第43話 Exterminate of the Re'volves
レヴォルが想像剣を使える理由は、レヴォルがこの渡り鳥の想区において、「ある役割」を担っており、その加護により、想区のストーリーテラーから加護を授かっているが故に使える、いわばその場限りの必殺技だった。
「レヴォル殿、あなたは確かに物語の担い手としての素養を持っていますが、それでもまだ、多くの物語達と邂逅している私達とは及びもつかないひよっこです、それにこの役割を他人に預ける訳には・・・」
「大丈夫です、俺はシェヘラザードの杖は使いません、自分の力で、あの島を断ちます!!」
レヴォルは言うや否や、是非を問われる前に前に立った。
想像を広げろ。
物語は生き物なんだ。
だから、人に影響を及ぼし、幸福と不幸を振り分ける。
俺が断つのは悪い物語。
人々を苦しめ虐げる、諸悪の根源を形にしたような悪夢の物語だ。
それを断つ光。
人々の心に希望を灯し、あまねく世界を照らす希望の光。
数々の英雄達が見せた、物語の本質で根底にある、人々の希望となるべき光だ。
そんな物語を紡いで、剣にする。
人々に未来を託し、全てを
世界すらも変える、無限大の
「
天に捧げるように構えたレヴォルの両手に光が集まり、やがてそれは空へと繋がる柱となるように天にへと伸びていく。
ジルドレの時とは違い、
一際大きな極光がレヴォルを照らすように、レヴォルの手には大きな剣が握られる。
「そうか、`選ばれし者´であれば、運命はその全てに加担する、貴方には、私達以上に大きな資格があるのですね」
「もしかしたら、我らの運命も、役割さえも、この瞬間の為にあったのかもしれない、そう思えるくらいの寵愛ぶりよ、渡り鳥がいなくなった今、この想区の主役は間違いなくレヴォル殿こそ相応しい、だからこその力か」
「・・・すごい」
レヴォルの持つ想像剣は、誰の想像も凌駕する程に規格外だった。
その大剣を一点に集中して振り下ろせば、島くらい簡単に消し飛ばせる程の力。
それが為せるのは、レヴォルだから。
ワイルドの紋章を持ち多くの英雄達と繋がれるレヴォルだからこそ、ヒーローの本質である希望を、数多のヒーロー達から借り受ける事ができる。
これはレヴォル一人だけの力では無い、これまで共に戦った全ての英雄の力を再現して、レヴォルはそれを束ねているに過ぎない。
創造主にも真似出来ないような、この世でただ一人、まさしくレヴォルだけの専用武器、それが
「あれは、王子サマの光か・・・」
「すごい、前の時よりずっと大きい、もしかしてレヴォル君はここで、何か特別で大切な経験をしたのかしら」
「分からない、でも、綺麗な光だ」
ノインは今まで見たどんな光よりも、レヴォルが見せたその光こそが美しいと思った。
それは本来は見えない光。
神仏に差す後光のように、見える人にしか見えない、存在しない光だから。
だからこそ、魅入られた人は、そこから目を離せない。
「なぁ、お嬢サマ、レヴォルに、出来ると思うか?」
ティムは言葉足らずにアリシアに問いかけるが、アリシアはそれでも理解できた。
「・・・シズヤの事?」
「ああ、多分、あいつも幽霊だ、本来存在しない義経の子供、だからこそ、あの島にいるんだろ」
「・・・そうかもしれないわね」
「王子サマとシズヤは仲良しだった、短い間だったが、それでもそれなりに親密になっていた、そんな相手を王子サマは、自分の手で消し去る事ができるだろうか」
「そうね、私が思うに、どんなくだらない物語でも、物語である以上はきちんとオチを付けなくてはならない、それが予定調和で成り立っているこの世界の
何の苦労も葛藤もない物語は、観客は安心して見ていられる代わりに、見識の肥えた観客にとっては退屈になりかねない。
脚本の完成度を突き詰めるなら、劇的で、どんでん返しのある波乱万丈な脚本の方が、観客に刺激を与えるという事においては都合がいいのだから。
「だとしたら王子サマはきっと、シズヤを消せないだろうな」
「そうね、でも、するべき理由を、ストーリーテラーは用意するのよ」
「・・・だとしたらままならねぇな」
「そう、この世は無情なのよ、無情で、諸行無常、なのよ」
レヴォルの光に惹かれるノインとは対照的に、ティムとアリシアはその光に僅かな忌まわしさを感じた。
その影がレヴォルによってもたらされた物なのか否かは、誰にも分からない事だ。
「なぁ、シズヤ、最後に、いいか?」
レヴォルは天を貫く程に伸びた大剣を構えながらシズヤを見遣る。
「・・・ああ、俺も、最後に聞いてもらいたい事がある」
自身の運命を察したシズヤも同じく、レヴォルと最後の対話を望んだ。
「俺はシズヤに出会ってよかった、過ごした時間は長くないが、一緒に暮らした事、冒険した事、話した事、全部俺の宝だ、だから俺は、お前が消えても、お前を一生忘れない、宝を、一生無くさない、ありがとうシズヤ、俺を、仲間にしてくれて」
