第13話 飴玉の悪夢 上

「最近、リュッカねぇさんの様子、おかしくねぇか?」


 首をかしげながら僕等に問いかけたのはゼフだ。

 ここは食堂。今日は久々に僕もゼフも休みなので、イレーゼを加えた3人で食堂に集まってお茶をしていた。日が傾くまでもう少し時間がある。


「おかしいってどういうこと?」


 先日の行方不明の件は誰にも話してない。

 ちょっと気にはなるけど、リュッカ姉さんも普段通りだったので、そのままだ。


「どうっていわれると...なんつーか、ぼーっとしてることが多くないか?」


「そうかなぁ?私は特に変わらないとおもうけど。」


 イレーゼも僕と一緒で特に気づいたことはないらしい。


「いや、俺の気のせいならいいんだけどよ。」


「んーわからないけど、体調良くないときだってあるし、最近仕事によく行くようになったから、たまたまじゃない?」


 そう、リュッカ姉さんは僕やゼフと違い、週に数回だけ、花屋のお婆さんの手伝いをしていたけど、最近はお婆さんの頼みもあって、ほぼ毎日手伝いにいっている。

 もともとからだが丈夫な人じゃないから、疲れがでても仕方ないとはおもうけど...。

 先日のことがあったので、僕はあまり楽観できなかった。


「アレイフもそうおもわないか?」


「んーそうだね。正直普段通りだと思ってたけど...言われてみればってぐらいかな?仕事の頻度も増えたからそのせいもあるんじゃない?」


「そっか...まぁ、そうだよな。疲れててもおかしくないよな。」


 ゼフは納得してないって顔だったけど、すぐに切り替えたのか、席を立った。


「さて、そろそろ迎えにいこうかな。」


「迎えに?」


「あぁ、リュッカねぇさんをな。」


「あんた、今日は仕事ないのにわざわざ出かけるの?仕事の日だって早い日は行ってるでしょ?ほんとにあんたはリュッカ姉さんのことが大好きね。」


 イレーゼにからかわれ、ゼフが顔を真っ赤にする。


「ち、ちげーよ。ちょっと用事もあんだよ。だからそのついでだ。」


「はいはい。気をつけてね。」


 舌打ちすると、ゼフは食堂を出て行った。


「さて、私もローラ姉さんとこにいこうかな。アレイフ手伝ってくれる?」


「わかった。」


 僕とイレーゼもローラ姉さんの部屋に行くべく、食器を片付ける。

 事態が動いたのは、それからしばらくした、夕方が終わる頃だった。





 園に走り込んできたのは血相を変えたゼフだった。

 ちょうど、年少組の相手をしていた僕とイレーゼが驚いて出迎える。


「どうしたの?そんなに急いで。」


「ね、ねぇさんは帰ってるか?」


「ねぇさんって、リュッカ姉さん?まだ帰ってないわよ。」


「そ、そうか。なら大変だ...。アレイフ、悪りぃ手伝ってくれ。」


「いいけど、どうしたの?手伝いって?」


 僕の疑問に答えず、ゼフは息を整えるため、荒い息をつく。


「ねぇさんが行方不明になった。」


「「リュッカ姉さんが?」」


 僕とイレーゼの聞き返しに、ゼフはコクリとうなづく。

 僕はそっとフィーの方を見たが、彼女はじっとして動かない。

 しばらくすると僕の方を見て、コクリとうなづいた。

 どうやらまた感知できなくなってるみたいだ。


「わかった。私は園長に!」


 イレーゼはすぐ園長に知らせに行こうとする。


「じゃあ僕はゼフともう少し心当たりを探すよ。」


 僕はゼフと共に街に戻ることを告げる。

 まだ荒い息をついているがゼフは僕の方を見てうなづく。

 そして一緒に外へ飛び出した。


 走りながらゼフに話を聞く。

 とりあえずの目的地は花屋だ。どうやら花屋で配達途中にいなくなったというか、帰ってこなかったらしい。

 昼過ぎに「ちょっと配達に。」とお婆さんに言い残したのを最後に、夕方になっても帰ってこず。

 ゼフがついた時には、お婆さんオロオロしながら近くを探してたらしい。近所の人にも手伝ってもらってけっこうな騒ぎになっているそうだ。

 とりあえずそこから周辺を探すが見つからず、手伝ってくれている人からも手がかりはない。

 まさか事故にでもあったのではと心配していたらしい。園に戻ってきたのは、事故にでもあった場合、知らせがすでにきているのではと思ったからだったそうだ。


 僕らが花屋につくと、数名の大人と兵士の姿が見えた。

 どうやら花屋のお婆さんがリュッカ姉さんを探す為に更に多くの人に声をかけてくれたらしい。

 僕等も輪の中に加わったが、誰も新たな情報はもっていなかった。

 最後に見たお婆さんに、リュッカ姉さんが向かった方向だけを聞いて、僕とゼフもその方向を探しはじめる。


(集え風よ...ウインドドック!)

 ...僕はゼフに見えないように小声でこそっと魔法を唱えた。

 風が僕の後ろから吹き抜け、方向を示す。

 僕がさりげなくゼフを誘導し、風に従って道を歩く。


 大通りを抜け、小脇の道を抜け、また次の大通りへ。


 しばらく走ると、周りには大きなお屋敷が並んでいる区画に出た。

 貴族の住む区画に入ってしまったらしい。

 風は更に先へ進めといっている。


「なぁ、こっちは貴族の区画だろ?こっちには来てねぇんじゃねぇか?」


 ゼフは不満顔だ。

 けど、間違いなくこっちに来ていることを風が教えてくれている。


「ゼフもこっちは探してないよね。それに前、リュッカ姉さんが定期的に貴族相手に花を届けているって言ってたんだ。」


 僕の言ってることは嘘じゃない。

 確かに、リュッカ姉さんは定期的に花を届けることになったと言っていた。

 それにゼフも納得したのか、黙って付いて来てくれた。


 そして、風は1つの屋敷を指し示した。

 大きな門がある。見える範囲に門番はいないようだ。

 どうやって声をかけたらいいかわからない。

 けど、風はこの中を示していた。


 ......どうしよう。


 途方にくれている僕らに後ろから声がかかった。


「ボーズじゃねぇか?こんなところで何してんだ?」


 振り向く僕等の目の前には、手に酒瓶を持ったアルスさんが立っていた。


「あれ?そっちのは...確か弟君じゃねぇか。2人は知り合いだったのか?」


 アルスさんの言葉に僕とゼフが顔を合わせる。

 お互いに知り合いか?と目で訴えあって、どうやらそのようだと納得した。


「おっさん、今急いでんだ。わりぃけど...。」


「アルスさん、すいませんが、ちょっと今取り込んでて...。」


 2人の様子に疑問を感じたのか、アルスさんは顔を引き締めて、酒瓶の蓋を閉じた。


「そうか、だがこんな時間にこんな場所でガキ2人をほっとくわけにもいかねぇ。悪いようにしねぇから訳だけでも話しな。知らねぇ仲じゃねぇし、手伝えることがあるかもしれねぇぞ。」


