第7話 パーティ結成
今日も朝から仕事を探す。
ここ何日かは街に出て、ボードとにらめっこだ。
初日に銅貨を稼いで以来、仕事がない。
募集はあるけど、身体の大きさや、僕のひ弱そうな見た目で断られてばかりだ。
確かに、力仕事には自信がない。
ゼフの方は2日目で仕事を見つけて、毎日働きにいっている。
小銅貨3枚から5枚の仕事みたいだ。
初日こそ小銅貨の10倍もする銅貨を稼いできて驚かれたが、続かないと意味がない。
「ねぇー」
目の前をフィーが行ったり来たりしてるが、何をいうのか分かってるので、無視する。
「ねぇーってば。」
やっぱり断られた仕事ばかりで新しいのはないみたいだ。
「もう観念して、ここへ行こうじゃないか。」
フィーが指しているのは、傭兵団の募集だ。仕事を探しだした初日に出会った傭兵団の人達、銀鷹の募集を指している。
いまいち気乗りしない。
確かにフィーに教えてもらった魔法を使えば、それなりに稼ぎにはなりそうだけど、戦うのに抵抗がある。
やっぱり怖いし、魔物とはいえ、生き物を殺すのには抵抗がある。
「何をそんなに悩んでるんだい?ボクに相談してみなよ。」
フィーがあまりにしつこいので、正直に答えた。
「君って、変わってるね。普通は身の危険を感じるから嫌がるものなのに、魔物の命を奪うのに抵抗があるなんて...。」
「魔物でも生き物は生き物だろ?」
「そうだけどさぁ...そんなんじゃこの時代を行けていけないぜ?」
フィーは少し考えるしぐさをとる
「とりあえず、仕事探しがてら、その傭兵団に行ってみなよ。何か紹介してくれるかもしれないじゃないか。前みたいに採取の仕事もあるかもしれないし。戦いばかりとは限らないよ?」
「それは、まぁ...。」
煮えきらないのにはもうひとつ理由がある。
フィーがやけに傭兵団を推すのが気になるんだ。
聞いても答えてくれないけど、何か理由がありそうだ。
銀鷹という傭兵団に何かあるんだろうかとも思ったが、同じように『大いなる矛』という傭兵団も勧めてきたので、たぶん、傭兵団という団体を勧めてるんだと思う。
ますます理由がわからない。
でも、フィーの言うことも一理あるので、試しに行ってみることにする。
ボードとにらめっこしてても、仕事は見つからないしね。
僕はのんびりと、ライラさんにもらった紙を見ながら歩く。段々裏通りに向かってる気がする...少し不安になってきた。
すれ違う人達の柄が悪い...みんなこちらには目もくれないけど。
いや、柄が悪いというよりは、鎧や武器で武装した人が増えてきた気がする。
目的地は寂れた見た目の宿屋だった。
一階は飲み屋なのか、昼間から人で賑わっているし、お酒の匂いもする。
飲み屋に入るわけにもいかずウロウロしてみたが、外から見える範囲に知ってる顔はなさそうだ。当然か...僕が知ってるのは3人だけだし。
3人のうちの誰かに会えればと思ったけど、よく考えたら彼女達も他の仕事をしている時間かもしれない。
前にあったのも、移動の最中だったみたいだし。
諦めて帰ろうかと思い始めた時だった。
急に声が降ってきた。そう、上から降ってきたのだ。
「しょーーーねぇーーーん!!!」
声のした上の方、つまり上を見ると、フードの...たぶんミアさんが降ってきた。
どう見ても5階以上の高さがある宿屋の、おそらく屋根から飛び降りたのにも関わらず、ミアさんは軽やかに着地する。
いや、着地するとすぐに抱きついてきた。
「やっと来たにゃー!日向ぼっこしながら待ってたからこんなに焼けちまったにゃー。」
まず鼻を寄せてきて、そのあとグリグリと頭をすりつけてくる。
「えっと、こんにちわ。ミアさん。」
とりあえず、挨拶してみる。
内心は、「え...屋根の上から?なんで着地できるの!?」とちょっと混乱気味だ。
ひとしきり抱擁を楽しむと、満足したのかミアさんはすっと離れて、僕の手を引いた。
「じゃあ、行くとするにゃ♪」
え、どこに!?
驚く僕を引っ張って飲み屋の中に引き込む。
中に入ると、一瞬だけ宴会していただろう男たちが一斉にこっちを見たが、ミアさんは気にせず僕を引っ張ってグングン中に入っていく。
そして居酒屋の右奥。いくつか紙が貼られた、そう僕がさっきまで見ていたボードみたいなスペースの前で立ち止まった。
「ど~れ~が~いいかにゃ~?」
ミアさんが見ているのは貼られている紙だ。
『ルーアまでの街道、ルーアの森近辺の盗賊退治 銀貨1枚~』
『ゴブリンの魔石 最低10個 銅貨2枚~ 質により要相談』
『迷宮トカゲのしっぽ 5本 大銅貨1枚』
...たぶん、依頼書だ。
ボードに貼られているものより、討伐や採集に偏っている気がする。
傭兵団に来た依頼ということだろうか?
「あの、ミアさん、これは?」
「よし、これにするにゃ!」
ミアさんは全く僕の話を聞いていない。
嬉しそうに紙の下に名前を書き始めた。
依頼を受けたらそうやって下に名前を書いて被らないようにしているんだろうか...。
って、もしかしてこのまま連れて行かれる!?
慌てて僕はミアさんが名前を書いてる紙を見る。
『メの実 最低5個 小銅貨3枚』
よかった。採集系みたいだ。
...じゃない!なんでいきなり傭兵団の仕事を!?それに門の外ならまた魔物にあう可能性だって!
「お、ミア、今日は男連れか?珍しいな、近所のガキか?」
後ろから急に頭を撫でられた。
振り向くと、ジョッキ片手に革鎧を着た男がいた。
「ムフフ~これからちょっと湖まで行ってくるにゃ。」
「湖?デートか?気をつけてなー。」
男はジョッキを掲げると、笑いながら離れていった。
傭兵団の人だろう。ライラさんみたいに、鎧に紋章がついていた。
「あのミアさん、湖って?」
「少年はお金を稼ぎたいにゃ?ならあちしと湖に行って、このメの実を集めるにゃ!報酬は山分けにゃ。」
確かにお金は稼ぎたいけど、なぜこんなことに。
というか、すごく流されている気がする...。
「湖にいくの?」
急に隣から声がした。
ビクッとして振り向くと、ララさんがいつの間にか立っていた。
「なんにゃ?ララも行きたいのかにゃ?」
ミアさんが何故か上からララさんに絡む
「ねぇ、アレイフ。」
「なんでしょう?」
ミアさんを無視して、ララさんがこちらを向く。
はじめて名前を呼ばれた気がする。名乗ってから数日たつのに覚えていてくれたことがちょっと嬉しい。ミアさんはきっと覚えてないんだろうな。少年って呼んでるし。
「ミアに流されると大怪我するの。」
「な、いきなりなんて不吉なこというのにゃ!?」
シャーっとくってかかるミアさんをララさんはジトっとした目で見つめ返す。
「この猫はノリと本能で生きているの。考えるのが苦手なの。」
「うぐっ」
この指摘には心当たりがあるのか、ミアさんが詰まった。
「私は補助や回復魔法も得意なの。ついて行ってあげてもいいの。」
「結局、ララも行きたいだけじゃにゃいか。」
偉そうに胸をはるララさんに、今度はミアさんがジト目を向ける。
採集だから絶対に何かと戦うわけでもない。運が悪かったとしても二人がいれば安心?かなぁ...。
...というか行くことは決定なんだ...。
街を出てからすぐに、前に行った森の横を通って進むと大きな湖が見えてきた。
二人は慣れた足取りで歩いていく。
すでにフードを脱いでいるが、ご機嫌なのか、ミアさんは尻尾をフリフリしながら鼻歌を歌っている。
「あの、メの実ってどんなやつなんですか?」
「えっとにゃ~これぐらいで赤いらしいにゃ。」
後ろ歩きしながらミアさんが片手で丸い輪っかを作る。
...全然わからないけど、片手サイズで赤い実なのだろうか。
あれ?今、らしいって言わなかったか?
「ミアは本当に無計画なの。」
そういいながら、ララさんがカバンから本を出して何かを調べている。
「指の爪ぐらいの大きさの赤い実で、湖のほとりにあるメコイっていう木になる実らしいの。」
...ミアさんの情報と全然違う。ララさんが付いてきてくれてよかった...。
「2人は傭兵団なんですよね?」
「そうにゃ、あちしもララも銀鷹に所属してるにゃ。」
「所属というか、保護みたいなものなの。」
「保護?」
「私達は幼い頃に奴隷として売られていたのを銀鷹の団長に拾われたの。」
「奴隷ですか。」
「ミアも私も奴隷としては高く売れるらしいの。」
昔のことはあまり聞かない方がよさそうだ。
話題を変えてみよう。
「いつもこういう採集の仕事をしてるんですか?」
「ん~あちし達は採集以外の依頼受けるのを禁止されてるにゃ。」
「誰かと一緒じゃないと危ないところには連れてってもらえないの。」
子供だから?と聞きかけてやめた。
そういえば、2人共見た目以上に年上だったことを思い出したからだ。
「私達はバランスが悪いの。」
ララさんによると、2人とも魔物などと戦うには決定打にかけるため、単独や2人だけでは安全なところしかいけないらしい。
もっとも、事実なんで不満がるわけじゃないらしいが...。意外なことにミアさんも納得しているみたいだった。
「命あってのものだねだからにゃー。」
と腕を組んで頷いていた。
「僕が混じってよかったんですか?傭兵団じゃないですけど。」
「あにゃ?入団希望じゃにゃかったのかにゃ?」
「入団しないの?」
「いや、入団はちょっと...。何か仕事をもらえないかと来ただけなんですが。」
「そうだったのかにゃ?先にいわにゃいと。」
言う暇を与えず連れ出したミアさんには言われたくない...。
「まぁいいにゃ!あちしが依頼受けて、少年を雇えば問題にゃいにゃい。」
「そうなの。私が雇えば問題ないの。」
そして二人は無言で睨みあう。
雇ってくれるのは嬉しいけど、この2人はなぜ張り合うんだろう。
そうこういっているうちに湖についた。
どれがメコイの木だろう。
3人で手分けして探すと、意外と簡単に木は見つかった。
けれど、実はついていない。
それどころか、枯れていたり、倒されている木もある。
何があったんだろうと話ながら、実のなっている木を探し続けて、やっと実のある木は見つかった。
けれど、問題があった。
「あにゃ~メの実が食べられてるにゃ。」
「他の木探します?」
「でも、他に実のある木は見当たらないの。」
せっかく見つけた実のある木には魔物がいた。
蟻を大きくしたような魔物で、そのまま『カブトアリ』というらしい。
大きさは大型犬サイズ。全体的に身体が固く、特に頭は鉄の盾に匹敵する硬さらしい。
蟻という名前なのに、巣に持って帰らず、その場で実を食べている。
木には見えるだけで3匹ほどのカブトアリがおり、メの実を食い荒らしていた。
こちらに気づいているのかいないのか、実を食べるのに必死で、特に襲いかかってくることはなさそうだ。
「なんとかならにゃいかな?」
「諦めるの。カブトアリは私達には荷が重いの。それにこちらから手を出さなければ襲ってこない魔物なの。無益な争いなの。」
どうにかならないかと悩むミアさんに、諦めようとするララさん。
僕も諦めたほうがいいと思う。
ここはミアさんを説得して別の木を探すか、諦めよう。
「ミアさ...。」
ドサリと。何かが落ちる。
3人とも木の方を見ると、アリが1匹落ちていた。
枝が折れたみたいだ。引っくり返ってもがいている。
...若干、嫌な予感がする。
起き上がったアリが、こちらを向いた。
しばらくジーっとこちらを見た後、動きが鋭くなる。
お尻を上げて頭を下げ、こちらを威嚇して吠える。
よくもやってくれたな!的な雰囲気だ。
「にゃはは...八つ当たりだにゃ~。」
「わ、笑ってる暇はないの!」
ミアさんが双剣を、ララさんが杖を構える。
「あちしが抑える!少年!ララ!援護頼むにゃ!」
アリとミアさんはほぼ同時に動き出し、アリの硬そうな顎をミアさんが剣で受け止める。
もう片方で切りつけるも、頭に弾かれる。
僕は全く動けず、立ち尽くしていた。
ララさんが魔法を唱えて、アリを後ろに吹き飛ばす。
「ミア!逃げるのっ!」
「無理にゃ...。」
木から更に2匹のアリが降りてきた。
ララさんは真っ青。ミアさんも苦笑いしている。
最初のアリがミアさんにむかって再び突進する。
僕はまだ動けない。
残りのアリが、僕とララさんの方を見て、こちらに向かってくる。
その時、ペチンと頬にフィーが体当りした。。
「ほら、君がやらないといけない場面だよ。女の子二人だけに戦わせるのかい?」
フィーの言葉に、僕はやっと身体を動かせた。
覚えた詠唱を言葉にする。
「我、古の契約に基づき、汝が爪を使役する、切り裂け、風爪!」
先に近づいてきた1匹に、魔法をぶつける。
アリは頭を真っ二つにして絶命した。
無詠唱にしなかったのは魔力の消費を抑えるためだ。
もう1匹はかなり後ろに飛ばされ、引っくり返っている。ララさんの魔法だろうか。
左を向くと、ミアさんが、アリとせめぎ合っていた。
「我、古の契約に基づき、汝が牙を使役する、穿て、風牙!」
ミアさんとアリが離れたタイミングで横からアリの頭を打ち抜いた。
しばらくもがいてからアリが絶命する。
ミアさんが残りのひっくり返ったアリのところに一瞬で移動し、アリの腹や胸を切りつける。
あそこが弱点なんだろうか、あっさり刃が通り、アリが絶命した。
「いや~ヒヤッとしたにゃ~。3匹しかいにゃかったみたいだニャ。」
「なんとかなったの。本来なら10匹単位だから運がよかったの。」
「3匹だけですか?」
「にゃ、木の上にはもういないにゃ。にしても少年!やっぱりすごい魔法だにゃ。」
「カブトアリの頭がまっぷたつなの。」
「いや、僕なんて...ミアさんやララさんの方がすごいですよ。僕はなかなか動けませんでした。」
「それは馴れってやつだにゃ~。」
ミアさんがアリの魔石を取ってララさんに投げる。
「アレイフもすぐ慣れるの。」
ララさんは魔石をバックに入れていく。
魔石を取り終わったミアさんが木に登り始める。
「どれぐらいいるんだっけ?」
「なるべく綺麗なのを、持てるだけ?どれぐらいあるの?」
「ん~なんか緑のを除けば20個ぐらいかにゃ?」
「傷をつけると買い取ってもらえないから綺麗にとるの。」
「あいあいさ~」
ミアさんがメの実を取りながら往復する。
結局30個ぐらいとって帰ることにした。
「少年。本当に傭兵団には入る気はにゃいのかにゃ?」
「ええ、というか、こんな子供は入れませんよ。」
「そんなことないと思うの。あの魔法はすごいの。」
「じゃあ、あちしが仕事持ってくるからパーティ組まないかにゃ?」
帰り道にミアさんがずいっと近づいて誘ってくる。
採集系なら僕にとっても悪い話じゃない気がする。基本ミアさんは採集系専門だといってたし。
なぜだろう。ゴブリンみたいな知性を感じなかった為か、一方的に襲われたせいか、それほど戦うことに抵抗は感じなかった。
「いいんですか?」
「少年なら大歓迎にゃ!」
そこで、ララさんが割り込んできた。
「仕方ないから私も参加してやるの。」
「にゃんだ?ララも入れてほしいのかにゃ?」
「私がいないと、採集の依頼すらこなせないの。アレイフに迷惑をかけるのも身内の恥なの。」
「にゃ、にゃんていいぐさにゃ。」
でもミアさんはそれ以上言い返さなかった。実際今回の依頼はララさんがいなければメの実を見つけることすらできなかっただろう。
「アレイフは毎日働いてるの?」
「いえ、正直仕事がなくて。」
「1日いくら稼ぎたいとかあるの?」
「1日に小銅貨2,3枚稼げると嬉しいですね。」
「それなら2,3日に1度ぐらいこういう依頼を受ければいいの。」
「ミアさんとララさんはどれぐらいの頻度で依頼をこなすんですか?」
「あちしたちはその日暮らしにゃ。」
「私達もそれぐらいでいいの。」
街に入って彼女達の宿屋に向かう。
日は暮れてないものの、もう夕方だ。
「とりあえず、これであちし達はパーティにゃ!」
「そうですね。」
ミアさんは嬉しそうに宣言した後、深刻な顔をした。
「だから少年!あちしのことはミアでいいにゃ、呼び捨てでいいにゃ。あちしもアレイフって呼ぶにゃ。」
「私も呼び捨てでいいの。」
「いや、でも...。」
2人は明らかに目上だ。それに仕事をくれる雇い主でもある。呼び捨ては抵抗があった。
「パーティは対等にゃ!」
「そうなの。」
2人の顔は真剣だ。傭兵団では当たり前なんだろうか。
「わかりました。宜しく。ミア。ララ。」
2人と改めて握手を交わす。
宿屋につき、ミアとララが換金して来るのを外で待つ。
事前に山分けと言っていたけど、いくつになるのか楽しみだ。
「いい仲間ができたね。でも頑なに傭兵団には入らないんだね。」
フィーが嬉しそうに僕の周りを飛んでいる。
「僕みたいな子供は入れないよ。」
「もし入れるなら入りたい?」
「...うーん。まだそんな勇気ないよ。」
正直に答えると、フィーは僕の目の前でとまる。
「君にはまだまだ勇気が足りないね。」
「...そうだね。」
僕は報酬の入った袋をもって嬉しそうに出てくるパーティの2人を見ながら答えた。
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