「仲間・・・か、・・・俺も、レヴォルには感謝している、鬼としてレヴォルを倒そうとしていた俺を、レヴォルは信用してくれた、俺達の為に戦ってくれた、ありがとう、本当は俺も、レヴォルと一緒に旅に出て、もっと大きな冒険を何度もしたかったぜ」
「・・・シズヤ」
「だけど、俺はガキ大将だからな、分かってるよ、いざって言う時は兄貴が犠牲にならなきゃいけないって、あいつらがちゃんと三途の川を渡れるように、俺がついててやらないといけないから、だからレヴォル、・・・頼むぜ」
「ああ、任せろ」
レヴォルは両目から流れる雫も構わずに、ただ一点を見つめて、溢れ出す力の結晶をぶつける事に集中する。
しかし、脳裏にはシズヤや子供達との思い出ばかりが占拠し、シズヤを喪う事に抗っているのか、体は次第に震え始める。
「レヴォル・・・」
「・・・っ、大丈夫だ、俺は、・・・やれるっ」
どんな苦しみや悲しみも時間が解決してくれる事を知っている。
お姉ちゃんとの別れの痛みだって知っている。
だから自分に出来ない道理はないと言い聞かせても、やはり心も体も納得しない。
「くそっ、・・・なんで」
できると、やれるでは違うのだ。
どれだけ悲劇を知り、己の天分を知っていても、死んでもやりたくない事だけは、死んでも出来ない。
友を斬るなど一生に一度の事、それを遂行するに当たっては、シズヤの場合は未だ、条件よりも情が勝る。
両目から滴る涙は、レヴォルの心の悲鳴なのだ。
幼いレヴォルが、それは間違っていると引き止めている叫びなのだ。
だからレヴォルに、その感傷を振り払うことなど出来なかった。
それは得ようとして得られる物ではなく、無くそうとして無くせる物では無いのだから。
思い出が宝に変わるのは、全てを失った後だけ。
だから思い出なんかより、目の前にいるシズヤの方がずっと大事なのである。
「・・・大変申し上げにくいのですが」
それを見かねてこれまで見守っていたアカが、レヴォルに語りかけた。
何を申し上げにくい事があるのだろうと、レヴォルは顔を向ける。
アカはいつも通りの、レヴォルとは違い平静を装った面持ちで言った。
「シズヤは人間ですよ」
「・・・え?」
「え?」
「シズヤ、お前は他の子らと違い、赤子の時から育てていたのにどうして自分を幽霊だと思ったのですか」
「え、だって、俺も村の子供だし、本来存在しない筈の「義経の子供」なんだろう?」
「ええ、確かに義経の子孫は生き残っていないとされています、ですがそれはあくまで推測の範囲であり、実際には行方不明になっていたものの、討伐から逃げ延びた子供もいたという事ですよ」
義経には三人の子供がいたとされる。
正室である郷御前との間に男児と女児が一人ずつ、静御前との間に男児が一人。
その内、死んでいるのが確実なのは郷御前との間に生まれた女児だけで、男児は二人とも行方不明となり、その亡骸は確認さていない。
つまり、朝敵と定められた以上生かしてはおけないが、当時の始末を命じられた執行者達が、義経の英雄としての功績や、主君の親戚の血筋といった無視出来ない事情に感化されて、もし義経親派の人間が権力者となった場合に、いかんともすれば大罪人となる責任から逃れる為に、その幼い命を匿ったとしても不思議では無い。
頼朝が影武者を立て、島の殲滅を試みたのは、己の仇討ちを恐れての事。
頼朝は知っていたのだ、義経の子供が生きている事を。
「・・・確かに、俺、ガキ大将になるまで成長してるし、幽霊な訳ないか」
「・・・全く、早とちりも甚だしいですね、いいですか、あなたは義経の子供であり、同時に、私達の家族なのですから、勝手に死ぬ事だけは許しませんからね」
アカは力強くシズヤを抱き締めた。
その強さは、アカのシズヤに与える愛情の強さだ。
「ではレヴォル殿、やってくれますかな」
アオは確認する様にレヴォルに頼んだ。
「・・・っ心得た」
レヴォルは照れ臭そうに頬を赤らめながら、力を込める。
もう、迷いは無い。
「しかしこれだけの力、そのまま振えばとてつもない反動が来るに違いない、お守りとしてこれを使いなさい」
「シェヘラザードの杖・・・、いいのですか?」
「流石にわしらの我儘でレヴォル殿の体に無理させる訳にはいかない、これを使えば、反動はある程度肩代わりしてくれるはずだろうで」
「・・・かたじけない」
レヴォルは右手に剣を、左手に杖を持って跳躍した。
この島に繋れた、全ての因縁を断ち切る為に。
レヴォルは跳んだ。
「うおおおおおおおおおお、人々を苦しめ、死に追いやる、そんな理不尽な運命なんて、俺が切り裂いてやる、この世から、消えて無くなれえええええええええええええ!!!」
レヴォルの振り下ろした一撃は、島と衝突すると、光の柱となって空の彼方まで伸びていく。
島は跡形もなく消え去った。
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