第四十八話:回想~過去の過ち
「俺は最悪な男なんだ。自分で決めたことも守れない。だからいつまで経っても自由になれやしない」
俯く。そうしたって何も変わらないのに、顔を曇らせる。それすらもくだらない演技に思えてくる。
『良いんじゃない。別に』
俺は顔を上げる。濁った感情で、だるくて重い頭を上げて、そう言った主に目を向ける。
『まだあんたは生きてる。終わってないよ』
馬鹿になどしていない。見下してもいない。優しく、でもしっかりとした口調で彼女は言った。
『まだ、終わってない。あなたは、なぜ生きてるの?』
そうだ。俺はまだ生きてる。失ったものは数多いが、それでも死んではいない。死んでもおかしくはなかったはずなのに、まだ生きてる。どうしてだろう…?
『ほら、暗い顔しても始まんないよ。今、何を考えた?今、何がしたいと思った?やるべきことは決まってるんじゃない?』
ふっと笑った。柔らかく刺々しさもない笑顔。なんでこんな簡単なことが自分でできないのか。覚悟は今、決めよう。
「やるよ。俺」
立ち上がる。
「クソみたいな心配かけて悪かった。誰に頼ったところで、自由になんかなれない。自分の足で、自分の頭で考えてやっていかないと、結局いつまで経っても同じ状態のままなんだって」
馬鹿馬鹿しい。
「本当にすまない。不満とか不安とかいろいろあるけど、一番の不満の種は俺自身なんだ。出来るのにやらない。なんだかんだ理由つけて、結局暗い顔しても、何も学ばずそれを繰り返す」
クソだ。
「そんなクソみたいな俺だけど、こうして今は冒険者やってる。剣握ってる。命賭けた毎日を送ってる。それでも決意が揺らぐなんて、覚悟がなかったんだ。そんな奴すぐに死ねって話だよな。でも、生きてる。やることは分かってる。馬鹿だけど、そこまで愚かではない」
だから…。
「だから、ごめん。行くわ。そして、ありがとう」
鞘に手を当てる。決意も固まった。
手を振り、その主に手を振る。
『行ってらっしゃい。もう繰り返すんじゃないよ』
そう、笑顔で見送られた。
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