 僕とゼフは一瞬だけ目を合わせた。

 ―――探す人数は多いにこしたことない。

 ―――この人は信用できる。

 そして、僕らはアルスさんに事情を説明した。


「あのねぇちゃんがねぇ...そりゃー大事だ。」


 事情を説明されたアルスさんは酒瓶を荷物に直し、考える仕草をとる。


「おっさん、わりぃけど探すの手伝ってくれねぇか?」


 ゼフを見てから僕に視線を向けたアルスさんは首を傾げた。


「アレイフなら風の魔法で簡単に追えるんじゃねぇのか?都合のいい魔法あるだろ?知らないならそこの精霊に教えてもらえばいいじゃねぇか。」


 アルスさんの言葉にゼフが僕の方を見てから、もう一度アルスさんの方を見て詰め寄る。


「おっさん、冗談言ってる場合じゃなくてな。本気なんだよ。」


「まてまて、俺も本気で...。あ、もしかしてアレイフ、精霊のことは秘密なのか?」


 僕の気まずそうな表情で気づいたのか、アルスさんが口元を引きつらせた。


「あ?なんだよ精霊って。」


「あーっと、話すと長くなるからな。とりあえず、その辺の事情はことが済んでからにしようぜ。」


 アルスさんは真顔に戻ると、僕の方を見た。


「で、追跡の魔法はないのか?」


 ...どうやら説明は僕に丸投げするつもりのようだ。

 別に隠していたわけじゃなく、信じてもらえる自信がなくて言わなかっただけだからいいけど...。


「もう使ってます。その結果が...。」


「この屋敷か?」


 アルスさんの言葉に僕はうなづいた。


「おい、どういうことだよ?」


 事情のわからないゼフが吠える。


「あーっと、とりあえず、嬢ちゃんはこの貴族の屋敷に花を届けにいって行方不明になったってことだ。」


「あ?なんでそんなことわかんだよ。」


 ゼフの疑問はもっともだ。


「いいんだよ!そういうことなんだ!それより行方不明のねぇちゃんを探すほうが先だろう!」


 強引にゼフを黙らせ、アルスさんは何かを考えるように顎に手を当てた。


「しかし、正面突破とはいかねぇしなぁ...。しかたねぇ、お前ら後ろついてこい。黙ってろよ?」


 アルスさんはそう言うと、門の方へ歩いて行った。

 門の前に立ち、門をたたく。

 何度か叩いたあと、向こう側から門が開いた。

 門を開けたのは鎧をつけた兵士だ。きっとこの屋敷の警備だろう。


「何用ですか?」


「俺は、レイム王国、国軍近衛隊所属、副隊長のアルス・ハイアットというものだ。此度、我が国の王より手紙の返事をもって参上した。汝が主殿はご在宅か?急ぎ拝謁願いたいのだが。」


そういうと、レイム王国の証と言わんばかりに剣の柄を見せた。


「手紙の返事?」


柄を見ながら兵士が聞き返す。


「汝らの主が我が国王に送った手紙の返信だ。確認すればわかるだろう。」


「しばし待たれよ。」


 そういうと再び門が閉じられる。


「おっさん、どういうことだ?」


「あ?気にすんな。とりあえず中にさえ入れればいいじゃねぇか。それにこの屋敷にねぇちゃんがいるなら持ち主に会うのが一番だろ?」


「さっきの肩書きは?」


「嘘じゃねぇぞ?まぁ今は休職中だけどな。」


 再び門が開いた。


「こちらに。」


 アルスさんに続いて僕らも門を通ろうとする。


「失礼ですが、この子達は?」


「ん?あー。小間使いさ。長旅だったんでな。」


「そうですか...。」


 少し不思議そうな顔をする門番だが、当然だろう。

 子供を2人も、長旅ならただの重荷だ。

 だが、疑問をぶつけられることもなく、僕らも門を通された。

 そして館の前には執事姿の初老の男性が礼をして立っている。


「私はこの館の管理を任されておるものにございます。我が主は、本日急務にて不在でございますれば、申し訳ございませんが、今晩はこの館にお泊り頂きお待ち頂きたく。明日の朝、早々に主と連絡をとりますので。」


 そう話しながら執事は大きな屋敷の応接室のような部屋に僕等を通した。

 所々に豪華な美術品?が飾ってある。

 今通されたのも、豪華なソファーのある部屋だ。

 メイド姿の女性がお茶を運んでくる。

 変な匂いがする...。高級なものなんだろうか。


「失礼ですが、そちらは?」


 執事も僕等を疑問に思ったようだ。

 アルスさんが同じ説明をするが、その時、フィーが僕のほっぺに体当たりしてきた。

 何かと思ってフィーを見る。


「いたよ!リュッカって子。あいかわらずマーキングには反応ないけど、探したら確かにこの敷地にいる!ボクが外から感知できなかったのは、たぶんこの敷地に結界みたいな仕掛けがあったんだ。中にはいったときから感知可能だよ。」


