第19話 発覚と追求と警告と

 ずっと血の繋がりなんてわずらわしいモノだと思っていた。

 それが無ければ翔真の隣りに立てるのに、愛してもらう事も出来るのに、と考えていたからだけど。それでもママの気持ちを聞いてしまって、それがある事で安心できる立場もあるのだと気付かされた。

 そうだ、翔真との間に子供が出来れば、子を還して血の繋がりが出来るのだから。

「ママが私の気持ちを後押ししてくれて、とっても嬉しかったよ。私は血の繋がりさえなければと、この血を恨んだこともあった。それでもママが私の一番の理解者で、この運命を引き寄せてくれたんだから、これからは私が踏み出さないとね」

 それだけ告げて苦笑いを浮かべる翔真を横目に、着替えるために部屋へと戻った。


 着替えていると、友達からメッセージが入っていた事に気付く。受信は昨日の夜、寝てからのものだったので気付かなかったみたいだ。

『この前話していたクリスマスのプレゼント。明日の午後に買いに行かない?』

 そんな話を金曜日にしていたけれど、その時は頭の中がその日の夜の事でいっぱいだったので、「土曜日に連絡を頂戴」と言って済ませてしまっていた。直ぐ返信しようと『いいよ』と打ち込みながらリビングに向かう。

「ねぇ、沙織ちゃんから買い物に誘われたんだけど、午後から出かけて行ってもいい?」

「いいわよ」

 模様替えの件もあるので翔真に聞いたつもりだったけど、ママから答えが返ってきた。

「翔真は?」

「え、かまわないよ。ベッドは業者がやってくれるし、チェストの移動は急がなくてもいいからね」

 了承が得られたので送信ボタンをタップし、朝食が並んだテーブルに着く。

「いただきます」

 食べながら翔真の欲しいプレゼントを確認していると、気の早い業者さんが連絡時間の前に来てしまった。

 翔真は慌てて食べ終えると、対応に出てくれる。私は二階に居ても邪魔なので、ゆっくり食べながらプレゼントを考える。結局、午前中をネット検索に費やしてしまい、飛び出す様に家を出て待ち合わせの店に向かう事になってしまった。


 ホームに駆け込んだのだけれど、乗るはずだった沙織ちゃんのいる電車は出てしまい、『遅れる』とメッセージを入れて次の電車で待ち合わせのお店に向かう。

 外から店内を見渡すと、奥の席で沙織ちゃんたちは食べ始めていた。レジは空いていたので、最初に目についてハンバーガーのSセットにナゲットを追加で頼み、急いでみんなに合流する。

「ごめんねぇ、遅くなって。お詫びにナゲット頼んだから、みんなで食べよ」

 そう言ってナゲットをテーブルの真ん中に置くと、向に座る沙織ちゃんは「うん」とだけ返事をして、隣の美紀ちゃんに肘打ちする。

「? 巡るお店とか決まったの」

「「うん」」

 沙織ちゃんと美紀ちゃんが返事をしつつ、彩萌ちゃんに目配せする。ナゲットがダブったのかと見回すがそんなことは無いので、不審に思いながらもマスタードの封を開ける。

「みんなは買うもの、決まっているんだよね」

「「「うん」」」

「私は財布にするんだけど、みんなは何にするか教えてよ」

「「「うん」」」

「……」

「「「……」」」

 生返事ばかりで、私の話を聞いていないようで不振に思う。遅れてしまったので怒っているのだろうか。それともネックレスを見えるように着けているからなのか?


 誰か顔見知りでも居て、私に気づけと合図しているかもと周りを見回したけれど、それらしい人も見受けられない。ならば質問に乗せてみよう。

「沙織ちゃん、本当に先生にあげるの?」

「「「うん」」」

「美紀ちゃんは、神崎君に?」

「「「うん」」」

 相手の名前を出して見たけれど、それにも反応が薄くて意味がわからない。どうしたと言うのだろうか……。ハンバーガーを一口かじって気持ちを落ち着かせて尋ねる。

「ふ~ん、やっぱり皆おかしいよ?」

「「「……」」」

 見回すと、3人共に上目使いで私の顔をうかがってから、再び私のハンバーガーを見る。いや、左手を見ている?

