第51話 白雪姫は永遠に眠る 4
「旅芸人のフリをして王妃に取り入るっていっても、具体的には何をすればいいんだ?」
「そうねぇ、旅芸人も芸を抜いたら馬の骨の旅人に過ぎない訳だし、よっぽど面白い芸を見せない事には、王妃に推薦して貰うのは難しいでしょうね」
ティムとアリシアは王都を探索しながら、如何にして王妃に接近すればいいかを相談していたが、即決できる名案は思い浮かばなかった。
「まぁ芸がつまらなくても、王妃に接近する方法がない訳じゃないんだけど」
「というと?」
「お金よ、欲深い小物感丸出しの大臣に賄賂を送れば、王妃に面会する位の融通は効かせられるわ」
「信用も金で買える、か、だけど今回の行軍で所持金は大分心許ない具合だが・・・」
「稼ぐ方法なら山ほどあるでしょ、いざとなればキュベリエ脅して借りればいいんだし」
「ーーーっ、暖かいお茶を飲んでいるのに唐突な寒気が・・・、これはカオステラーの予兆ですかね・・・?」
女神キュベリエは自身の住処である泉の祠にて寛いでいると、突然の悪寒に肝を冷やした。
「まぁ、いざとなればまた彼らになんとかしてもらいましょう、ふぅ、女神特性の一番茶を飲みながら寛ぐこの時間が一番の至福ですねぇ」
しかし基本的に呑気で朗らかな女神である為に、その悪寒の原因を深く追求しようとはせず、災難に見舞われるまで放置するのが常である。
女神は自身に与えられた休暇を全力で満喫していた。
「まぁ、金ならなんとかなるか、じゃあ何の芸をするかだな」
「定番を抑えるなら曲芸か踊り子、琴や管楽器の演奏なんかだけど、流石にそんな一芸、持ってる訳無いわよね・・・」
「うーんそれ以前に、秀でた一芸を追求するよりは、王妃の嗜好に合ったものを詮索した方が建設的かも知れないな」
「王妃の性格は・・・、自身の美貌に執着している事から考えれば、例えば飲めば美しくなる薬なんかを売り付ければ、その対価として鏡をせびる事も出来るかもしれないわね」
「美に関連するものか・・・、だったら芸術品や貴金属なんかも使えるかもしれないな」
お金は旅する上で両替が出来ず、想区によっては使えなかったり、安く取引する事になったりと何かと不便なので、お金の代わりになる物として、貴金属や宝石を貯蓄するのは旅をする上での常識だ。
それ以外にも、箱庭の妖精がそういった素材を利用して箱庭を開発してくれるといった用途もあるが。
「・・・でも素晴らしい献上品だったとしても、王妃が商人から直接買い付けるというのはやはり無理があるわ、高貴な身分の人間が簡単に下賎の民と拝謁されるのは沽券に関わる事、必ず臣下の人間が仲介に入るはずよ」
「じゃあ、王妃が「どうしても直接見たい」と思える物じゃないとダメということか・・・、ぱっと思いつくのだと王妃の事を讃えた詩を歌う吟遊詩人とかか?」
「「美」の要素が入って無いわよ、それじゃあただの怪しい変人じゃない、真面目に考えて頂戴」
機嫌悪そうに叱りつけるアリシアにむっとしながら、ティムは嘆息しつつぼやいた。
「つってもよお、俺達みたいな凡人に優れた芸や、感動させる美しい芸術なんて作れる訳無いだろう、策の方向性を一点に規定しないでもっと別の角度から攻略する手立ても考えてみようぜ」
そんなティムのアリシアの案の否定とも取れる消極的な姿勢に、アリシアは内心舌打ちしながらも、所詮は命のやり取りで背中を預けている様な状況でも無ければ、コイツは役に立たない男だと判断し、自力で考える事にした。
一緒に経験を積むという事は、その人のいい所だけでなく悪い所も目についてしまう。
旅をしている中でティムはどこか一歩引いた位置から俯瞰していて、孤立気味だからこそ、彼の空気の読めなさが際立つのであった。
「・・・いいわ、分かった、じゃあ私が本気で考えるから、ティムくん、私の頭を一発殴って頂戴!!」
「!?、急にどうした、気でも狂ったか!」
「私の頭の中は今、雑音だらけでモヤモヤしているから、拳骨でぶっ飛ばして頂戴!」
「いや、女の頭に拳骨なんて出来ねぇよ・・・」
「ティムくん、貴方、私に思う所があるんじゃないの!」
「な、何だよ、思う所って・・・」
「今なら殴られても文句は言わないわ、その代わり、殴っても殴らなくても、これからも私はティムくんを手下のように使う、だから、好きな方を選びなさい」
「無茶苦茶だろ・・・」
アリシアがそんな風に考えているのは、いつも自分に対して献身してくれているティムに対して苛立っている自分の狭量さに自己嫌悪を感じたからでもある。
故に、アリシアはこの提案を引くことをしない。
「・・・分かったよ、お嬢サマの命令は絶対、これからも存分にこき使ってくれ、どれだけ不当に扱われても、女を殴るのは無理だわ」
「その言葉が聞きたかったわ!」
ティムの降伏に、アリシアは嬉々としてはしゃいだ。
ティムは悪い予感が現実にならない事を祈りながら聞き返した。
「その様子、もしかして何か思いついていたのか?」
「ふっふっふ、聞いて驚きなさい、王妃様に接近する方法それは・・・」
「ティムくんシンデレラ化大作戦よ!!!」
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