第23話 新しい年を迎えて

 まさか初めての外泊で、泊まったホテルで知り合いに合うとか勘弁してほしかった。

 帰りの電車から両親にその事をメッセージで送ると、『そう言えば、沙織ちゃんのパパから聞いていたホテルだった』などと、しばらくしてから父からの返信が有った。次から、父の紹介先は疑ってかかる事にしよう。

 合わせて『予定通りに帰るよ』と入っていたけど、初詣は井口先生を引っ張り出す必要があるので、申し訳ないけど外出させてもらおう。

 そこから年末までは、教習所と模様替えと大掃除と買い出しで、めまぐるしく過ぎて行ったが、それでも片付いた家で父の帰りを祝い、蕎麦を食べて無事に年を越すことが出来た。


 元日も二人して早めに目が覚めたので、ベッドの中で新年の挨拶を交わす。

 寒稽古に出るわけでは無いのでゆっくり起きても問題は無いからと、抱き合ってキスを繰り返しながら二人だけの時間を過ごす。

 外出する格好でリビングに降り両親に新年の挨拶を済ませると、昼くらいには戻ると言い置いて道場に向かって腕を組んでゆっくり歩く。


 道場には、通っていたころ指導してくださった方々が揃っていた。一通り挨拶を済ませていくかな、真理佳は左手の指輪が見える様に腕に抱きついていて、必然的に結婚したことを報告する事になる。若すぎる妻をもらった事に、妻帯者も独身も口を揃えて「うらやましい」と言い出して、やっかみ半分の祝福をくれた。

 そんな感じに絡まれていると、シャワーを済ませて着替えの済んだ沙織ちゃんと井口先生がやってくる。

「先生、約束通り僕らと初詣に行きましょう。就職準備の件で聞きたい事も有りますし、秋の件のお礼も兼ねて奢りますから」

「沙織ちゃんもね。美紀ちゃん達にも声かけてあるから、このまま初詣に行こうね」


 二人してそれぞれの声をかけて道場を後にすると、電車を使って学校近くの神社に向ったのだが、そこには意外な友人が混じっていた。

「木下さんや佐々木さんが居るのは解るが、なんで神崎が居るんだ? クラス順位が二番に落ちたからって闇討ちか何かか?」

「いやぁ、年末年始は羽目を外す輩が多いからね。木下さんとは別で初詣は済ませたけど、ここで待ち合わせが有ると言うから付き添ったんだよ」

「ん? じゃ初めての相手って……」

「そ、そう初めてできた彼女が木下さんさ」

 なんか怪しい言い回しをするものだと木下さんを見ると、ジト目で神崎を見やっている。

 真理佳には以前話したことが有ったので、木下さんも神崎が童貞で無い事は知っているはずで、彼女の表情から相手が彼女でない事が伺える。


「翔真君には言って無かったよね、真面目で見栄っ張りな私の彼氏ですよ」

 どうやらそう言う事になっているらしい。

「これで全員か?」

 井口先生が聞いてくるので真理佳を見ると、「そうで~す」と手をあげて返事をする。

「一匹お邪魔虫が居るようですが、行きましょうか」

 そう声をかけて鳥居をくぐると、真理佳は再び腕を組んできて横を歩く。後ろを見ると、先生を沙織ちゃんと佐々木さんが挟む格好で付いてきていて、その後ろには神崎と木下さんが並んで歩いている。

「彩萌ちゃん、なんで貴女まで腕を組んでるのよ」

「沙織ちゃんがしているからじゃない。大丈夫よ、取らないから」

「先生が困ってるでしょ」

「だって新婚さんの邪魔は出来ないし、神崎くんは好みじゃないし、でも男性と腕を組んでみたかったからね。こっちは気にしないで二人の世界に入っていて良いよ」

 先生の苦笑いに苦笑いを返し、さい銭箱まで来ると祈りをささげる。


「何を願ったの?」

 真理佳がみんなに聞いてくるので、僕から順に答えて行く。

「夏の件でみんなが負った傷が、少しずつ癒えますようにってね」

「早く卒業式が終わりますように、ってお願いしたよ」

「愛する人が危険に巻き込まれませんようにだな」

「私も危険な恋に落ちますようにって」

「大学に合格できますように」

「神崎君と同じ大学に行けますように、ってお願いした」

 神崎たちは真面目に受験生しているし、沙織ちゃん達は時間だけが思い通りにならないのだろう。最後になった真理佳はニコニコしながら聞いていて、誰かに催促されるのを待っている様なので、「ほれ」と言って促す。

「私はねぇ。無事に授かって、早く血の絆が結ばれますようにとお願いしました。なので、おみくじを引きに行こう」


 頬を染めながら答える真理佳を、思わず抱きしめそうになって自重する。

 女の子たちは、「真理佳なら大丈夫だよ」とか「私もそれにすれば良かった」なんて言い出し、先生からは困った顔を向けられる。事情を知らない神崎からは驚かれてしまったので、左手の指輪を見せて「そう言うことだ」と簡単に説明し、恥ずかしさに顔を背けると甘酒の文字が目に留まる。

「僕はおみくじより甘酒がいいから、買いに行ってくるよ。真理佳も飲むだろ? 先生の分も買ってこようか?」

「奢ってやるから飲みたい奴は手を上げろ。――なんだ全員か。翔真、これで買ってこい」

 そう言って財布ごと渡されたが、七つものカップは持てない。真理佳が察してくれて、皆で甘酒をご馳走になってからおみくじを引きに行く。


「ここのおみくじ、お守りが入っているみたいね」

 いくつかある箱の一つを、沙織ちゃんが目ざとく見つける。どうやら縁起物の動物をモチーフにした、五種類のお守りの内の一つが付いてくるらしい。興味が湧いたので僕も含めて七人共に引くと、『金運のカエル』が僕と佐々木さんに、『幸運のフクロウ』が真理佳に、『健康運のカメ』が神崎と井口先生に、『勝負運のトンボ』が木下さんに、『出世運のウマ』が沙織ちゃんに出た。

 ちなみに、くじの方は大吉が五人と中吉が二人で、僕は中吉だった。対人関係が悪くない様なので、四月以降に少しばかりの安心感が生まれた。『金運のカエル』も出た事だし、それに頼ることなく着実に貯蓄を増やせるよう、節約していかなくては。

 真理佳は大吉にもかかわらず、子宝が時期尚早と出たために満足しきれない様子だったが、僕としても金銭的余裕も無いので助かる。


   ◇ ◇ ◇ ◇


 初詣に四人で行くと、どうしても先生と沙織ちゃんが目立ってしまう。沙織ちゃんは凛とした綺麗な顔立ちだし、先生もイケメンかと問われれば半分以上が頷くほどの顔だちをしている。それではと、いつものメンバーに声をかけることにして電話をする。


「美紀ちゃん、年始の予定は決まっているの?」

「うん。神崎君と大晦日の晩から、都内の神社に初詣に行くよ」

「やっぱり。あの、ちゃんとしたお付き合いをしているんだよね」

「どうしたの、急に」

「いやぁ、翔真から聞いたんだけど。神崎君って経験あるそうだから、相手は誰だろうと」

「へ? わ、私じゃないよ。てか、誰と? いつ?」

 私が聞いていたのは、「七月に入ってから付き合い始めた」だったので、さすがに違うと思ってはいた。それでも神崎君に元カノが居ると聞いたことが無いので、思わず聞いてみたわけなのだけれど。

「誰とは言わないみたいだけど……。ごめんね、変なこと聞いちゃって」

「ううん、教えてくれてありがとう。ちなみに電話の件はそれだけ?」

「沙織ちゃんや先生と初詣に行こうと思っているんだけど、あの二人目立つから一緒にどうかと思って」

「わかった、彩萌ちゃんには私から声かけておくよ。どこの神社にするか決まってるの?」

「学校近くにある神社だったら、みんな定期券が有るから来易いかと思うの」

「さすが新妻、倹約だねぇ。時間が決まったらメッセージ入れてね」

 美紀ちゃんの言葉に『も〜、からかわないでよ!』と思うけれども、不安になるような悪い事を言ってしまったかもしれないので許そう。そうだなぁ、神崎君も一緒に初詣に来てくれれば嬉しいな。

 先生には翔真から連絡を入れてもらい、了解を取り付けているので沙織ちゃんに連絡を入れると、「持つべきものは幼妻ね」などと茶化されてしまった。「そこは幼馴染でしょ」と訂正しておいたけれど、翔真への感謝も述べてくれたので、発案者が誰なのか判っているみたいだった。


 神社についてみると神崎君も居たので、別れ話には成らなかったみたいで安心した。それとなく聞いてみたら、「見栄を張ってしまった」と白状したようだけれど、美紀ちゃんとしては半信半疑のようで、まだ深い関係には成れていないとなげいていた。

 おみくじを引いたら大吉だった。健康面や金銭面も問題なさそうだったのだけれど、子宝が時期尚早だそうで、ちょっと脹れて見せたら翔真に苦笑いされてしまった。

 私だってまだまだ早い事は承知しているし、そもそも一緒のベッドで寝てはいるけれど、まだあの一度きりしかしていないし、それで良いとも思っている。翔真に求められれば応じるけれど、無理をさせたいとも思わないし、招く結果で負担をかけるつもりも無い。


 みんなと別れて家に帰り着くと、ほろ酔いのパパとママが『待ってました』とばかりに出かける用意をし始める。

「ちょっと待って。私まだ御節も御餅も食べてない」

「言っても無駄だよ。レンジで柔らかくするから、雑煮のお汁を温めておいて」

「私一個でいいよ」

 そんな感じでお雑煮だけを食べ、家族四人で近所の神社へ向かうことになった。

 朝行った神社は厄除けと縁結びの神様を奉っていたので、縁結びにかけて子宝を願ったのだけれど、こちらは氏神様なので家内安全を願っておく。

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