 ハッとして薬指を見る。そこには外してくるのを忘れた結婚指輪が、輝きを放って嵌っていた。

「それってシルバーじゃないよね」

 初めて「うん」以外の言葉が出た沙織ちゃんに、「プラチナだよ」と答える。

「翔真君に買ってもらったの?」と美紀ちゃんが尋ねるので、「親にも出してもらったけどね」と答える。

「誕生日プレゼントじゃないんだ」と沙織ちゃんが確認してくるので、黙って頷く。

「嵌めてもらったんだね」と彩萌ちゃんが聞いてきたので「そうよ」と答える。

「どこで」と沙織ちゃんに聞かれて「それぞれの両親の前で……」と答える。

「「「結婚指輪ってことだよね」」」

 そろって言われた言葉に、「……はい、結婚の届を出してきました」と答えてしまう。

 早速やってしまったみたいです。「翔真、ごめんね」と心の中で謝まっておこう。


   ◇ ◇ ◇ ◇


 母が夕飯の買い物に出ている間に、担任の井口先生から電話がかかってきた。

「あぁ、翔真か。お前たち制服で婚姻届を出したそうだな」

 どうやら、誰か知り合いにでも見られていたらしい。どうせ明日には書類を出すのだから、問題は無いかと簡単に答える。

「えぇ、おかげさまで滞りなく受理されましたよ。明日には書類一式を持っていきますので、よろしくお願いしますね。ところで、情報源は何処ですか?」

 制服から学校までは解ったとしても、この短時間で担任に行き着く事は難しいので、探りを入れてみる。

「あぁ、沙織。いや、橘から連絡が来てな。なんでも、プレゼントの買い物で集まった所に、結婚指輪をこれ見よがしに嵌めて来たとかで、クリスマスに指輪がどうのと……」

「なんとなく状況は解りましたよ。ところで、教師と生徒が個人的なアドレスを交換する事は、教育委員会へ報告できない内容だと理解していますか?」

「え、あ、そうだったかな」

「なので、沙織ちゃんの彼氏として相手させていただきますよ。彼女は妹みたいなものなので、悲しませるようなことが有れば容赦しませんからね」

「妹みたいって、真理佳がやくんじゃないか?」

「いいえ。真理佳は妻ですから、問題になる事は有りません。それより、人の奥さんを呼び捨てってどうなのでしょうかねぇ」

「おまえ、学校で旦那だ奥さんだなどと呼べるわけないだろ。俺にどうしろと言うんだ」

「今話をしているのは、井口先生ではなく沙織の彼氏なんだから、ちゃんと切り分けてくださいね。そんなだと、学校でもボロが出てしまいますよ。打上げで食べさせてもらった件も、気が緩んでる証拠だと思うのですがねぇ」

「なんで教え子からこんなこと言われなきゃいけないんだ。まぁいい、取り敢えず指輪は学校に嵌めて来ないように! それだけだ」

 そう一方的に言って電話は切れた。


 沙織ちゃんはしたたかな面が有るから、相手は大変だよなと考えていると、母が買い物から帰ってくる。

「母さん、真理佳は早速やらかしたようだよ」

「指輪でしょ。出て行く時は気づかなかったけど、リビングに空のケースが有ったから嵌めて行ったのかなって」

「井口先生から『学校には嵌めて来るな』って電話があったよ」

「なんで先生から?」

「橘さんとこの沙織ちゃんと付き合ってるみたいでね、そこから聞いたらしい」

「あら、まあ……」

 まあ中学の学区が同じだし、幼稚園からの付き合いでもあるから親同士も知らぬ仲ではない。それに遊びに来たこともあったから、そんな反応にもなるのだろうな。


    ◇ ◇ ◇ ◇


 結局はプレゼントそっちのけで、話し込んでしまった。

 沙織ちゃんと美紀ちゃんは、私が中学時代から翔真に恋している事を気付いていた。

 そのことで、高校に入ってから相談にものって貰っていたし、夏休みには兄妹では無い事を話してもいるが、養子の件をいつ知ったのかから知りたがった。

 大き声で言える話でもないので、なるべく事件の事に触れない様、言葉を選びながらあの日の事を話してあげた。兄妹なのにそれぞれを愛していた事を、その思いを打ち明けた事を、兄妹だからこそ思いだけをつらぬこうと誓ったことを。

 すると、彩萌ちゃんが「禁じられた恋だったのね」と食いついてきたけれど、戻って来てすぐに両親から話を聞いた事や、翔真が頭を下げて許しを願い出た事を話すと、残念がられてしまった。うん大丈夫、もう一人ここに候補がいるからね。

 そして、金曜の夜に親族総出で届け出を作ってお祝いした事や、昨日の指輪交換に至る経緯、更には制服で届け出したことを話してしまう。

 制服で行ったことについて、沙織ちゃんからは呆れられてしまったけれど、美紀ちゃんは「さすが翔真君」などと勇気を称えてくれたりもした。


 嬉しかったのは、三人共に祝福してくれた事だ。

 正直に言うと「早い」とか「ふしだら」だとか、拒絶されるのではないかと不安に思っていたのだけれど、杞憂だったようで安心した。

 話しも終わったし「プレゼントを買いに行こう」と立ち上がりかけると、沙織ちゃんが爆弾発言を投げ込んできた。

「それじゃ、昨晩は結婚初夜だったんだね。だから遅かったの?」

「「え……」」

 私と彩萌ちゃんが固まる中、美紀ちゃんが嫌味ったらしく沙織ちゃんを責める。

「そう言う沙織ちゃんは、先生とどうなの?」

「え? 打上げの日のこと?」

「そうだよ。うちに泊まった事にしたもんね」

 どうも、沙織ちゃんの方が私より進んでいるようだ。そして彩萌ちゃん追及の矛先が変わってくれる、ナイスフォローだった。彩萌ちゃんの目が輝いているもの。

 あっけらかんと彩萌ちゃんの質問に答える沙織ちゃんに、大人の女性を感じてしまう私は、それでも有りもしない周りの目線が気になって、二人を急かしてお店を後にする。

 う~ん、初夜って言われて変に意識してしまった。新婚旅行とかも難しいのは解っているのだけど、翔真はいつ私を求めてくれるのだろうか?

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