第14話 心満たされる夜

 文化祭も無事に終わり、打上げと称してクラス全員でお好み焼き屋に移動する。

 担任の井口先生も居ることから羽目を外す者は居なかったが、何気にカップルが出来ているもので、二つのテーブルに彼氏彼女カップルが示し合わせて向かい合いで座る。残りは、島崎さん以外男のテーブルと先生以外は女子のテーブルが出来た。


 僕らも向かい合いで座り、目の前の鉄板で二人分を焼き始める。家でも僕が焼き担当なので、真理佳は最初から焼く気も無くって、生地を受け取ることさえしなかった。そんな感じで任されて焼き始めたが、女子でも意外に焼ける子が少なくって、僕らのテーブル八人の内でまともなのは僕だけのようだった。

 彼氏に焼いてあげたかっただろうが、失敗作を食べさすよりはと上目使いで訴えられ、必然的に八人分を一人で焼く事になったので、自分の箸で食べている暇がない。

 隣のテーブルは女子ばかりだからか、各々で焼いて皆で食べ比べている様で羨ましい。

 そのうち、周りの目線が僕と真理佳に集まっている事に気付き、「どうした」と問いかけると、はす向かいに座る同中だった木下美紀さんが答えてくれた。

「その、真理佳ちゃんが自分の箸で相羽君に食べさせているでしょ。兄妹だとそんな事も自然にできるものなんだなぁって」

 小さいころから気にせずしていた事なので、言われるまで気にもしなかったが、答える真理佳は見せつけていたのかもしれない。

「え、普通しないの? べつに『あーん』とかしているわけじゃないし」

「だって、間接キスになっちゃうじゃない」

「あぁ。気にした事ないかも。貴女たち気にし過ぎじゃない?」


 絶対に嘘だと言える発言なのだが、周りはそうとは捉えなかったのか、お前らばかりと考えたのか、あちらこちらで白々しくも「そんなもんかな、それじゃぁ」みたいな雰囲気が漂う。こちらのテーブルでも木下さんがやり始めたのだが、真理佳の目線は沙織ちゃんに向いている。何か考えが有ってやっている様なので真理佳に問いかける。

「真理佳は、僕以外とも気にしないでするのかい?」

 すると、みんなに聞こえる声で、タイミングを見計らう様に声を上げる。

「翔真以外なんて考えられないよ。愛して無い人となんて出来るわけないじゃん」

 そんな言葉を返したものだから、「バカップルだ」とか「やってられねぇ」みたいな言葉があちこちから飛び交う。

 井口先生に至っては、差し出された箸を咥えたまま、頬を染めて満更でもない感じの沙織ちゃんと、向かい合いで固まっている。ご愁傷様しゅうしょうさま

 それからも、僕同様に食べさせて貰っている男性陣はいて、親睦よりも親密度が上がった打ち上げとなった。

 その後カラオケにも誘われたのだけれど、井口先生の「補導だけはされるなよ」の一言に、「送り狼になるなよ」とやり返し、僕らは帰路に着くことにした。


 家に帰り着くとリビングに電気が点いていたが、予想通り人気は無くテーブルの上にはメモが置いてあった。

『今晩は帰りませんので、ごゆっくりどうぞ』

 本当にいい性格の母親だ。

「どうする?」

「ど、どうするって、なにを?」

 動揺する真理佳に「風呂だよ」と答える。匂いだって染みついているのに、他に何が有るというのだ。

「え、あの、い、一緒にってこと?」

「いやいや。先か後か」

「あ! じゃ、じゃあ先に入らせていただきます」

 まあ、昼間の話もあったからだと思うが、一緒に風呂とか……。いや、考えなかった訳ではないが、明るい所で肌を晒し合うなんてのは、さすがにまだ恥ずかしい。

 順番に風呂を使ってリビングに行くとそこは無人で、覚悟を決めて自分の部屋に戻る。そこには、確実に真理佳が居るはずなのだ。


 気持ちを落ち着けてそっと扉を開けると、そこには既視感デジャビューが広がっていた。

 ベッドの上に座り込む真理佳は、あの時と同じように僕のシャツを羽織っている。もっともあの時と違うのは、思いつめた顔をしていない事か。

 抱擁を求める様に両手を広げて挙げるものだからシャツの裾が持ち上がり、レースの付いた白い下着が見えてしまっている。見た事ない物だから、最近買った勝負下着なのだろうか。

 これからする事を考えれば、明るければ当然恥ずかしい。

 照明を消してベッドに近づくと、広げた腕の中に納まる様に覆いかぶさり、ベッドへそのまま押し倒す。


 ベッドヘッドにある間接照明が、ほのかに染まった真理佳の顔を照らし出す。

「ごめん真理佳。不安にさせてしまうかもしれないけれど、まだ最後までしてしまう決心がつかないんだ」

 そう言う僕の背に手を回した真理佳は、少し物足らなそうな表情で答える。

「それって、大切に思ってくれているからだもんね。でも今晩はずっと、朝まで一緒にいたいの」

「それは僕もそうだ。できれば、あの朝のようにお互いの温もりを感じたていたいな」

「うん」

 合意が取れたので、抱き起す様にしてベッドの上に向かい合わせで座る。

 そのまま抱き寄せて、強く、深く、甘い、今までした事のない口づけを交わす。


「あん」

 シャツの上からその弾力を確かめるように胸に触れると、そんな声を上げさらに激しく唇を求めてくる。

 むさぼる様に口づけを交わし終わると、力が抜けたように体を預けてくるので、左手で体を支えてあげながらシャツのボタンを外していくと、小振りだが張りのある胸が現れ、上気した頬のままこちらを見ているので、シャツを脱がせてベッドに横たえる。

「翔真も、ね」

 僕も着ているものを全て脱いでいくと、下着を脱ぎ去った真理佳が恥ずかしそうに毛布をかぶる。

 毛布に入っていくと抱き付いて来たので、あの時と同じ体勢になり髪をなでてあげるが、ふと気が付いて問いかける。

「今日はネックレスしていないんだね」

「うん、切れちゃうのも困るし。それに、翔真が抱き締めてくれると信じていたから」

 可愛い事を言ってくれるものだが、それならばと強く抱きしめ、呼吸がおぼつかなくなるまで口付けを交わした。

 安心できたのか、暫くすると真理佳は眠ってしまった。「今はここまででいい」と自分に言い聞かせ、体に直接感じる心地よい温もりに、包まれる様な幸福感を感じながら僕も眠りにつく。


 翌朝、扉をノックする音で目が覚めた。「えっ」と声を上げて目ざまし時計を見ると、すでに八時半をまわっている。随分とぐっすり眠っていたものだ。

「二人とも、そろそろ朝ご飯を食べに降りてらっしゃいね」

 そう言い残して降りていく母の足音を聞きながら、起きてはいるが未だ張り付いている真理佳に声をかける。

「おはよう」

「うん、おはよう。ママ帰って来ていたんだね」

「あぁ。離れ難いけど、買い物も有るし下に行かないとな」

「あの。幸せな気分だったから、またこうして抱きしめてね」

 そう頬を染めて言うと唇を合わせてきた後に、薄暗がりの中を下着を手にしたまま僕のシャツを羽織って、小走りに自分の部屋へと戻って行った。

 当然、母は二人で寝ていた事は承知しているだろうし、もしかすると契ったのだと考えているのかもしれない。

 さぁ、どんな顔をしてリビングに降りていったものか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー