第56話 白雪姫は永遠に眠る 9

「首尾は?」


「完璧だ、爆薬の配線に不備なし、発火すれば連鎖し、あの小屋を完全に焼き付くすだろう」


「こちらの首尾も完璧よ、さぁ王妃様、あとはこの発火装置を起動させるだけ、それで白雪姫を抹殺出来るわ」


 皆が寝静まった夜分、王妃とティムとアリシアは、白雪姫の抹殺という任務を果たす為に、七つの山を超えた小人の家にて、を決行していた。


「ほ、本当にやるのか、このような惨い事を、白雪姫のみならず、ツヴェルクもいるというのに・・・」


「怖気付いたの?、殺らなければ殺られる、それが貴方の運命でしょ、だったら自分の運命を切り開くために、犠牲を払うのは当然のことわりよ!」


 未だ桃太郎の想区で地獄を見た影響が残っていて、アリシアもティムも、他人の命に対しての執着が薄くなっているために、王妃を唆すような言動も出るが。


「や、やるしかないのか・・・」


 既に三度白雪姫の殺害を企てているとはいえ、王妃にとっては予定調和であり、失敗すると分かっていての行いだった。

 本気の殺人を行う覚悟なんて持ち合わせていない。

 それでも王妃が白雪姫を殺す事に執着するのは、だから。

 だから、役割を果たさなくては、自身の存在価値を示す事が出来なくなってしまう。


「別に死んだからって誰もあんたを責めたりなんてしねーよ、あんたは自分に降りかかる火の粉を払っただけで、あんたが殺らなくてもいつか人は死ぬ、この弱肉強食の世界において人の死は全て運命が決める事だ、死人に口なし、恨まれようと呪われようと、生きたもんが勝者だ」


 ティムもこの作戦の遂行に女装は邪魔と本来の姿に戻っていた。

 男だと知った王妃はたいそう驚いていたが、男だと知られたおかげで、王妃の処刑リストからティムは除外される事になった。

 仮にシンデレラ化するのがアリシアだったなら、王妃とここまで打ち解ける事も無かっただろう。


「生者は勝者、死者は敗者か、至言であるな、だが・・・」


 王妃は逡巡した。

 白雪姫を殺す事。

 それが自身の役割だと知っても、だけは宿らない。

 やらなくてはいけないと分かってもいても、出来なかった。


「なぁお嬢サマ、流石に無理強いするのは良くないんじゃないのか?」

「そうね、見た感じ、愛情?、みたいなのは持ってるっぽいし、これ以上唆すと王妃様の心が壊れかねないわね」


 震えかながら葛藤している王妃を見兼ねて、ティムとアリシアは作戦の中止を提案する事にした。


「しゃーない、今回はナシにするか、まぁ、あんた自身の問題だからな、俺達に口出しする権利なんて無いさ」


 そもそも空白の書の持ち主が不必要に物語に関わること自体がバタフライエフェクトを生み出す原因となる。

 むしろ中止になるのが喜ばしい事だとティムは嘆息した。


「さて、撤収するわよ、って、あれ、ティムくん、なんか焦げ臭くない?」


 違和感を感じて王妃を見てみるが、発火装置には触れていない。

 一体どういう事だろうと家の方を見てみると。


「そんな馬鹿な・・・、いや待て、離れろお嬢!」


 ティムはアリシアを引き寄せて一気に覆い被さる。


 直後。


 花火が広がるかのような、連鎖する爆発が一気に周囲を吹き飛ばし、ツヴェルク達の家は炎上した。


「・・・そんな馬鹿な!、火薬の量は家の壁を吹き飛ばす程度の分量にしてあった筈だろう!」


 ティム達は王妃を唆して今回の作戦を企てたが、レヴォル達もいる為に、本気では無かった。

 あくまで威嚇行為として、レヴォル達に、自分達の行動を知らせる目的でしか無かったのである。

だがしかし。


「おそらく、今のはからの爆発ね、燃えやすい鉱物や、もしくは火薬が家の中に備蓄されていて、火薬庫のような状態になっていたのでしょう」


 ツヴェルクは土の妖精である。

 故に鉱物の収集を生業とし、それを採集する為の火薬だって当然もっている。

 故に今回、思わぬ形で大災害となってしまったのは、ツヴェルク達の持っていた燃焼性の高い鉱物と、火薬のせいだった。


「ああ、ああ、なんて事を・・・、何をしている、早く、助けねば!」


 王妃は我を忘れたように炎上する家屋に突っ込んでいくが、ティムとアリシアは、横から王妃の両腕を掴んで止める。


「無茶だ、こんな火の中に突っ込むのは自殺行為でしかない、消火するのを待て」


「じゃあ、早くしろ、このままでは白雪姫が、私の娘が死んでしまう!!」


「ティムくん!」


「任せろ!接続コネクト・・・今日は私が魔法をかけてあげる、飛んでっちゃえええええ!」


 ティムは即座にドロシー(サマー)に接続し、必殺技による波乗りを起こす事で、大量の海水を浴びせて即座に鎮火させる。


「白雪姫は、白雪姫は無事なのか!」


 王妃が崩れた家屋に乗り込む前に、人影が家から出てきた。


「白雪・・・姫・・・」


「お義母さん・・・やっぱり、お義母さん、なんだね・・・」


 白雪姫は問い詰めるように王妃と向き合った。


「それ・・・は・・・」


 王妃にその意思は無かったとはいえ、その役割を他人に被せる事は出来ない。

 それが、予定調和で成り立つこの世界の法則ルールである。

 王妃は否定せず、ただ沈黙した。


「ティム、アリシア・・・」


 遅れてレヴォルとノイン、そしてツヴェルクも廃屋の外へと出てきた。


「やっぱり王妃の仕業なのだ」

「ここで会ったが百年目なのじゃ、もう許さないのじゃ」

「儂らの家を壊した報いを受けるのじゃ」


 ツヴェルク達も自分たちの家を壊されて、怒り心頭と言った様子で憤怒の表情で王妃を睨みつけている。


 なんとなく事情を察したレヴォルは、この場をどう治めるべきかを思案したが、この対立こそが必然なのだとしたら、もはや成り行きに任せるしかないと静観する事にした。


「・・・ふふ、あははははは、失敗するなんて、傑作ね、今度こそお前を殺せると思ったのに」


 王妃は道化を演じるような気持ちで、冷酷に嘲笑して見せた。

 だが、その痛々しさを知っているのはティムとアリシアだけである。


 王妃の冷笑を受けた白雪姫は、今までどんな仕打ちを受けても、王妃との和解を諦めていなかったが、ここに来て初めて怒髪天に達し、怒って見せた。


「・・・許さない、私だけじゃなくて、小人さんと、私の王子様を傷付けた事、絶対許さないんだからああああああああ!!!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る