 フィーの声は2人には届かない。

 僕はアルスさんに小さい声で「見つけた。」とだけ呟いた。

 アルスさんはニヤっと笑い、執事を呼び止める。


「そういえば、ここへ来る途中。街中で騒ぎを見ました。」


「それは、どんな?」


「なんでも、花屋の娘が行方不明になったそうです。」


「それは...早く見つかればいいですね。」


「ええ、本当に。まぁ優秀な魔法使いが足取りを探しているようなのですぐに見つかるでしょう。」


「魔法使い?」


 執事の無表情に変化がある。


「ええ、その少女の知り合いに追跡魔法が得意なものがいたらしいのです、そういえば近くまで一緒でしたよ。もしかしたらこの辺りで行方不明になったのかもしれませんね。」


「そうですか、しかし、このあたりは治安がいいのでこの先のスラムの辺りかもしれませんね。」


 執事は、部屋を用意してきます。といって外へ出て行った。

 部屋には僕等だけが残される。


「おっさん、どうするんだよ。こんなところに来て!」


「いや、ここだな。たぶんねぇちゃんはここにいる。」


「なんで、おっさんにわかるんだよ。」


 アルスさんは一瞬だけ僕を見て、頬を掻きながら答える。


「あれだ、さっきの会話から俺が感じとったんだよ。読心術ってやつよ。」


 説得力はあまりない。

 僕は言い合いする2人を無視して、静かにフィーに教えてもらっていたもう一つの魔法を唱えた。


「風よ、我が探索の手助けを。ウインドサーチ。」


 僕を中心にそよ風が吹いてゆく。

 風は隙間に入り込み、屋敷の中に広がっていく。

 それと同時に僕の頭には見取り図のようなものが作成されていく。


 廊下を早足であるく人、屋敷の中を何かをもって歩いている人、屋敷の外を2人組で歩く人...。

 見取り図に情報が入っていく。


 ...範囲を広げるごとに魔力の消費が激しくなる。

 まだ屋敷全体を見通せる程にはなっていない。

 屋敷全体を見通せる頃には魔力の半分を消費していた。

 ...リュッカ姉さんは見当たらない。

 魔力が4分の1を切ろうとしたところで、僕はリュッカ姉さんを見つけた。

 この屋敷じゃなく、離れた屋敷の地下にいる。


「...見つけた。」


 目を開いた僕を、ゼフとアルスさんが驚いた顔で見つめる。


「アレイフ、お前、こんな魔法を?」


「神子はだてじゃねぇな...。もう見つけたのか。」


魔力を使いすぎたからか、少し倦怠感がある。

さすがに目の前に描かれた魔方陣は隠せず、ゼフにも見られてしまった。けれど今はそれどころじゃない。


「あっちの方向にある離れの地下にいる。」


 僕の言葉を聞いて、ゼフが駆け出そうとするのをアルスさんが掴んで止めた。


「離せよ!」


「馬鹿か、今行っても迷うだけだ。方向は分かっても道順はわからねぇ。それに怪しまれる。お前、騒ぎになったらこっちのが不利なの忘れてねぇか?」


 ちょうどその時、ドアがノックされ、メイドさんが入ってきた。


「お部屋の準備ができました。こちらに。」


 そういって移動を促される。僕らは怪しまれないようにそのメイドさんの後ろを歩いて移動を開始した。

 ちょうど、僕が見た方向へと歩いていく。

 途中、窓から見下ろす形で離れが見える。ここは3階だ。

 アルスさんが目で「あれか?」と聞いてきたので、僕は頷いた。


「なぁ、あの離れはなんだい?」


「はい?あぁ、あの倉庫でございますか?」


「倉庫なのか?あんなに立派な建物なのに。」


「旦那様は美術品の収集だけでなく、取引も行っております。そちらの在庫を管理するための建物なのです。」


「へぇそりゃ見てみたいな。見れないのかい?」


「申し訳ございませんが、旦那様の許しが必要です。明日、直接お聞きになられれば宜しいかと。」


 大きな部屋に僕らを案内し、メイドは一礼する。


「何かありましたら、お申し付け下さい。」


「なぁ、あんた。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかい?」


「なんでございましょう。」


