第13話 創造主ジルドレ

 招かれるように開かれた城門をくぐり、広大な園庭を通り抜けると、絢爛豪華なチフォージュ城の中へと、レヴォル達はいざなわれた。


「ようこそ、真実の運命の紡ぎ手達よ」

「あなたが、ジルドレなのか?」


 敵意を感じさせないジルドレの慇懃な応対に、畏怖を感じつつも合わせ、言葉を交わす。


「いかにも、私がこの城の城主であり、この想区の王であるジルドレである」

「想区の、王?」


 ・・・確かにジルドレの横暴は領地における王にも等しい権力の成せる物ではあるが。


「滅びの運命を超越し、新たなる運命を紡ぎ、想区の再生と創造を成した私こそが、この想区における王なのである」

「運命を超越・・・?」

「ここからは私が説明しましょう」


 若い金髪ブロンドの理知的な少女が一例して説明する。


 クラリスと名乗る彼女の説明によると。


「本来、ジルドレ様に与えられた運命に、救済など存在しません、自ら犯した過ちによって裁かれるのが宿命でした」

 救えない悪人が救われないまま裁かれるのは当然ともいえるが。


「しかし、ジルドレ様は奇跡を起こしたのです、錬金術師プレラティの力により復活を果たし、自らの運命を乗り越えて、新たなる想区の運命を作り出したのです」

「想区とは一定の周期を持って定められた物語を繰り返す物、それに背くなんて話、聞いたことない!」

「それこそがジルドレ様が現人神である証、新たなる運命、即ち想区の根幹たる道筋を生み出したジルドレ様がこの想区の王であり、創造主ストーリーテラーなのでございます」


「・・・想区とは元々一冊の本が原典になっている、その原典のモデルになった人物ならば、想区を改変することも可能なのか・・・?」

「理屈じゃなくて現実として受け止めるしかないだろうな、想区の理なんて多種多様だ」


 ティムの指摘に添えるように、アリシアが言い放った。


「つまり、ジルドレは結末を迎えた後も想区に存在し続けて、自分の楽しみのために少年を略取し、虐殺している訳ね」

 この想区の謎を解く事、そしてジルドレの非道を止める事、それが今回の目的だ。


 アリシアの指摘に、すまし顔でクラリスは首を振る。


「確かにのジルドレ様はそういった悪事に手を染めていたのは事実ですが・・・」


 ジルドレは自らを恥じるように苦悶の表情を浮かべて弁明する。


「今の私は生まれ変わったのだ、に恥じる事のない自分でいられるように」

「今のジルドレ様は贖罪の為に生きているのです、元々運命の書に無理矢理従わされていただけで、本来はそのような悪逆に愉悦を感じるような非道な人物ではございませんから」


 この世界にいる人間は決して運命からは逃れられない、どんな高潔な意思を持っていようと、どんな美しい心を持っていようと、残酷な運命にねじ曲げられてしまう。


「そんな三文芝居で納得できると思うか?こっちはここから逃げ出してきた男の子から今も悪事を続けていることを聞いているんだぞ」


 それが自分の運命だったから、そう言われればそれまでなのかもしれないが、それでも罪を否定されるのは流石に癪に障る事だった。


「全く持って言いがかりです、証拠はあるのでしょうか?」


 四人は徹頭徹尾冷静なクラリスの対応に、息が詰まりそうになった。


「・・・秘密の部屋」


 それは青髯の物語における核心。

 数多の乙女が生け贄になった拷問部屋。


「そう、秘密の部屋よ!この城のどこかにはその秘密の部屋があるはず、それが証拠になるわ」


 アリシアの追求にも眉一つ動かさずに侍従であるクラリスは一言、主に許可を求めた。


「ジルドレ様」

「うむ」


「では私が案内しましょう、野良犬に城内を荒らされるわけにも行きませんので、どうぞ納得いくまで探索ください」

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