第13話 進める決意と誓いの決断

 急に「話をしないか」と言われてピンと来るものはあった。

 文化祭自体は、三回目ともなると目新しいものも無い。友達と回ってしまったのもあって、翔真と過ごせるなら部屋の隅っこだって構わなかったのだけど、ピンときた内容はこんな所で話せる内容ではないと思っていた。それでも、翔真はそれを聞きたがっているようだったので、たぶん午前中に聞かされたのだろう。

 私は二人の関係を認めてもらった翌日に聞かれた。

「貴女の好きは、本当に兄に対する好きではないの?」

「それは無い。幾度となく血の繋がりがなければと悔やんだし、彼女が出来るのではと不安になったり、離れて行ってしまう事に恐怖していたのだから」

 だから記憶を無くした翔真に、母の旧姓を名乗ってまで翔真を騙し、恋人としての関係を築きたいと行動した事などを全て話して聞かせた。


  そこまでしてでもそばに居たかったと。

   それでも私を命がけで守ってくれたと。

    そして、最後まで忘れずにいてくれたと。

     だからこそ、身も心も彼にささげたのだと。


 するとママは「身を、ささげてしまったの」と問い返してきた。顔から火が出るほど恥ずかしかったけれど、あの朝の出来事も隠さず話して「キスまで」と答えた。


 ママはしばらく考え込んだ末に、こう話してくれた。

「今回のような事が二度も起きるとは思わないけれど、死は突然訪れるものなの。翔真のお父さんが事故で亡くなったように、翔真のお母さんが後遺症が元で亡くなったように。それでも残された者は生きていかなければならないのよ」

 そうだ、雨の中を駆け寄った時に感じたはずの思いはなんだったか。伝えられない事への後悔と、一人残される事への苦悩で死を選びはしなかったか。

「それには後悔を乗り越えるだけの理由が必要よ。お腹の子を無事に産まなければと、残された赤子を育て上げなければと、理由を付けて乗り越える。少なくともお母さんは、そう考えていたから翔真を引取る決心をしたの」

 あの時の私にはそんなものは無かった。だから一緒に死のうと考えたのだと思う。

「もし今、翔真が死んでしまったら。それでも貴女は翔真を思って生きていくの? それとも新しい出会いを求める?」

 突然の問いかけだったけど、あの時の思いと今の幸せを考えれば、自然と答えが出る。

「あの時には思ったの。翔真が死んでしまうのなら、私も一緒に死のうと。でも、戻って来れた今はそう出来ないよね……。私は翔真が生きていた証として、その思い出を胸に翔真だけを思って生きていく。翔真が言っていた様に、ママたちに孫を抱かせてあげることは出来ないけれどね」


「ならば今すぐにでも、身をささげても良いのではないかしら」

「え?」

「体を許しても、大人の関係を築いてもいいと、お母さんは言っているのよ」

 突然何を言われたのか判断が出来なかったけれど、友達から聞いたあんな事やこんな事が頭に浮かんできて、恥ずかしくて顔を手で覆ってしまった。

「その、体を許エッチしたら何かが変わる?」

「初めての人として記憶に残るくらいかしら。でも、子供を授かれば責任が伴うでしょ」

 子供! そんな突然言われても答えなんかでないよ。

「翔真は根が真面目だから『卒業するまでは』とか言いそうだけれど。真理佳が納得する方法をお母さんは応援するわ」

 そう言って寄り添ってくれたママに決意を告げた。

「私は翔真の恋人として、求められれば応えたい。翔真の妻としてなら子供も欲しい。でも求められなければ、……我慢する」

「我慢なのね」

「だって、積極的過ぎて嫌われないか不安なんだもん。でも、他の子に取られる不安もあるの。それに、自分がどうなってしまうか怖いのもあるかな」

「そうね。不安に押し潰されそうになったら、その時はお母さんが背中を押してあげる」

「うん。ありがとう」

 その結果が、この前の手紙なんかだったのだけれど……。

 いつになったら、翔真は私を求めてくれるのだろうか。母から話を聞いて、その時期は早まったのだろうか。


   ◇ ◇ ◇ ◇


「夏休み中に話をしたよ。翔真は午前中に聞かされたの?」

「あぁ、簡単にだけどな。それで真理佳はどうだったのかと思ってね」

「翔真の求めに委ねると答えたよ」

「それなのに、結果がこの前のアレか?」

「取られる不安はあったもの。話の最後にママが『その時は背中を押してあげる』なんて言ってくれていたからね」

「今も不安を強く感じているか?」

 あの時の婚姻届は、翌日に二人して母の前で記入した。今は真理佳と母で保管しているはずだ。とは言っても、ただの紙切れで安心させられるのかと問われれば、無理なのも承知している。

「無いことは無いけど。でも、この前クラスでハッキリ言ってくれたから」

 いや、こんな問いかけは無意味で卑怯だな。真理佳の意見は尊重するが、まずは僕の思いを伝えるところから始めないと。


 どうしたら真理佳を幸せにできるだろうかと、いろいろ考えていた事はあった。その為に就職も考慮して動いてもいるし、婚約とか結婚とかの情報も集め始めてはいる。

 でも、もっと先のつもりで考えていたのだが、早くても良いのではないかと母の話を聞いて思い、真理佳の言葉でハッキリとした決意を述べる決心ができた。

「今年の誕生日って金曜日じゃないか。翌日の土曜日にちょっと付き合ってくれないか」

「いいけど、プレゼントは明日の振替休みで買いに行くって約束だよね」

「プレゼントは明日買いに行く。誕生日の翌日は実母の命日だから、墓前でちゃんと報告したいんだよ。こんな素敵な女性と巡り合えて、添い遂げる約束が出来たとしっかり報告したい」

 将来の誓いをするのであれば、産みの親にも紹介したいし、直接報告をしたいと常々考えていた。だから、その時になったら真理佳を連れて墓参りをしたいと思っていたのだ。

 かなり恥ずかしい事を言っている自覚があるから、努めて冷静を装って提案する。

「うん。いいよ、付き合ってあげる」

 組んだ指の上に顎を乗せて何気ない風を装ってはいるけど、嬉しさを隠しきれずにニコニコしながら真理佳が答えてくれたので、もう一つの提案もしてみることにした。


「ありがとう。その後は、部屋の模様替えに協力してくれないかな」

「いいけど何を動かすの? そんなに自由度は無いと思うけど」

「勉強部屋と寝室を分けようかと思って」

「???」

 回りくどい言い方が過ぎたかな。

「真理佳の部屋に僕の机を移動して、ベッドをこっちへ持ってくるのはどうだろう」

「一緒の部屋で寝起きするって事? そうは言っても、ベッドが二個も入るのかなぁ」

 ずっと一緒に暮らしているのだから、同棲と同居が気分的に入り混じっていて、もう少しハッキリと同棲関係なのだと実感もしたかった。真理佳だって曖昧なままだろうから、驚いたり照れたりしてくれるものだと思っていたけど、まだ余裕が窺えて少々面白くないので爆弾を落とす。

「サイズを測ったらギリギリだったな。まあ、ダブルに二人でってのも有りだけど」

 それまで余裕ぶっていた真理佳だったが、目を丸くして見る間に顔を染めていく。

 それを間近で見て可愛いと思ってしまうのは、僕の特権なのだろう。

「YESと受け取らせてもらうよ」

 それまで目も合わさず、何気ない会話を装っていたのだが、最後の言葉は正面から目を見て言った。婚姻届は難しいだろうけど、同棲気分を存分に味わおう。

 婚約指輪や結婚指輪は無理だとしても、ペアリングを交換して誓いを立てて、朝から晩まで一緒にいて安心させてやりたいと思う。

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