「その匂いは香水かい?」


「匂い。で、ございますか...?」


 メイドさんは首をかしげ、


「私から何か匂いますでしょうか?」


そういうと、手首などの匂いを嗅ぐ仕草をとった。


「いや、つけていないならいい。勘違いだ。悪かったな。」


 メイドさんはもう一度一礼すると去っていった。


「あの中にいるのは間違いないんだな?」


 真顔で聞いてくるアルスさんに僕は頷いた。


「なら、行くか。」


「いいのかよ!」


 さっきまでのゼフとアルスさんの意見が逆転している。


「もう場所もわかったし、本人がいれば問題ねぇ。それに...ちょっと気になることがある。さっきのメイドの匂い。...嫌な予感がする。」


 そういうと、アルスさんは僕とゼフを連れて静かに部屋を出た。

 身を隠しながら、誰にも気づかれることなく、倉庫に近づいていく。

 アルスさんの指示に僕もゼフも大人しくしたがっている。

 気のせいか、アルスさんが何かを焦っているような感じがした。


 そうこうしている間に、倉庫の前にたどり着いた。

 見張りの兵などはいない。


 注意深く扉に耳を当て、扉にかかっている大きな鍵をアルスさんが叩き切った。

 外から鍵がかかっているということは中に人はいない?

 リュッカ姉さんは閉じ込められている?


 倉庫の中を進んでいく。

 確かに左右の棚やいたるところにいろんなものが置かれている。

 メイドのいったことは嘘ではないのだろうが、問題は地下だ。

 見渡した限り、地下にいけそうな道は見当たらない。


 僕はもう一度ウインドサーチをかけた。


 部屋の片隅に隠し扉があり、その先に階段が見える。


 僕らはアルスさんを先頭に、階段を下っていった。

 だんだんと、人の声のようなものが聞こえてくる。


 降り立ったところに、複数人の兵士がいた。

 外にいた兵士とは違う黒い鎧を着、真剣を抜き、こちらを睨んでいる。


「何者だ?」


 そういった黒い兵士に、いきなりアルスさんが斬りかかる。


 一瞬だった。


 アルスさんは一瞬で黒い兵士達を切り倒した。

 容赦なく、何も話すことなく、首を切り落とし、身体を切り裂く。


 僕もゼフもあまりのことに言葉を失う。

 一瞬で部屋は血なまぐさい空間になった。

 吐き気がする...。ゼフも顔は真っ青だ。


 僕らが降りてきた階段の先には、鉄格子があり、その先にまた扉がある。


「ここからは俺ひとりで行く。お前ら、ここで待ってろ。」


「なんでだよ!」


 青い顔のままゼフがくってかかるが、アルスさんは無言だ。


「危険だからですか?」


 僕の質問に、アルスさんは静かに首を振った。


「違う。そうじゃない。この先は恐らく碌でもないことになっている。子供がくるところじゃねぇ。ねぇちゃんは必ず連れ帰る。約束する。だからここでまっていろ。」


「説明は?」


「その兵士の鎧。見覚えがある。だからこの先のことも見当がつく。俺に任せろ。」


 今までにないぐらい、真剣なアルスさんの顔に僕らは押し黙る。

 それを肯定ととらえたのか、アルスさんは扉を開け、奥に入っていった。

 扉を開けたあと、一瞬、喧騒のようなものが聞こえたが、扉が閉まると、シンと静まり返った部屋に戻る。


 血なまぐさい部屋で立ち尽くす僕とゼフ。

 しばらくして、ゼフが話しかけてきた。


「そんな魔法どこで覚えたんだ?...すげぇな。」


「まぁ、いろいろと。また帰ったらきちんと話すよ。」


「そうだな。ねぇさんを連れ帰ったらいろいろ聞くからな。」


「うん。」


 しばらく時間が経ったが、アルスさんは出てこない。


「おせーなぁ...行ってみねぇか?」


「でも...。」


「遅すぎるじゃねぇか...それにここにいても気分が悪いのは変わらないとおもうぜ。」


 ゼフの言うとおり、死体に囲まれた今の状態はきつい。

 僕らは、そこからは無言で、鉄格子を抜け、その扉に手をかけた。

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