んーお昼前には来るかにゃ。」
「そうか…来たら、私が呼んでたと伝えてくれるか?ちょっと急ぎでな。」
急ぎ?何だろう?
「なんかあったかにゃ?」
「いや、依頼だよ。報酬がいいから受けてほしいんだけど、それで話しをしたいんだ。」
なんだ、依頼か。
依頼ならあたしやララは大丈夫だけどアレイフの都合を聞かないといけない。
…んーいい話なら早く知りたいよね?
まだ寝てるかな?でも朝だし、迎えに行こうかな。
「なら、あちしが呼んでくるにゃ。」
あたしはぐっと伸びをすると、出口の方へ意識を向ける。
「いや、別に昼ぐらいで全然かまわな…。」
ライラが何か言ってるのが後ろの方で聞こえたけど、走るのに夢中でちゃんと聞こえなかった。
近道を使って孤児院につく。
玄関に入ろうとして、まだ早朝であることに気づいた。
一応、日は昇ってるけど、まだ起きてる人は少なそう…普段、アレイフがいつ起きてるのか知らないけど、ララと同じぐらいならまだまだ起きてこないはすだ。
もしかしてまだ寝てるんじゃないかという気がした。
…たしかライラが言ってた。あたしは早起きだから他の団員はまだ寝てる。
無理に起こすのは良くないと。
むーどうしよう。
玄関を開ければいいんだけど、確かけっこう大きな音がしたはず。小さい子もいるから迷惑かもしれない。
ん?まてよ。
用があるのは1人だけだから、アレイフだけ起こせばいい?
そうだ、他の人を起こさないなら悪くない。
アレイフには急ぎの用があるから起こしても大丈夫なはずだ。
あたしは上を見上げると、足がかりを探して、2階の屋根に上り始めた。
んーこの辺かな?
ていうか、アレイフってどこで寝てるんだろう?
さすがに匂いもしない…外だもんね。
とりあえず一番近い窓から中を覗く。
ん~あ、イレーゼとかいう子がいる。
他も小さい女の子ばかりだ。
この部屋は違うみたい。
次の窓も、その次も違う。
ちょうど半分ぐらい回ったところで、見つけた。
登ったとこから丁度反対方向だ。
さて、どうしようかな?
ていうか、窓が少し空いてる…ラッキー。
窓から部屋の中に降りる。
アレイフとあと2人が同じ部屋で寝てた。
誰も起きない。
あたしはアレイフの布団に近づくと、どうやって起こそうか考える。
布団をひっぺがそうか。
ほっぺをつねってみようか。
それともくすぐっちゃう?
あぁ…どれも面白そう。
あたしはとりあえずアレイフの隣にゴロんと転がり、どうやって起こそうか寝顔を見ながら考える。
鼻と口を摘まもうか。
あ、そうだ。前にララにやったみたいにドーンってのしかかっちゃう?
でもララはあの後怒ってたし…うーん。
どうしようかな……んー…
そこで、あたしの意識は途絶えた。
「何やってるの!!!」
次にあたしが聞いたのは大きな怒鳴り声。
尻尾が逆立つ。
あたしは自分の状況を確認する。
…寝てたみたい。
寝ぼけたのか、怒鳴り声のせいかアレイフに抱きついてた。
顔だけ声のした方に向けると、イレーゼが顔を真っ赤にして怒ってる。
なんで怒ってるんだろう?
…寝坊したの?アレイフ。
「なんであなたがここにいるの!」
あたしが怒られてるっぽい。
「んー?」
あ、アレイフが起きた。
「おはよぉー!」
とりあえず、あたしは挨拶した。
顔が近い。
「うわっ!」
行きなりアレイフがあたしを突き飛ばす。
酷いなぁ…もう。
「ミ、ミア?…え?なんで?」
「私が聞きたいわ!」
「いや、そんなこと言われても…。」
アレイフとイレーゼが喧嘩を始めた?
あたしはアクビしながら2人の様子を見る。
「いや、アクビしてる場合!?」
「ミア、なんでここにいるの?」
イレーゼは怒ってる。アレイフはよく分からないって顔だ。
えーっと、なんでここにいるんだっけ。
あ、そうだ。
「ライラが呼んでるにゃ。急ぎって。」
あたしは思い出した用事を伝える。
「あぁ…えっと、わざわざ呼びに来たの?急ぎってなんだろ。」
「細かいことはしらにゃいけど、依頼っていってたにゃ。」
「で、イレーゼがミアを入れたの?起こしてくれたらよかったのに。」
「私は入れてない。起こしにきたらそいつがアレイフに抱きついて寝てたのよ。」
「へ?」
イレーゼは機嫌悪そう。
どうしたんだろ?
「ミア、どうやって入ったの?」
アレイフが首をかしげてる。
あたしは正直に窓からはいってきたと伝えた。
「なんで窓から……。」
「えっーと、他の人を起こさないように?」
「なんで疑問系……で、なんで起こしにきたミアが寝てたの?」
この質問には、あたしも首をかしげるしかない。
なんで寝てたんだろう…。
たしか、どうやって起こそうか考えてて…。
あたしが首をかしげると、アレイフも困った顔をする。
その様子を見て、イレーゼがため息をついた。
「次からはちゃんと玄関から来なさい。」
「わかったにゃ。」
次からは玄関から入ってきていいらしい。
イレーゼの許可が出た。また起こしにきてもいいってこと?
「それで、朝ごはん食べていく?」
さっきまで怒ってたのに、ご飯を勧めてくれる。
イレーゼのそういうところは好きだ。
「食べてきたから大丈夫にゃ。」
「ずいぶん早いのね、朝。」
あたしが立ち上がると、アレイフもあくびをしながら立ち上がる。
「ミア、ライラさんそんなに急いでた?すぐ行かないとダメ?」
「んー急ぎっていってたけど、別に呼んで来いとはいわれてにゃいよ。」
「へ?ならミアはなぜこんな時間から…?」
「依頼内容、早くしりたくにゃい?」
「…そ、そうだね。準備するからちょっと待っててくれる?」
「応にゃー。」
あたしはビシっと敬礼みたいな返事をして先に1階に降りる。
と、イレーゼがいた。
「ミア、アレイフの準備ができるまで暇でしょ?あったかいミルクでも飲む?」
「いいのかにゃ?」
「もちろんよ。こっちに来て。」
あったかいミルクは、あたしの大好物だ。
何度かここでご馳走になってるけど、ただ温めたやつじゃなく、ここのミルクはとても甘くて美味しい。
何か隠し味が入ってるのかもしれない。
あたしは鼻歌を歌いながらイレーゼの後に続く。
アレイフの用意が終わったのは、あたしが2杯目のミルクを飲み終えた頃だった。
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